どこにでも居そう、という言葉の辛辣さを感じさせるくらいに主人公は平凡で、冴えなくて、まっさらです。
三十手前の人が思い描くことと言えば、出世や貯金、仕事に結婚。
勿論それは彼も意識してるけども、意識するだけ。きっと無理だと。
そんな彼に、遅れた青春がやってきた。
お気楽ギャルの佐倉。明るく年相応的で愛らしい彼女は、いつの間にか幽霊になってしまっていた。
遠慮のないギャルと、冴えない男との、結ぶタスキを必要としない二人三脚は──とても尊い。
絶妙な距離感、くすぐったいジェネレーションギャップ、可愛いやりとり。
是非とも皆さんにも彼らの青春を見つめていただきたい
きっと、色んな記憶を思い出すから
まず、魅力的なのが
日常に絶望している主人公と
絶望な日常に一変してしまったJKの二人のキャラクター像。
ラブコメ小説において、
こんなにも恋愛に対して「熱量のない」主人公が今まで居たでしょうか?
少なくとも私は初めてです。
どこか人生に達観を持って、それでいて日常に絶望する主人公の胸のうちがありのままに描かれています。
しかし、そんな達観は誰しもが少なくとも持つものだと思います。
私もまた、同じような考えかもしれない。主人公に強く共感しました。
そんな時に出会ったJKギャル子が、いい子なんです。
絶望している主人公に何かしらの転機を与えてくれる。
そんな立ち位置に彼女は描かれています。
しかし、彼女にはまた彼女の苦悩が描かれていて…。と、
続きはお読みいただいてこそ、お分かりいただけると思います。
変わらない毎日とその延長線上に望みを見いだせずにいた、死んではいないけど惰性で生きている凡庸なアラサーリーマン、優人。
そして何処にでもいるようなギャル系のJKでありながら、気づけばこの世のものではなくなってしまっていた少女、凪音。
二人の出会いは本当に些細なきっかけ。けれど、最初は取るに足らなかったその小さな変化が、やがてとてつもなく大きな波紋となって、生きることを忘れていた優人に、その感覚を再び教えてくれるのです。そしてやがてその変化は優人だけに留まらず、彼の同僚やそのきっかけを与えた凪音自身にまで波及して、果ては読者であるあなたの心にまで、何かを語りかけてくるでしょう。
またこのお話はとにかく読み易く、枯れた大地に水が染み込んでいくように、ごく自然にあなたの心の奥底にまで浸透していくと思います。
そして誰しもが一度は胸に抱きながら、その奥底にしまったままの想いがあると思いますが、この物語を読んでいくうちに、あなたの中で忘れかけていた何かが、再び呼吸をし始めるかもしれません。
私はこれまで、ラブコメというジャンルには興味を持って触れたことすらなかったのですが、この作品には見事、ハマってしまいました。そこのあなたもぜひ、最初の一話だけでもまずは直接触れてみてください。
気づいたらもう、取り憑かれちゃっていますから。
最初がほっこりするような話が多い、というかほとんどそうでしょう。
キャラも可愛くて、話のテンポも良くて、読んでいて何の苦痛もないです。
しかし、物語が進んでいく内に二人はすれ違っていきます。
表面上は何の問題もなく見えます。
しかし確かに、少しずつ二人の心は遠く離れていくのです。
お互いがお互いを思いやるが故に、愛ゆえに。
ただほんわかするだけではなく、ただ悲しいだけではく、温かくて悲しい話というのは、作者の文章力あってのものです。
キャラも魅力的で最初から最後まで読んでいて飽きません。
是非皆様にも読んでいただき、またこれ以上に評価されてほしい作品だと思います。
アラサー社会人男のもとにJKの幽霊が転がり込んでくるラブコメ。
他人に興味を持てず生きる意味を見失っていた主人公が、すでに命を失っている少女と交流して変わっていく様子が描かれます。少女は少女で死んでしまったことへの失望感やこれからどうなるのかへの不安を抱えており、主人公と共同生活を営むうちに癒されていく……という構図がお見事。
主人公が生活を取り戻していくにつれて二人の心はどんどん近づいていきますが、その間には生死という決定的な断絶が横たわっています。
生きている者は先に進まなければならないのか。
死者と共に歩むことはできないのか。
二人の関係は最初から終わりを約束されているかのように感じられ、だからこそ最後まで見届けたいと思わされます。