ねこの大冒険

蒲生 竜哉

ねこの大冒険

 ぼくルーちゃん。こねこのルーちゃん。

 ぼくね知ってる。なんでも知ってる。


 みんなはこねこっていうけれど、ぼくね、なんでも知ってるの。

 だってぼくもう大人だもん。

 ぼくは新町の公園で生まれたの。兄妹三人で遊んでいたら、なんだか人間に捕まっちゃった。


 兄妹三人、ちりちりばらばら。それぞれ違うお家に貰われた。

 僕のお家は田舎のお家。お庭が広くて古い家。

 人間四人とそして猫。みんな優しくて、とっても楽しい。

 ご飯もあるし、何よりとっても暖かい。


 あのね、カサカサ。あの袋。

 ぼくね知ってる、あれの中。中には美味しいものが入っているの。

 だってこの前開けたもん。爪でひっかけたら穴あいた。あいた穴からカラカラ出てきた。とってもとっても美味しいの。だからたくさん食べちゃった。


 そうだ、あのね、ここにはね、キキ姉さんがいるんだよ。

 キキ姉さんは美人猫。グレーの毛皮にながーい尻尾。耳がなんだかくるっとしてる。

 僕と同じしましま尻尾。

 僕は茶色い猫だけど、キキ姉さんはグレーの毛皮。なんだかゴージャス、ピカピカしてる。


 キキ姉さんはとっても気高いの。とってもとっても気高いの。だから、僕は話せない。

 プロレスごっこがしたいけど、キキ姉さんは遊んでくれない。こどもの遊びはしてくれない。

 たまに飛びかかってみるけれど、シャッシャッ、パシッて怒るだけ。


 ある日、大冒険に出かけたの。

 いつもは閉じてる和室の障子が空いてたの。

 最初に出たのはキキ姉さん。するっと器用に外に出た。

 たいへん大変、これはたいへん。

 僕も遅れないように行かなくちゃ。


 お外の空気はとっても素敵。なんだかいろんな匂いがする。

 馬場さんちの犬のレオをからかいながら、ぼくらはお庭をそぞろ歩く。

 くんくんくん。

 今日もここは異常なし。お庭を回って表に回る。

 門を潜って大通りへ。

 ここは危ない、気をつけないと。宅急便が走ってる。


 でもキキ姉さんは慣れた様子。壁際歩いてお隣へ。

 ぴょんぴょん歩いて後を追う。

 置いてけぼりは大変たいへん。帰り方がわかんない。

 だから一生懸命追いかける。

 ぐるっと回って大通り。


 通りを歩くのとっても怖い。

 キキ姉さんはスタスタ渡る。でも、怖くてすぐには走れない。

 お尻をモズモズって振ってから、ぼくは一気に駆け抜けた。

 壁の前で急ストップ。勢い余って壁に乗る。


 塀の上から下を見る。キキ姉さんは手慣れた様子。座って尻尾を舐めている。

 斉藤さんちはすぐ隣。畑をやってていい匂い。

 トマト、とうもろこし、おナスにきゅうり。食べられないけどいい匂い。

 畑の匂い、土の匂い。

 とってもとってもいい匂い。


 斉藤さんちの縁の下、おしっこしてからまた外へ。

 慣れた様子で吉田さんち。

「あら、来たの?」

 吉田さんが笑ってる。

 笑うの大好き。笑ってくれるとみんなが優しい。

「お連れさん? 大変ね」

 吉田さんは鰹節くれた。お皿にどっさり、山盛りで。

 キキ姉さんと二人で食べる。

 ウニャウニャウニャウニャ。

 美味しいな。うちでもくれるといいのにな。かつ節大好き、美味しいな。


 キキ姉さんは歩くの早い。

 スタッと塀の上に乗る。

 たいへん大変、遅れちゃ大変。キキ姉さんの後ついて、一生懸命追いかける。


 乗っかったのはうちの塀。ぐるっと回っておうちの庭へ。

 カシ、カシ、カシ。

 帰りの合図。

 キキ姉さんが窓を掻く。肉球使ってガラスを叩く。


 大冒険はもう終わり。

 タタタタターって台所。

 山盛りどっさりいつものカリカリ。

 二人でもぐもぐたくさん食べた。

 たくさん食べて、もう一杯。

 もうお腹はポンポコリン。

 二人でソファの上にぽん。ぐるぐる回ってゆっくり休む。


 もうすぐテレビだ。ニュースの時間。

 ぼくは起きるとママを見た。

 ママも、パパも笑ってる。倫ちゃんも曜君も笑ってる。

 笑うの素敵。とっても素敵。

 

 ぼく、このうちにきてよかったな。

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ねこの大冒険 蒲生 竜哉 @tatsuya_gamo

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