とある少女

下上筐大

むかしむかしのそのまたむかし、いたかいなかったのか今では分かりようもないのですが、とある村に少女がいたそうな。

その少女は村の人からひどく恨まれていたそうです。原因はそうですね。一体なんだったのでしょう。原因があるとすればそれは他のなんでもない彼女自身だったんでしょうけどね。

彼女は毎晩願い続けました。欠かすことなく毎晩毎晩。辛かった彼女も願っている間は不思議と気持ちが楽でした。

「おい、おい、いつになったら出て行ってくれるんだ。邪魔なんだよ。村の厄災が。」

ああ、なんて、心無い言葉なんでしょう。彼女に一体何の罪があるのでしょうか。言葉は彼女の言葉を無慈悲にも蝕んで行きます。

「ああ、もうほんとうに何でこんなことに…あんたのせいよ!!」

ひどいことです。子供にとって絶対的な存在である親からもこんなに罵倒されると、彼女は一体何を支えにすればいいのでしょう。

彼女はついに寝込んでしまいました。もう動くこともできません。


とうとう彼女は祈ることもできなくなりました。欠かすことのなかった祈りもとうとう途絶えてしまったのです。


ある日、目を覚ますと、村の人がいなくなっていました。家の中ではお父さんとお母さんが2人で寄り添って寝ていました。仲のいいことです。もしかしたら、他の家の人たちもお父さんとお母さんのように寝ているのだろうかと思い彼女は他の家を覗き込んでみました。

案の定皆んな寝ていました。皆んなが皆んなバタッと倒れて、動きません。まるで数日前の少女です。


そのまま少女はその村を出て行きました。今では彼女はどこにいるのかも分かりようもないのですが、彼女は彼女で、そのことは、いつまでも変わりません。

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