少年の疾走 3

ガヤガヤ

店の中は賑やかだ。

室内は落ち着いた雰囲気だ。置物なども店主の趣味か洒落た物が多い。またいつか行きたいと思った。


隣に酔っ払った須賀先生がいなければなあ!


ここは居酒屋。『苦羅魔』の人々はこれから何か用があるとか言ってバイクを思いっきり走らせて去っていった。

そして俺は須賀先生に肩を掴まれながら、この居酒屋に連れてかれた。

ちなみに俺は特製ジュースを飲んでいる。意外と美味い。

「しょれじゃしゃかみょときゅん、ひゃなしを聞いてくだしゃい」

先生は酒に弱いのか、まだ生ビール一本しか飲んでないのにもう呂律が回ってない。ここは須賀先生の行きつけらしく、マスターが手慣れた動作で毛布をかけていた。……え、これ寝言なの?

「まじゅはー、しゃっきの集団の事でーす、ヒックッ」

「は、はぁ」

「アリェはワタシィが作った族の2代目だったのよ〜」

(彼らの言動から暴走族の上の位と思ってたけれど……あれ、普通に喋れてね?)

「私の家は仲が悪くてね、それが嫌になって家を出て暴走族とかになっちゃえ〜、ってテンションでやってたら本当になっちゃったからびっくりしちゃったよ」

先生の話は続く。バイクに乗れなかったからスクーターを使ったいた事。有名な暴走族とガチ喧嘩した事。そして辞めた理由も話してくれた。

「ある時にさ、25歳ぐらいの男が来てさ、3分で仲間がやられちゃったのよ」

なんでも、武術の使い手だったらしく、先生もやられたらしい。

……先生倒せる人いたのかよ。

そして、自分を倒した男にリベンジする為に暴走族を辞めたらしい。

その後、リベンジする一心で体育大学やジム、道場で鍛えた結果、今の先生が誕生したらしい。

そこまで話すと先生は寝落ちした。そういえば寝てたんだった。

『そんでよ、そいつは今あの人何してるんだか……』

そう思っていると聞き覚えのある声が聞こえた。

まさかな? と思いながら振り返ると案の定、あの筋肉だるまと何故か川嶋がいた。

何でここに居るの? と、もう突っ込む気も失せていると、川嶋と目があった。川嶋は一瞬驚き、手話で寝てるジェスチャーをしていた。

どうやらだるまは寝ているらしい。俺も寝ているジェスチャーをして川島の方へと向かった。

「なんでここに須賀先生と?」

「それはこっちの台詞だよ。なんでだるまといるんだよ」

「実は先生が暴走族に……」

川嶋の話を纏めると部活帰りの時に怒鳴り合う声が聞こえていたので見てみると、そこにこのだるまと『苦羅魔』という暴走族がいて、いい加減解散しろ! だの姉さんの仇! など言い争っており、殴り合いを始めた末、だるまが全員倒したそうだ。

その後、川嶋は見つかってしまい、さっきまで先生の愚痴を聞いていたらしい。

「でね、その暴走族の頭の女に惚れていたらしくて……いつか会いたいとか言いながら寝ちゃったんだよ」

「ブゥッッ!!」

絶対須賀先生だ! 運命的すぎるだろ!

??? を浮かべる川嶋に須賀先生の話をすると顔を引きつらせていた。

時間を見ると9時を過ぎていたので、先生たちをマスターに任せて帰る事にした。帰り際にこの話は2人が気付くまで墓場に持っていく事にした。

・・・翌日・・・

「坂本ー! 今日〜も遅刻か! 昨日散々指導室で言ったよな!!」

「志倉先生、これ一回学校で宿泊指導教室とか作って貰いましょう」

いつもは筋肉だるまだけなのに、今日は須賀先生とセットで校門にいた。

いつもの俺なら顔を引き攣る俺だが、今日は何故か笑みが浮かんでいた。

「笑っているとか調子に乗ってるのか坂本?」

「いえ、私達から逃げる事など余裕と思ってるんでしょう」

笑みだけでは止まらなくなって笑ってしまった。

『お似合いすぎるだろ』

そう思いながら校門へと、先生へと挑んでいく。

この2人が互いに気付く瞬間を想像しながら疾走する。

そして今日も、少年の叫び声が町中に響くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

体育系高校の教師 望月 臨 @kasaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る