死のゲーム

ポツンと街に取り残された葵は、地べたにゴロンと寝転がった。


__お前不細工だろ!


一馬の言葉が耳に残って離れない。

正直ショックで気が狂いそうだ。


ただ、ギャフンと言わせてやりたいと言う気持ちから、キャラを自分の顔を晒さないで可愛い顔に出来ないかと思い始める。


そういう時はネットだ。


『プランダーゲーム 可愛い顔』でぐぐるとプランダーゲームをしている人のサイトが出てきた。


その1番上に有るのが、アダムとイヴというサイトだ。


何故か無性に見たくなって、携帯のボタンをクリックした。

黒と白を基調とされたサイトにはアダムとイヴの沢山の写メが飾られていた。


「か、可愛い...」


思わず声が漏れる。


それもそのはずだ。

写メにはシルバーの髪とブルーの瞳をした男女の双子が仲良さそうに小さな手をギュッと握りあって、薄笑いを浮かべこっちを見ている。


男の子のほうがアダム。

ショートヘアーに全身真っ黒のフード付きのロングコートをモデルのように着こなしている。


女の子の方がイヴ。

長いツインテールに、真っ黒なゴスロリの衣装。

なぜか、腕のちぎれたぬいぐるみを大事そうに抱いているのが印象的だ。


「あたしも、こんな顔だったらな...」


アダムとイヴは今まで見た誰よりも美しかった。

夢中になって2人の写メをむしゃぼるように眺めた。


そんな美しい見た目に反して、サイトに載せられた写メは驚く程刺激的なものが多い。


ある写真は、イヴがキャミソール姿になり薄笑いを浮かべた状態で、アダムにぎゅっと抱きついている。

またある写真はお互いが手を握り合いバードキスを交わしていた。

2人で血まみれになった斧を持って薄笑いを浮かべているものもある


アダムとイヴが異常なのは目に取れて分かったが、葵は2人のそこに惹かれた。


気が付くと1時間以上サイトを眺めている事に気付く。


「こんな事をしている場合じゃない!」


アダムとイヴのサイトをブックマークして、肝心の可愛い顔でプランダーゲームを楽しめる方法を探していると、3チャンネルで気になる書き込みを見つけた。


『どんな課金アイテムより闘技場で対人戦!!』


課金をしたらいくらでも可愛い服が手に入る。

なのに、課金より対人戦とはどういう事なのか?


ボロボロになった携帯電話をポイして、ゲームのコントローラを握りしめると、闘技場を探した。


街の隅っこに真っ白な教会が佇んでいる。


そこが闘技場だ。


対人戦という事は、モンスターではない誰かと戦うという事。

要するに人と戦うという事だ。


誰かと戦う。


葵の性格上、負ける事は我慢出来なかった。


そこで、部屋の人数制限を2人に設定したのち、クエスト中以外のプランダーゲームをしている人が全て見れる全体チャットを開く。


夜神葵▶プランダーゲーム

をやり始めた方のみ募集!

闘技場やりませんか?


すぐに部屋に1人のキャラが入ってきた。

葵同様、白い猿の着ぐるみを装備しているから、顔を隠したいのだろう。


「あたしと似たような理由で着ぐるみ着てたりして.....」


そう考えると、親近感を持ってしまう。


明智智美▶こんばんわ!

ゲーム自体が初心者です

闘技場して貰えますか?


言っている事が本当かどうか、智美の装備を確認する。

智美は初期装備で武器は日本刀。

戦うなら葵の方が有利だろう。


夜神葵▶大丈夫ですよ。

私も初心者です。

明智智美▶わぁ!良か

った!このゲーム難し

くてクエスト進める事

が出来なかったんです。


どんだけこのゲームをしていたのかは分からない。

でもクエストを進める事が出来ないだなんて、余程このゲームに向いてないのだろう。

簡単に葵が勝利する姿が、脳裏に思い浮かんだ。


夜神葵▶あたしも一緒

です。


話を合わせる為に適当な事を言ってしまう。


明智智美▶恥ずかしい

話なんですが、私友達

が居ないんです。

寂しくてこのゲーム始

めました。

良ければ友達になって

もらえませんか?


こんな事を言って寄生する気の奴も多い。


でも葵は親近感を覚えていた。


「あたし以外にもこんな人が居たんだ...」


もう、あの3人を捨てて似たもの同士で仲良くプランダーゲームをしようか。

そんな考えが脳裏を横切る。


夜神葵▶友達になりましょう!

明智智美▶嬉しい!

私、たまにチャットで喋っても

らえればそれでいいんです!


喋る事が出来たらいい。


どんな虚しい奴がゲームをしているのか、気になって堪らない。


でも葵も似たようなものだ。


夜神葵▶私も喋るの

好きだよ!

仲良くしてね!

明智智美▶ありがと

う!

葵ちゃんはどこに住

んでるの?


本名でしか登録出来ないプランダーゲームにはネカマは存在しないからか、寂しかったのか真実を伝える事が安易に出来た。


夜神葵▶東京だよ!

