星の子へのプレゼント

阿房饅頭

星の子は空を漂う

その世界に神様なんていなかった。

多分、そこにいたのは私だけだった。

スターチャイルドなんて、呼ばれる星の子の私だけだった。

私はそこで神様なんてあがめられたけど、私が知っているのはこの星がまぁるい世界であることと、星の核をずっと抱いているだけ。

みんな、それを神様なんて言うけど、私はただの星の子。

光輝く星から株分けされたただの星の子。

それに星の核は大きくて邪魔だから蒼い色のイヤリングにして、ただ下にいる何かを見守るだけ。

時々、私に話しかけてくる人たちは、二つに縛った私の金色の髪を美しいをほめちぎり、とび色の瞳をたたえて、女神様だという。

何でだろう。

私は星の子。

ただの少女の姿をした星の子であり、それ以上でも以下でもない。

退屈な退屈な下界を見ながら、星の核を持っているだけの非常に暇な日常を送る現象でしかない。


「どうか、私たちをお見守りください」


最後にそんな飽きるような言葉を言いながら彼らは去っていく。


何て、とても、すごく、

つまらない。何てつまらないことだろう。


そして、ある少年が空を飛ぶ私の元にやってきた。

彼は翼をもって、空を飛ぶ少年だった。


「どうして、君はそんなに寂しそうに俺たちを見ているんだ」

「そんなの知らない」


私の顔なんて、誰かから見たらそんなものなんだろう。

けれども、他の人は私のことをそんな風に言うことはなかった。

何でだろう。彼だけは私を見ているような気がした。

私は気まぐれに彼の翼に乗ってみることにした。

彼の翼はただバタバタと風に乗る鳥を模したものであり、この世界に遍く伝っている魔力と風の力を利用したものだった。

それは一般的なものであり、私にとっては取るに足らないもの。

2人乗りの飛空艇。


星の子だったら、そんなことを使わずに空を漂える力を持っていた。

けれども、彼の手を私はとってしまった。


おもしろそうだと思ってしまったのだ。


赤毛の彼の目は神と同じように赤くてキラキラしていた。それこそ、光り輝く私たちの生みの星のように。

彼との旅は面白かった。

いつ落ちるかわからない飛空艇とその日暮らしの旅。

ドラゴンとも会って、逃げることもしたし、そういえば変な風の子と出会った。

とても楽しくて楽しくて、キラキラしていて短い時間だった。

彼は老いてしまったのだ。

私は永遠に年をとらない。


「大丈夫?」

「ああ、何とかまだ飛べる」


気づいたら、彼の赤い髪に白いものが混じっていた。

私は悲しくなった。、

娘のような姿をしている星の子の私には老いがない。


やがて、空を飛んでいた男にひとつの紙がやってきた。

それは大好きな彼のお母さんが殺されたという手紙だった。

彼は変わってしまった。


悪鬼の如く怒り狂い、獣のような咆哮を上げた。

そして、私はそれを止める為に彼にしがみつき、言葉を紡ぐ。


「やめて。そんなことをしてもあなたのお母さんは喜ばない」

「頼む。そんなことはわかっているだから。君の子を守ってくれ」


私の成長しない体の足にしがみつく、金色の髪と赤い目をした私の顔をした女の子が一人。

彼と私の間に生まれたその子は私と連れ添うことができるただ一人の星の子のスペア。

そして、私がただ一人彼以外に心を許せるその子。


「その子さえいればいいんだ。君は寂しくないだろう。俺はいつか死ぬ。その子は君と一緒にいる。だから」


彼を最後まで看取りたかった。

なのに。

彼は私のもとを去ってしまった。


私はこのことをずっと後悔している。私と同じ顔をした少女の顔の目は私と違って、赤い目。

私はただ、そのことを思うと寂しく思う。

ぎゅっと彼女を抱えて、星の核を投げつけてこのまま星を壊したくなる。


「ねえ、ママ? お父さんはどこに行ったのかな」


私は彼の復讐の話を風の便りで聞く。

辛くなってくる。

そして、彼は帰ってきた。

傷だらけの姿で。老いた姿で。


「何で帰ってきたんだろうな。自分はもう帰ろうとは思わなかったのに」


彼はゆっくりと通る声で、老いた声でその言葉を告げる。

私は何も答えない。


「怒っているだろうな。そりゃ仕方ないだろう。けれども、渡したいものがあるからここに来た」


それは青い宝石を付けた指輪だった。


「それなに?」

娘は無邪気に問いかける。私も分からなかった。


「下界では結婚したら、結婚指輪を左手の薬指につけるのさ。それを渡していなかったから。色は星の核と同じ蒼」

それは遅い気がする。

もっと前の方が良かった気がすると私は思う。だから、私は遮ろうとするが、


「ママとお父さんは結婚したんだからつけてほしいんだよ。だって、幸せだったんだから」


娘が言うことに彼は自分の娘の頭を撫でて「ありがとう」と告げる。その眼には涙が浮かんでいた。

ごつごつとしたその手は武骨で娘には似合わないその手で撫でる姿は何故か滑稽なはずなのに、私は泣いてしまいそうだった。

だから、彼のわがままに星の子の子供である人の結婚指輪を受け取る。


「ありがとう。本当にすまなかった」


彼のしわくちゃの顔はとても満足そうで、そのまま終わってしまう。

朝日を背景に輝く星が私たちを見つめる。

そんな中、私への最期のプレゼントは終わり、彼の笑顔が忘れられなくなってしまった。

私は沈む飛空艇をゆっくりと地上におろして、最後に告げた。



「私こそ、このプレゼント嬉しかった」

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