水晶占い

下上筐大

老婆

「お兄さん。ほら、そこのお兄さん。どうだい。占っていかないかい。無料で占ったげる。なに悪いようにはしないよ。」

帰り道を歩いていて、声をかけてきたのはいかにも胡散臭い怪しい、けど、服装だけはそれっぽいお婆さんと言っても構わないように見える年齢の女性だった。

「いや、そういうのは間に合っているので…」

こういうときの常套句といってもいい言葉だ。走って逃げてやろうかと思ったとき、老婆は口を開く。

「お兄さん。ここで、私があなたに会ったのは運命ですよ。あなたがここで占わなくても、いつかは私に占われる運命なんです。そういう風に運命づけられているんです。」

はあ…運命…ね。一体何を言っているんだか。やっぱり走って逃げることにした。


翌日。昨日と帰る時間を少しずらして帰った。道中やはりというか老婆はいた。まるで、タイミングを見計らったように。

「お兄さん。ほ…」

僕は走ってその場から立ち去った。


翌日。やはり昨日と帰る時間を大幅にずらして帰った。二時間はずらした。

はたしてというか、やはり老婆は帰り道にいた。同じ場所で僕がいつ帰ってくるかを知っているかのように。何か言おうとしていたが、そんなのはもう聞くはずもない。僕はとっとと走ってその場から去る。


翌日。やっぱりというか、なんというか、わざわざ遠回りをして、帰り道を変更したというのに、老婆は僕の帰りを待っていた。時間もずらして場所もずらして、それでもダメなら、もう引っ越すしかないのだけど…そんな財力はないのだし…僕は観念し


「お兄さん占いはいかがです?今なら無料ですよ。」

「ええと…占いお願いします。」

「はいはい。」

ニヤリと笑う老婆

「それじゃ手を出して」

いわゆる手相を見るのだろうか。

「いい手だね。綺麗な手だ。手相もいい。特にこの生命線が…」

胡散臭いなあ。なんというか、生命線とかそんなの信じないし。

「さて、手相はみたので、次は水晶に手を置いてください。」

「ええ、はい…」

正直早く終わらせてしまいたかったので、僕はとっとと水晶に手を置いた。


そして僕はその場から世界から消えた。



目を覚ますと、あれ、目を覚ましたのだろうか。本当はずっと目は覚めていて、もしくは今は夢の中でにいて、あれ、目を覚ますってなんだろう。

外の景色が歪んで見える。歪で歪んでいる。僕の頭上には、皺の生い茂る汚い手。

外に、人がいる。あれ、どこかでみたことがあるなあ。あの人。どこで見たんだろうか?


「お兄さん、ほらそこのお兄さん。どうだい。占っていかないかい?無料で…」

あれ?どこかで聞いたようなセリフ。そして次にこう言うんだ。

「いや、そういうのは間に合ってるんで。」

ああ、そうか。次は失敗しないようにしないと。


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