明智智美▶私は鹿児島。

近くなら遊べると思った

んだけど遠いね!泣


プランダーゲームで出会った人と会う。


今まで、想像も付かなかったが葵は乗り気だったが遠いから諦めた。


夜神葵▶遠いね!

明智智美▶でも、私の学校

修学旅行は東京だよ。

自由行動があるんだけど、

一緒に行動する友達がいな

いから葵ちゃんに会いたい


智美と会う事には乗り気だったが、実際会うとなると萎縮してしまう。

怖いんだ。

見た目で差別されるのが。


でも、会えないとも言い切れなかった。


夜神葵▶会おう!

明智智美▶嬉しい!

これで、自由行動はボッチ

じゃない!!


1時間程話しただろうか。

葵はすっかり智美と仲良くなっていた。


明智智美▶葵ちゃん!闘技

場したいんでしょう?

私でいいなら、付き合うよ!


確かに闘技場がしたい。

どんなアイテムが手に入るか気になるのだ。

3ちゃんねるを見る限り、課金よりいいアイテムが手に入る可能性がある。


どんなアイテムが手に入るのか気になった。

できれば、美少女の着ぐるみがいい。


夜神葵▶したい、したい。

喋りながら闘技場回そう!

明智智美▶了解でーす!


教会に移動してクエストを確認する。

砂浜、溶岩地帯、森、雪山、死の森。

この5つのステージが存在する。

場所によって何が起こるかは予想出来ない。


葵は砂浜を選んだ。

それと同時に智美がクエストに参加する。


クエストに行くと、ラッパの音が鳴り画面が暗くなった。


画面が明るくなったかと思うと、コバルトブルーの海が見える真っ白な砂浜の上に着ぐるみを着た2人が立っているというシュールな状況だ。


明智智美▶よろしくお

願いします!

夜神葵▶よろしくお願

いします。


挨拶が終わり少ししたら、智美が日本刀で切りかかってきた。

しかし、智美が言っていた通りにゲームに向いてないのだろう。もしくわゲームすら初めてしたんじゃないかと思ってしまう。

智美の動きは、攻撃する場所が全くと言っていい程定まらず、全然関係ない所に切りかかっている。


少し間合いを置いて、弓を引くと弓矢を放つと、葵の攻撃が智美に当たりHPが削られた。


明智智美▶葵ちゃん上手

い!

私なんて全然攻撃が当た

らないよー!

夜神葵▶慣れだよ!

ゲームしまくれば上手く

なるよ。

明智智美▶本当?

夜神葵▶うんうん!


そうは言ったものの智美の下手さはびっくりしてしまう程のレベルだ。

戦っても勝てるのは確実だが、ゲームとしての面白味に欠ける。

早く終わらそう。


葵は弓を引いては、攻撃を繰り返す。

智美も攻撃をしてくるが、避けなくても当たる事はない。

智美のHPはガンガン減っていきあとわずかしか残っていない。


さっさとトドメを刺そう。

ボケーっと突っ立っている智美目掛けて、何発も弓矢を放った。


智美のキャラが崩れ落ちると同時に、目の前が真っ暗になった。


不気味な男の声で「クエスト報酬『腕』」ときこえたかと思うと、目の前にブルーのパジャマを着た全く知らない女の子が見える。


スタイルはゲームのキャラクターみたいにバッチリだ。

しかし、驚く程細い目に口から飛び出た歯。

横からみると顎が発達していないのか、カマキリのような顔をしている。


「誰?」

「え?あっ?もしかして、葵ちゃん?」


名前を呼ばれてもしやとおもったが、目の前にいる女の子は智美だろう。


「えっ?智美?」

「そうだよ。でも、なんでこんな事になっているんだろうね?」


智美が驚いた顔でそう呟いた瞬間、智美が悲鳴を上げた。

でも葵から見ると、なにが起こったかちっとも理解が出来ない。


「智美、どうしたの?」


怯えた表情で葵の後に回り込み体を小さくする。

腕が肩に触れた瞬間、葵の体を通り抜け、床に崩れ落ちる。


智美が鼓膜を揺らすような大声をあげる。

その表情は何かに怯えているようにしか見えない。


「どうなってるの?そんなに怯えてどうしたの?」


何が何だか分からないまま、様子を見続けていると智美の両腕がポトリと床に落ちた。

それと同時に甲高い叫び声が聞こえた。


「痛い、痛い、助けて...」

「きゃあああ!智美大丈夫?大丈夫じゃないよね?」

「痛い、痛い。助けてー!!」


急いで智美を介抱しようとするが、映像なのか触る事は出来ない。


智美の額にはじんわりと脂汗が浮き、歯を食いしばって座り込んでいる。


ドロドロと溢れる血液。

呻き声。


葵はどうしたらいいかも分からずに立ちすくした。


顔が真っ青になった智美は血液で赤く染まったカーペットに倒れ込み、ピクリとも動かない。


まるで血に染まったマネキンみたいだ。


そう思った瞬間、目の前が真っ暗になり自分の部屋に引き戻された。

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プランダーゲーム 上村あかり @akari0226

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