011  結成と初試合Ⅴ

「そうだな。平次の言う通り、やってみなければ何も始まらない。こういうのって宝くじや競馬と同じだろ? 買ってみなきゃ当たらないってね……」

 穏やかそうな爽やか君・二年の涼宮総司すずみやそうじ平次へいじの肩を触って後ろからやってきた。たまに何を考えているのか全く読めない時がある先輩である。

「いや、俺達はそういう博打とかできないからね。まだ、未成年なんだし、例えにも……ほら、ほかにもあるでしょ?」

 おどおどとしながらお腹を押さえている最後の二年の先輩・長瀬英秋ながせひであきが苦しそうに言った。試合前に緊張して体調が悪くなる選手はいるが、ここまで緊張するのは珍しい。

 二年の三人がそれぞれ違ったタイプであることは一年全員が一週間のうちで相当思い知った。怒らせると怖い先輩、冷静だけど何を考えるのか分からない先輩、高身長だが弱気の先輩である。

 この人たち、本当に大丈夫か……?

 一成は少し不安を持ちながらグラウンドに目をやった。

 去年の夏の甲子園こうしえんでベスト8まで行っただけあって、熊本東工業くまもとこうぎょうの実力は比べならないほどに高い。隼人の言うとおり、急増チームの弱小校にとっては厳しい試合というよりも一方的な試合になるとしか言いようがない。

「なあ、古矢。夏ミカンは本当にこの試合がいい勝負になると思っているのか? あれはあれで、少しやり過ぎだと思うんだが……」

 難しい顔をしながら、隼人が言った。

「俺に言われても……。だが、県内とやるよりもメリットはあると思うよ」

 口ごもりながら答える。確かに一成の言う通り、県内のチームとやったところで手の内をばらしてしまったら意味がない。今日は練習試合でもあり、チーム力を試す場でもある。

 北燕ほくえん高校はここ最近、他校とも縁がなく。練習試合を行ったことすらなかった。だが、今年は何かが起きそうだ。力のある選手が運命によってここに集まり、何か面白い事が起きそうで胸の鼓動が止まらない。もしかすると、今年、甲子園の夢も夢のまた夢ではないのかもしれない。このチームならきっとそう思う。

 だが……今日の練習試合で一点差でもいいから勝たないとだめだろうな。

 相手は全国を経験している常連校。勝つ確率は低いが、だからと言って絶対に負けるとは言い切れない。どんな選手だって負ける時がある。やらなきゃ当たらない、宝くじと同じだ。

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