勇者の約束
柊桃珈
第1話 魔女の森
森は暗く、静かだった。
草を踏む足音が二つ、森の中心に向かって進んでいるようだが、それを気にする生き物はいない。
ふと前を進む青年が振り返り、口を開いた。
「静かな森だね。生き物の気配もしないし。」
ふわふわと飛び跳ねる金色の髪に、大きな青い瞳。快活そうな青年は、後ろを歩く青年に話しかける。
「ええ。さすが、『魔女の森』、といったところでしょうか。」
答えた青年は、真っ直ぐな黒髪に黒く鋭い瞳。金髪の青年より、いくらか年上に見える。
「それだけど、変じゃないかな。」
金髪の青年は前を向き、歩みを緩める。合わせて黒髪の青年の歩みも遅くなった。
「変?何がですか。」
黒髪の青年は訝しそうに尋ねる。
「ねえ
玲斗と呼ばれた黒髪の青年は、考えながら答える。
「そうですね。まず、生き物は全て消えるでしょう。動物だけでなく、植物も。森は枯れ果てて、魔物が
そこまで話して、声が途切れた。黒い瞳が、理解できないというように細められる。
「ほら、変だろ。この森は確かに暗いけど、それは草木が青々と生い茂ってるからだ。生き物はいないけど、生気が無いって感じじゃない。それに、この森に入って随分経つけど、まだ魔物に遭ってない。」
金髪の青年はうん、と自分の言葉に頷きながら付け加える。
「この森は『魔女の森』のはずなのに、むしろ清浄な感じがする。」
玲斗は注意深く辺りを見回しながら、金髪の青年の言葉に同意を返す。
「本当ですね。『魔女の森』と昔から呼ばれていると聞いていましたから、もっとおどろおどろしい様子を考えていましたが、今のところ平和なようです。魔物がいない、という確信は持てませんが。」
ふと、玲斗が足を止めた。
「鈴の音…?」
息を殺し、耳を澄ます。しかし、それ以上は特に何も聞こえない。
「玲斗っ!」
金髪の青年が突如、鋭い声を上げた。玲斗の身体にも緊張が走る。素早く弓を構え、矢を番える。
玲斗が臨戦態勢に入ったのを見ると、金髪の青年は真っ直ぐに駆けだした。玲斗もその後ろを足音ひとつ立てず追いかける。
向かう先には、この暗い『魔女の森』の中で、一際明るい場所があった。
勇者の約束 柊桃珈 @mokapetit12
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