お試しの恋は終曲(フィナーレ)

ももち ちくわ

第1話

 わたしこと、真田・楓さなだ・かえでは本日、地元である山梨県立・甲斐茶屋前高等学校を卒業した。


 わたしは帰宅部であったため、部活の後輩たちから別れを惜しまれるということはなかった。少ないながらの友達たちと、春から別れ離れだねとかそんな話はした。


 わたしはこのまま、この3年間を過ごした校舎から、さよならをしても良かった。


 だけど、それはさすがにヒトとして、どうなのであろうかと思い、校門近くで、半年前に付き合い始めた彼氏である高坂・駿人こうさか・しゅんとを待つ。


 彼は弱小ながらもサッカー部では活躍した選手であった。そのため、彼の周りには部活の後輩たちが集まり、色紙や花束を渡している。


「あーあ。こんなことなら、わたしも部活に所属しておくべきだったかなあ? 少し、寂しい気分……」


 しかし、わたしが成績を維持していくには部活に所属するのは難しい。学校の帰りには欠かさず塾に通っていたのに、こんな学力がそこそこの学校ですら、校内20位以内を維持するのが精いっぱいだったのだ。


 だけど、毎日、勉強漬けの成果は確かにあった。わたしはそのおかげで春から大阪の大学に行けるようになったのである。


「お待たせしたッス。いやあ、なかなか後輩たちが俺っちを離してくれなかったッス。かえでっち、寂しくなかったッスか?」


「んーん? そんなに寂しくはなかったよ? いっそ、ひとりで帰っちゃおうかと思ったくらい」


 わたしのキツイ言い方に駿人しゅんとは、おでこに右手をあてて、天を仰ぎつつ、たはあああと大袈裟にリアクションを取る。


「つれないッスねえ……。俺っちとかえでっちは付き合っているんッスよ? そりゃあ、春から俺っちは地元でバイトをしつつ、就活になるッスけど……」


 駿人しゅんとは、高校を卒業後に、わたしと離れ離れにならないようにと、彼らしくもなく、夏が過ぎてからはサッカー部からきっぱりと足を洗い、勉学に勤めてきた。


 しかしだ。彼の望みは果たされることはなかった。滑り止めの大学すらも不合格になってしまい、家庭の事情もあって、地元に残るしか選択肢が残されなったのだ。


「別に、駿人しゅんとを責めているわけじゃないわ? でも、良かったんじゃない? 最近は世の中の景気も上向いてきて、高卒の就職率もかなり改善されてきたんだし」

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