隠ぺい試験の静かなる合格者発表

ちびまるフォイ

[ このタイトルは隠ぺいされています ]

「みなさん、日本人に求められる資質とはなんだと思いますか?」


試験参加者はこれも試験の一環なのではと、慌てて発言した。


「礼儀正しさです!」

「まじめなところ!」

「オタクで職人気質!!」


「いいえ、ちがいます。日本人に求められるのは――」


試験官はくす玉のヒモを引いた。


落ちてきた天井をとっさにかわした参加者は

2階からぶら下がる垂れ幕に目がいった。


「ずばり、隠ぺいです!!!」


試験官はテスト用紙を回しながら説明を続ける。


「日本は昔より忍者といた、隠密部隊による戦争を行っていました。

 そう、我々のDNAにもその誰にも気づかれずにことをあたるという

 現代日本とくに社会では欠かすことのできない資質が求められているのです」


「それで、このテストを答えればいいんですか」


「いいえ、ちがいます。このテストを隠ぺいしてください」


「えっ!?」


「試験終了後にまたここに来ますから、

 それまでにテストを隠ぺいできた人が1次試験突破です」


試験官が教室を出ていくと、参加者は慌ててテストを隠したり

細かくちぎってむしゃむしゃ食べ始めた。


一方で、俺は冷静だった。


「おい、お前! もうすぐ試験官が戻ってくるぞ!

 はやくテストを消さないと落ちちゃうぞ!!」


「ふふふ、すでに手は打ってある」


試験官が教室に戻ってくると、みんなの机からテスト用紙は消え射ていた。

試験官は机を巡回して回る。


「そこ、テストの切れ端が落ちています。

 隠ぺいはつねに証拠を残さないようにするのが鉄則。これはダメですね」


「あなた。持ち物チェックしてもいいですか?

 ああ、やっぱり。テスト用紙を細かく折って隠してもダメです。

 そこに証拠があると人は挙動不審になり、そこから隠ぺいが露呈します」


試験官のサーチアイが俺の机へと向かってきた。


「あなたは……隠す気がないのですか?

 そんな雑に机に突っ込んで隠した気になっているようでは――」


「先生、いったいなにをおっしゃっているんですか?

 これは今回の試験用紙ではありませんよ」


「は? 君こそ、なにを言って――」


試験官はハッとしてテストの時間割を確かめた。

俺の手によって巧妙に書き換えられた時間割になっていた。


「しかし先生。どうやら俺の机にはどういうわけか

 次の授業のテスト用紙が入っていたようです。

 カンニングだと思われても困るので、燃やしてきていいですか?」


「ふふ、やるじゃないか。許可しよう」


試験会場に備え付けてある火葬場にて用紙を跡形もなく燃やして隠ぺいした。


大切なのは教室内でのその場しのぎな隠ぺいではなく、

以下に本格的な隠ぺい工作ができる場所にアクセスするかが大事なのだ。


教室に戻ってくると、ほかの生徒から英雄扱いだった。


「お前やるなぁ! あんな隠ぺい工作があったなんて!」


「うちは両親がスパイだったからね。

 昔から隠ぺい工作と、根回しにかけては自信があるんだ」


「スパイってバラしちゃっていいのかよ」


「問題ないよ、すでに引退してメジャーに行ったから。

 それにこれも大切なプロセスなんだ」


試験官はふたたび教壇に立った。


「みなさん、一次試験お疲れ様です。

 では、ネタも尽きたので次の2次試験が最終課題となります」


参加者は生唾を飲み込んだ。


「次の試験では、この受験者評価シートを使います。

 後ろの席まで回してください」


シートには自分を含めた受験者の名前がリストアップされていた。

おそらくこのシートを使って試験官は評価を下すのだろう。


「このシートの評価点で合格不合格を決めます。でははじめ」


「はじめって……なにすればいいんだ」


自分の手元に、自分を評価するシートを渡されただけ。

評価点が高ければ合格というのであればやることは一つ。


自分の評価点をめちゃくちゃ高く記入する。


が、同じことをほかの受験者も試していた。


「なんだこれ!? 自分のところが記入できない!」


自分以外しか記入できないことに全員が苦しみあえいだ。

そのうえ、他人の評価をよくすれば、自分の評価が落ちる。


すぐに問題の意図を知った人たちは、用意していた軍資金を試験官の前に持っていく。


「お願いです、どうかここはコレで納めてもらえませんか」


「あの用紙は受験者を認識しているんでしょう。

 だったら先生は受験者じゃないから僕のシートを入力できるはずです」


「ほんのお気持ちですから。うちの父は政治家なので、これも一つの人脈と思って……」


すりよる受験者を試験官は足でどかせた。


「金やバックグラウンドに頼るのは隠ぺいではありません。

 一種の恐喝ですよ。これ以上試験の邪魔をするのであれば許しません」


「ひぃぃぃ」


受験者は八方ふさがりだった。そして答えを求めるように俺に視線が集まる。


「――みんな、集まってくれ。この試験を突破するには一致団結が必要だ」


「協力するったって何する気だ?」


「他人の評価をみんなで談合して記入していくんだ。

 自分の評価は記入できなくても、他人の評価は記入できるだろ」


「バカ! 他人を評価したら、自分の評価も下がるんだぞ!

 回し書きしたところで、プラスマイナスぜろだよ!」


「よく見るんだ」


他人の評価を記入したときの加点分と、

それにより減算した自分のポイントを比較した。


「そう。他人を評価すると+2点。それにより自分はー1点。

 お互いに相互評価を続ければ、お互いのポイントが増えていくんだ」


「みんな! お互いに好評価を送り合おうぜ!!」


ついに教室は一体となり、隠ぺいには欠かせない「談合」のきずなが生まれた。

その美しい光景に試験官は涙を流した。


「ブラボー。これこそ日本人の姿……!!」


かくして、試験は終わった。


「みなさん、隠ぺい試験お疲れさまでした。

 合否に関しては数日後に掲示板が出ますので今日は帰って大丈夫です」


受験者はぞろぞろと教室を後にした。




数日後。


掲示板には大きな文字が書かれていた。



【合否に関しては隠ぺいにつきノーコメント。】

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