第2話

 そんなたわいなことをしゃべりながら、わたしと駿人しゅんとは帰路につく。駅のホームで、わたしと駿人しゅんとはひと目をはばからずにハグをする。でも、キスは無しだ。


 わたしは、駿人しゅんとと付き合って半年経ったが、彼との関係はデートで手をつなぐまでで禁止していた。このハグは、彼にあげれる、わたしからの最後のプレゼントであった。


 どうか、こんな薄情な女の体温を覚えておいてほしい。山梨県の春の訪れは遅い。3月上旬と言えども、薄手のコートと手袋は欠かせない。もしかすると、駿人しゅんとには、わたしの体温は伝わってないかもしれない。


 それでも、駿人しゅんとに残せるものがあるのなら。


 卒業式の日から1週間と3日ほどが経過する。いよいよ、わたしは暮らしたこともない都会に旅立つのだ。生活に必要なものは、先に下宿先に送った。あとは、わたし自身が、大阪の地に赴くだけだ。


 ママとパパは涙を流していた。妹はへっちゃらな顔をしていたのが憎らしい。


 駿人しゅんとや、わたしが特別に親しかった友人数名は駅のホームに見送りにきてくれた。


 わたしは電車に乗り、手を振りながら、見送りにきてくれたヒトたちに手を振った。


 電車はゆっくりと動き出す。しだいに、彼らは遠くに見えなくなってしまう。


「ごめんね、駿人しゅんと。わたし、あなたに嘘をついてた」


 駿人しゅんとはいつまで、わたしを待ってくれるかはわからない。だけど、わたしは駿人しゅんとのことが好きじゃなかった。もちろん、嫌いでもなかった。


 ただ、駿人しゅんとがお試しで付き合ってみないッスか? とあの日、マック・ド・ナルホドでハンバーガーを一緒に食べている時に言ってくれたから、付き合い始めただけだ。


 わたしは本当にひどい女だ。そんな女が駿人しゅんとに似合うわけがない。


 さよなら、駿人しゅんと。わたしが好きじゃなかったヒト。わたしが嫌いじゃなかったヒト。


 大阪についたら、電気街に行こう。そして、スマホを新規契約しよう。


 わたしは本当の恋を知らない。本当の愛を知らない。


 駿人しゅんと。あなたには、すぐに素敵な恋人ができるわ? だから、わたしのことを早く忘れてね?


さよなら、駿人しゅんと

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お試しの恋は終曲(フィナーレ) ももちく @momochi-chikuwa

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