プランダーゲーム
「プランダーゲームかあ。いまいちパッとしない微妙な名前だな.....」
ブツブツ言いながらもプランダーゲームを見つけ、ダウンロードする。
葵はこの時間が嫌いだ。
回線がわるいのか、データが大きすぎるのか、やたらとダウンロードに時間がかかる。
進まない画面。
ブルーの光を放つパソコン画面をアホみたいな顔で、見つめるだけの時間。
それがやたらと、空虚に感じてしまう。
寂しくなった葵は携帯にグーッと手を伸ばす。
そして、迷いながらもメッセージを打つ。
乱舞姫▶ダウンロードしているけど、かなり時間がかかりりそうだよ!!
ひーまー!!
学校で無視されてた時間が長かったたせいか、ネットの世界でも臆病になってしまう。
「誰も返事くれなかったらどうしよう...」
ひな▶あたしも暇ぁ!!
でも、すぐにひなから返事が帰ってきた事にホッとして、携帯をいじくる。
乱舞姫▶読み込み中暇だよね。
@@@▶暇だーーー!!
XYZ▶ひまですね!
ひなは気楽に喋れるお姉さんて感じで、@@@は元気な男の子。
XYZは礼儀がしっかりしている内気な男の子て感じだ。
@@@▶あ!
もうすぐでダウンロード終わりそう。
@@@にそう言われ、テレビの画面に視線を移した。
95パーセントまでローディングが終わっている。
「96...。97...。98...。99...」
画面の表示が変わる。
100パーセントになったと同時に、パッと画面が切り替わった。
可愛い作風のメープルランドと違って、やけにリアルなプランダーゲームはリアルなモンスターと背景が画面に映っている。
「これはこれでいいかも!」
葵は小さな胸をドキドキさせながらながらゲームを進めた。
まずは、キャラクター名制作だ。
しかし、おかしい。
普通なら好きな名前を入れれるはずなのに、本名を記入して下さいと表示されているのだ。
葵は自分の本名が好きではない。
表示なんて無視して『乱舞姫』と記入し、OKボタンを押す。
「なにこれ?」
おかしい。
ちっともゲームが先に進まない。
何回乱舞姫と入れても、画面には『本名を記入して下さい』と表示された。
まさか、本名を入れないと出来ないゲームがある訳がない。
そう思いながらも、早くゲームを進めたいという気持ちが勝り本名を記入した。
『夜神葵』
さっきまでとは違いスムーズに読み込みが始まり、キャラクター制作の場所に飛ばされた。
「なにこれ...」
葵は戸惑っていた。
何故なら、キャラクターが自分そっくりだったからだ。
人様には見せたくないような顔にだらしない体。
「なにこれ!」
すぐにキャラクターを作り直そうとするが、葵そっくりのキャラクターは顔も体も変える事が出来なくてイライラが募る。
「どうなってるのー!」
ブツブツ喋りながら、どうにかキャラクターを作り直そうと足掻いてる間にLINEの通知が鳴った。
「もう!こんな時に誰よ!!」
文句を叫びながらも携帯を手に取り覗き込む。
XYZ▶このゲームおか
しくないですか?
XYZも葵同様な状態に置かれているのだろう。
@@@▶おかしいって
?
もしかして、実名じゃ
ないと登録出来ないて
事かな?
XYZ▶はい。それに、
登録されてるキャラク
ターが俺そっくりてか
、そのまんまで。
乱舞姫▶XYZもか。あ
たしも。
発言から察するに、XYZも自分の顔を晒すつもりは微塵もないのだろう。
葵も同じ気持ちだ。
ひな▶そうそう、そな
のー!自分そっくりの
キャラクターしか作れ
ないの。
あたしはもうキャラク
ター作っちゃったよ!
@@@▶俺も自分にそ
っくりなキャラが出来上
がったー!
ひなのキャラ見たい!
ひな▶いいよ!
そう言ったかと思えば自分のキャラクターを写メに取りアップするひな。
栗色の長い髪の毛。
色気のあるお姉さんって感じで、スタイルもナイスバディだ。
@@@▶やべ!
めちゃ、美人さん。
見せてもらうだけ
って、いうのも悪
いので、俺のキャ
ラも晒します!!
そう言ったかと思えば、自分のキャラの写メをアップする@@@。
ごつい体に、チャラそうな髪型。
でも、顔は男らしい部類の整った顔をしている。
ひな▶ありがとう!
@@@イケメンじゃ
ん!
@@@▶俺、イケ
メンじゃないよ!
ひな目悪い?
