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敵を制圧したのを確認するとボイルドはハツキに歩み寄る。
「まだだ!」
ゲンドウが叫ぶと、倒れたはずの暗殺者が半身だけで動き出した。
「ハツキの首を落とせ、頭部さえあればいい!」
ゲンドウは狂気に満ちた言葉を吐いた。
確かにハツキを殺害すれば保護対象から外れ、脳も手に入る。
ウフコックは激しい怒りがこみ上げてきたが、同時にそれ以上の殺意の匂いを嗅ぎ取った。
タツヒコ・サカサキだ。
足もとに落ちていた
近くにいた顧問弁護士は悲鳴をあげ、ゲンドウは床に倒れた。
我にかえったタツヒコからは殺意の匂いが急速に失せていき、ただ血の付いた剣を見つめ呆然と立ち尽くしている。
ボイルドは振り返りざま、暗殺者がハツキに向かって投げたチャクラムをカタナで叩き切った。
直後、エレベーターのドアが開きミズキとドクター・イースターがフロアに駆け込んで来るのが見えた。
◇◇◇
病院のベッドで目覚めた時、ハツキは自分の胸の上にいて顔を覗き込んでいる金色のネズミの姿を見つけて微笑んだ。
あの事件の後。
精神転送手術は破棄され、代わって行われたナノマシンによる異常プリオンの除去手術は成功に終わったのだ。
ただこれで完治したわけではなく今後も定期的にこの治療を続け、病と戦わなければならない。それは大変な道程になるだろう。
見舞いを終えた事件屋達はオープンカーに乗り込み走り出した。
「やはりあの精神転送手術の実験用の検体(死刑囚)を供与し、弁護士を派遣していたのはオクトーバーだった。サカサキ製薬の株式の3割を保有してる。」
ドクター・イースターが告げた。
その後タツヒコは逮捕されたため、ミズキがサカサキ製薬の新社長に就任しオクトーバー社とは決裂へと向かう事になる。
後から分かった事だがゲンドウ・サカサキ自身もプリオン病が発症し、死が目前に迫っていた。
あの一機しかない
「今回の僕らの行動は間違っていなかったのかな?」
イースターが呟く。
「さあな。だが
ボイルドが答えた。
「ひとつ確かなのは、今のハツキからは生きようとする強い意志の匂いを感じた。俺たちは間違ってはいないはずだ・・・」
ウフコックは赤い目で病院を振り返りながら言った。
事件屋達を乗せたオープンカーは、休む事なく動き続けるマルドゥック
了
マルドゥック・スクランブル"Spoofed fragment" 斉木 京 @fox0407
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