**エピローグ**
「ルゥク!こっちのリンゴも食べたい!」
「こら、もうすぐで陛下にお会いするんだ。帰りに買ってあげるから今は我慢しなさい」
「おや、ルゥクくん、ラオくん、陛下に会いに行くのかい?」
八百屋のおばさんが話しかけてくる。
「ええ、陛下に呼ばれていて」
「そうかい、じゃあこのフルーツを持っておいき。陛下によろしくね」
八百屋のおばさんはかごいっぱいの果物をくれた。俺はそれを受け取って微笑む。
「ありがとうございます!また帰りに寄りますね。あ、ラオ待って!」
シグレがクレタス王国の前王を殺し、改革をしてから四年が経った。今やクレタス王国に戦争の色など微塵もなく、人と人ならざる者たちが共存する国となった。俺たちは毎日のように城下町へ遊びに行き、人の子と遊んだり買い物をしたりするようになった。人々の俺たちへの目も四年かけてやっと優しいものに変化した。もはやこの国に住まう者たちに種など関係ないのだ。
そして俺たちは国王陛下の友人としてこうして城に招かれるのだ。
「久しぶり、ラオ、ルゥク。元気か?」
「お久しぶりです、元気ですよ陛下」
「ルゥク、その口調はやめろといつも言っているだろう」
シグレはいつもの複雑そうな表情をする。俺たちはこれが面白くてラオと二人でいじる。
国王になったシグレは国王を殺した後、人と人以外が住める場所にすること、戦争を直ちになくすことを全国民に宣言し、その協力者に俺たちを命じた。
もちろん、すぐに全国民が賛成してくれたわけではない。だがシグレが国王らしく仕事をする反面、国民のように仕事の合間に城下に遊びに行くためだろうか。あまり長い間シグレに反感を持つ者はいなかった。
「どうですか、お仕事は」
「ラオ、少し見ないうちに大きくなったな」
シグレは愛おしそうにラオの頭を撫でる。シグレにとってラオは弟か息子のようなものなのだろう。
「最近、人外が起こす事件が起こって困るよ」
「なるほど、それで俺らが呼ばれたわけか」
「そういうこと。頼めるか?もちろん事件の詳細と追加の情報はこちらから提供する」
「わかった。クラルーサを使っても?」
「もちろん」
「了承した」
人と人ならざる者が共存すると、新たな事件を生む。だがそれは人だけが生活していても同じことだ。ただ特殊能力を持つだけ。そう考えたシグレは俺たち二人を人外の起こした事件や事故を処理する特殊部隊とした。そしてその組織をクラルーサと名付け、たまにこうして俺たちを呼び出すのだ。
「ところで国の情勢はどうだ?」
「よくはないけど、悪くもないね。ま、俺は国民が少しでも幸せになれるように手助けするだけさ」
シグレのいつもの言葉だ。シグレは国王だからと下手に気負うことをせず、人々の絶えない欲求をうまく解決に導いていた。これもまた、人から信頼されたきっかけの一つだろう。
「ところでそのかごはなんだい?」
「シグレさん聞いてください!町の八百屋のおばさんが陛下にってくれたんですよ!」
「そうか。あの商売上手のおばさんかな?ありがとうと伝えてくれ」
「わかりました!」
ラオもシグレが国王になってからは明るくなり、あまり怯えたり泣くことをしなくなった。ラオにとってはこの国は住みやすい場所になったのだろう。
もう一つ、変わったことがあった。それは俺自身の視界のことだ。以前はそれどころではなかったから気にしていなかったのだが、世界が美しく見えるようになったのだ。夕暮れ、朝焼け、雨の音、虫の声さえも美しく聞こえ、自分がいかに閉鎖的に生きていたかを思い知らされた。だから俺はそれからというもの、たくさんの人に出会うようにしている。せっかく会える人がそこにいるというのに、会いに行かないのはもったいない。そう考えるようになった。
「そろそろ帰るよ。久しぶりに会えて嬉しかったよ」
「俺もだよ。また遊びにおいで。ラオもね」
「うん!」
二人は手を繋いで帰路につく。たまに寄り道しながら。笑い合いながら。太陽に照らされて光り輝く森に歩いていく。その美しい二人を誰かがこう呼んだ。
『西の森の聖獣』と。
彼らの波乱万丈な人生はこれからも続くことだろう。
人狼は孤独を駆け行く 夕凪 奏 @kureha_0023
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