「嫌だ!嫌だ!嫌だー!」
これは、自分の顔を晒す流れなのだろうか。
葵は今までに無かった雰囲気に戸惑っていた。
ひな▶あたし、視力
いいw
@@@▶な、訳ない!
てか、皆顔晒そ!!
パソコンのモニターに視線を移す葵。
そこには、大嫌いな自分の姿が映されていた。
「自分の顔を晒すくらいなら.....、ゲームなんてしないよ…でも」
そう言いながら、ゲームのスイッチを切ろうとした瞬間XYZからメッセージが届いた。
XYZ▶どんな人間が
いるかも分からない
から、自分の顔を晒
すのは無理です。
それが、ネットの中じゃ普通だ。
でも、そんな事より自分の醜い顔を晒す事が嫌だった。
「もう.....、顔を馬鹿にされるのは怖いんだ.....」
葵はXYZの話しに乗る事を決めた。
乱舞姫▶あたしも知らな
い人に顔を晒すのは怖い
。だから、ゲーム辞める。
さよなら!
ひな▶ちょっと待って!
少しだけ話を聞いて!
なんだ?
ひな▶自分のキャラ隠す
方法あるよー!
自分のキャラクターを隠す方法?
乱舞姫▶どーいう事?
ひな▶課金でよければ
顔とか隠す方法ある!
乱舞姫▶ありがとう!
XYZ▶見てきます!
急いで課金コーナーに飛ぶと、セーラ服やメイド服など定番の可愛い服が1セット2000円で売られている。
他にも1回500円のガチャがズラーッと並べられていた。
いつもの葵なら食いつくように、見ている。
でも、今は自分の醜い顔や体を隠すアイテムをさがすのが先だ。
それを探すのはすぐだった。
やたらとポップな文字で『防犯の為!自分の容姿に自信がない方に!』なんて広告が上がっている。
そこを軽くクリックした。
正直、自分の顔を美少女に変えられるアイテムが売っていると思っていた。
しかし、顔や体を隠すアイテムは自身のキャラクターに様々な種類の着ぐるみを着せる事だった。
1000円で買った黒いうさぎの着ぐるみを装備させようとすると 、 太った黒うさぎが色んなポーズをとっていて、意外と可愛い。
でも、葵が求めていたのはこんなんじゃなかった。
メープルランドみたいに、美少女キャラでゲームを楽しみたいんだ。
「でも、あたしの顔じゃ無理...」
ボソボソと呟いていると、LINE音が鼓膜に響いた。
XYZ▶無事に装備
出来ました!
もう、いつでも戦
えますよ。
きっと、XYZも着ぐるみなのだろう。
そう考えたら笑いが漏れる。
乱舞姫▶XYZはどん
な着ぐるみにしたの?
XYZ▶ピンクのねこ
です!
思わず吹き出した。
乱舞姫▶うけるー!
XYZ▶それを、狙い
ました!!
XYZの意外なキャラに大笑いした。
こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。
葵は完全に周りから浴びせられる罵声に怯えていた。
でも、ゲームの世界ではそんな事は1度も無かったから、どんどんその世界に溺れてしまう。
@@@▶よし!皆、こ
この街に集合!
そう言うと、@@@が今いる街の番号を貼り付ける。
葵はすぐに黒いウサギの着ぐるみを装備した。
もうキャラが出来上がったと思っていたのに、武器を選ぶ項目が出てきた。
初心者向けと書かれた日本刀。
動きは遅いが、一撃がでかい両手剣。
動きが素早いが、火力と攻撃範囲が狭い片手剣。
火力が低いが手数が1番多いダガー。
ガードに特化している槍。
離れた所から攻撃できる弓。
離れた所から様々な種類の玉を撃つ事ができる。
そのかわり、弓とガンナーは防御力が低い。
この6つの中から、自分が使う武器を選ぶ事となる。
1度選ぶと2度と変える事は出来ない。
普通ならじっくりと選ぶべきだ。
でも、葵は迷う事無く弓を選んだ。
その理由は、ついさっきまでやっていたメープルゲームが弓と魔法が最強武器だったからだ。
しかし、プランダーゲームでは魔法は無い。
そしたら、弓が1番だろうという安易な考えからそれを選んだ。
鉄で作られた簡易的な弓を装備させられると、@@@が待っている街に向かった。
葵が武器を選んでいる間に、4人集まっていた。
いつもなら、慣れたメンバーのはずなのにとんでもない違和感を覚えてしまうのは、皆本名を使ってゲームしているからだろう。
「とりあえずメンバーを把握しなきゃ.....」
まず、ピンクのねこの着ぐるみがXYZ。
本名は山田聖というらしく、武器は槍を選択している。
つぎにやたら色気のある女の子がひな。
田中さやかと表示されている。
武器は葵と同じ弓だ。
最後に@@@は桜井一馬というようで、武器はメープルランドでは無かった体術にしている。
どうやら新しいもの好きらしい。
「名前覚え直すの面倒くさいよ...」
夜神葵▶皆の名前
覚え直すのキツい
ねー!
