第4話 3度、冬の大気の温度

 ぼくはその後精神病院に連れて行かれた。医師は統合失調症だと診断を下し、リスパダールという抗精神病薬を出した。すぐに、ぼくは副作用に苦しみ始めた。脚がだるくなり、落ち着きが失われ、思考がまとまらなくなった。ぼくはしかし、黙って耐えた。3回目の診察の時、ぼくはとうとう音をあげて、医師に相談した。医師はエビリファイという新しい薬に処方を切り替えてくれた。副作用は収まり、ぼくは少しずつ元気になった。


 11月に入る頃には学校に行けるようになった。ぼくは友達が少なかったから、誰もなぜ休んでいたのか訊かなかった。ぼくは黙っていた。そして、卒業して街を出たいと、強く思った。ぼくは志望校を東京の国立大学に決めた。しかし、そこで親が反対した。曰く、大阪から出るのは許さない、実家から通える京都の大学にしなさい、と。ぼくは争わず、しかし黙って東京の大学に願書を出した。数週間後、それが発覚して親と口論になった。ぼくは受験票を持ったまま、家を飛び出して夕刻の街へ出た。雪が降っていた。ぼくは街をあてどなく歩き回り、2つ先の駅で電車がやって来ては出て行く様子をじっと見ていた。そして、真っ暗になってから家に帰った。両親は激怒し、もう少しで捜索願を出すところだったと怒りをぶちまけた。ぼくはほとほと嫌気がさしたが、想像の中で両親を包丁で刺して殺すにとどめた。


***


 ぼくは無事第一志望の大学に合格し、大阪を離れた。

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脳の融点 安崎旅人 @RyojinAnzaki

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