読む人を選ぶ、だが選ばれた人にとっては最高の小説

本作は、戦記物、群像劇としては、個人的に最高傑作だと思っている有名SF小説に初めて並んだ作品である。故に一言で評するなら「最高に面白い小説」である。

ただ読む人を選ぶ、とも思う。

「理不尽に奪われた姉のため」という主人公の最初の動機は、奇しくも本作と上述のSF小説で共通している。しかし、本作の主人公の方が姉の境遇、主人公の絶望、そこから這い上がるためにとった手段、いずれも遥かに苛烈である。まずはここに耐えられるか。耐えられなければ、その後の主人公の選択や進む道も読むに堪えないだろう。

次に登場人物の多さ。一行でまとめられて次々に消えていくようなことはほとんどない。いずれもそれぞれの物語の主人公たちであり、それゆえに皆魅力的である。ただ、気軽に読み飛ばしていきたいタイプの読み手や、基本的に主人公にスポットライトを当て続けていて欲しいタイプの読み手には読みづらいかもしれない。

しかし、嗜好の方向が合った読み手にとっては、これ以上の作品が果たしてあるのか、と真剣に思うほどの傑作である。

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カルマの塔