田中さやか▶あた
しはもう覚えたよ
!!
山田聖▶すごい!
田中さやか▶仕事
病かなぁ!すぐに
人の名前覚えちゃ
う!
桜井一馬▶なんの
仕事?
田中さやか▶キャ
バ嬢だよーう!!
桜井一馬▶だから
綺麗なんだ!
皆でくだらない会話をしていると、少しずつ本名に慣れてきた。
桜井一馬▶皆の顔
が見たいなぁ!
しょっちゅう、そればかり言う一馬には呆れてしまう。
それを葵と聖で断ったと思えば、さやかにだけベタベタする一馬。
はっきり言って、不愉快でしかない。
それでも、戦いなれたメンバーを捨てる気にはなれなくて、一馬とさやかがチャットで絡む様子をジーッと見ていた。
田中さやか▶そろそろ
クエいかない?
ウザイ一馬を交わしながら、クエストに行く事を進めるさやか。
正直ホッとした。
元々、一緒にゲームをやりたくて出会った4人。
それが今では約1名出会い系と勘違いしているバカがいる。
夜神葵▶クエスト
行く、行く!
山田聖▶行きまし
ょう!
桜井一馬▶いいよ
クエストに行くと言われ、明らかに一馬の文章がふてくされている。
それも無視して、1番簡単なクエストを貼った。
最初から大型モンスターは狩らない。
いわゆる小型モンスターと呼ばれる、どこにでも生息するモンスターを殺しながら、鉱石や回復に使うアイテムを集めていく。
そんな、くだらない作業を何回繰り返しただろう。
やっとの事でどうにか使える武器と微妙な防御力の防具が出来上がった。
それを装備して大型モンスターに挑む。
最初はほっぺの丸いペイントが可愛い、黄色い鳥のモンスターが出てきた。
動きの早さは中くらいで、3種類のモーションを掛け合わせて攻撃をしてくる。
初心者向けのモンスター。
いわゆるプランダーゲームで戦いに慣れる為のお手本のモンスターだ。
しかし、元々ゲームに慣れている4人は余裕で倒す。
それより、着ぐるみの2人が目について大変だった。
夜神葵▶余裕!しかし
着ぐるみのキャラが動
く度に笑いが止まらな
いんだけど!!
田中さやか▶それな
桜井一馬▶だから、
着ぐるみ脱ごうぜ!
山田聖▶俺はこ
のキャラ気に入
ってますがね!
夜神葵▶あたし
は嫌だ!可愛い
キャラで戦いた
い!!
桜井一馬▶じ
ゃあ、着ぐる
み脱ごうよ!
着ぐるみをぬいだら、不細工な顔も太った体もバレバレだ。
夜神葵▶ぬが
ないよ!
桜井一馬▶葵
!!お前不細
工だろ?
一瞬目を疑った。
今まで仲良くゲームをしていた一馬がこんな事を言うなんて。
でも、返す言葉がみつからない。
それに無性に腹が立つ。
イライラしながら横に置いてあったポテチを貪り食った。
田中さやか▶うーん。
そういう言い方はよく
ないな!!女の子なら
防犯面気をつけるべき
だし!
まあ、あたしは変わり
者だから晒してるけど
。
桜井一馬▶さやか。ご
めんなさい。
「おいおい、おい!さやかに謝ってどうする!あたしに謝るべきだろーが!!」
葵はイライラしながら、またポテチを貪り食った。
田中さやか▶葵ちゃん
に謝って〜。
桜井一馬▶葵。ごめん
なさい!
イライラするのは止まらないけど、さやかのおかげでマシになった。
さやかが性格悪い奴じゃなくて良かったと思う。
田中さやか▶じゃあ、あ
たしはここら辺で落ちる
ね!
桜井一馬▶なら、俺も落
ちる!!
珍しくさやかがゲームを辞めてしまった。
それにつられるように一馬が落ちる。
山田聖▶じゃあ、俺も辞め
ます!
最近寝てなかったから眠い。
夜神葵▶みんな、おつかれ
さまー!!
今までワイワイしていたのに、1人取り残される葵。
寂しくて仕方がない。
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