ネトゲ

ピチピチのブレザーに、今にもボタンの弾け飛びそうなスカート。

そこから覗くゾウみたいな足は葵の見苦しさを倍増させる。


それだけじゃない。


小さい一重瞼にニキビだらけの赤黒い皮膚。

バラバラのパーツ。


葵には自慢出来る自分が無かった。

はっきり言って、自分を見られたくない。

それが葵の本音だ。


それでも、高校1年生となると学校に行かなくてはならない。


せっかく受かった高校。


葵は無理してでも入学式に行く事を選択した。


わずかな願いがあった。


それは、親友と呼べる友達を作る事。


僅かな期待に夢を乗せ、入学式に向かう。


「見て!あのデブ!!」

「わー!あれは、きつい」

「あんな風に産まれたら自殺物だよー!」


何処からともなく聞こえてきた、心ない会話にどこか怯えながら視線をうつす葵。


茶髪でサラサラの髪の可愛い女の子、2人組が葵を指差し笑っていた。


怖い。

心が萎縮する。


我慢の出来なくなった葵は、入学式に向かう事無く逃げるように家に帰った。


葵は小さい頃から容姿を中傷され続けて、内に込もってしまったのだ。


葵の夢は、ガラスの粉みたいにバラバラに砕け散った。


こんな姿に産んだ両親を恨んだ。


父には金食い虫とバカにされ、母には疎まれた。


それでも、葵が学校に行く事は無かった。


台所からお菓子を大量に取り自分の部屋に引きこもる。


閉めっぱなしのカーテン。

埃の被った小物。

足の踏み場が無い床。


その暮らしは最悪な物だった。


暇を持て余し、汚れた床にヤンキー座りしてパソコンを弄くる。


ただ、暇を潰す物が欲しかった。


そんな時に見付けたのが『メープルランド』というオンラインゲーム。


最初は興味だけでゲームをダウンロードする。


キャラクターを制作するページが出て来て、葵のテンションは大きく跳ね上がった。


それもそのはずだ。


2次元で3等身の色々なキャラクターを制作出来る。


自分とは正反対の可愛いキャラクターを作りたかった。

金髪のツインテール。

クリクリのブルーの瞳。


名前は乱舞姫。


それなりであれば、すぐに上手くなった。


24時間自由にゲームを出来る葵は1ヶ月ほどでランク200を越えた。


このゲームは始まったばかりで、ランク100いっとけばいいほうなのに、葵はレベル200を越えている。


次に葵は、現実世界では友達が出来なくてもゲームの世界でなら出来るんじゃないかという考えを持ってしまう。


『メープルゲーム 友達募集』で検索をかけると、3つ程サイトが出てきた。


乱舞姫

ランク231です。

ランクの近い方募集中!!


募集する。


すると、コミュニケーションアプリに掲示板を見た人から、連絡が来る。


XYZ

こんばんは!掲示板見ました。

こちら、ランク417です。

よければ、一緒にやりませんか?


クエスト手伝って


shadow

ランク681


どんどん、コミュニケーションアプリに連絡が来る。


葵は、返事を返すのも追い付かない程だ。

変なのと愛想無いのは片っ端から無視する。


XYZ、@@@、ひな。


この3人が愛想も良くて、レベルも高かったから返事を返す。

返事はすぐに帰って来た。


4人でやる事を伝え、ゲーム内の街で待ち合わせをする。


XYZ▶皆さん、初めまして

@@@▶お初でーす!

乱舞姫▶皆さんお初でーす!


ゲームの中じゃ明るいキャラクターだって、演じれる。まるで、サーカスのピエロのような気分だ。


ひな▶おはつー


現実の自分とは違う感じに振る舞える事が、凄く楽しい。


クエストをしながら、チャットを楽しんだ。


@@@▶皆は何歳?

乱舞姫▶16だよ!


普段ならこんな言葉遣い絶対に出来ない。

家族以外の人間と喋る時は緊張して、カチカチの敬語になってしまう。


@@@▶若けー!

XYZ▶19歳です

ひな▶皆若いね。あたしなんて、29だよw

@@@▶ひな近い。俺27


皆、レベルが高いからすぐにモンスターを倒せる上に、世間話をしていると1人じゃない感じがして凄く落ち着くのだ。


ひな▶@@@、近いね!

乱舞姫とXZから見たら年寄りw

@@@▶年寄りってw

まだまだいけるだろ!!


葵にとっては、年なんて関係ない。自分と喋ってくれる人で、しょっちゅうゲームにインする人なら問題なかった。


「葵。ご飯よー!」


ご飯に呼ばれている。お菓子は食べてるといえ、昼ごはんを食べていないからお腹はペコペコだ。

パンパンに膨らんだ腹からグウーと音が鳴る。


でも、ご飯を食べる時間さえ惜しいと思うようになっていた。それだけじゃない。

寝る時間もトイレに行く時間さえもったいない。


「具合悪いから、食べない!」

「そう。具合わるいのなら、薬を飲んでゆっくり寝てなさい!」

「分かったー!」


母親が部屋に来ない事をいい事に、ゲームを楽しむ。


実際、葵以外もゲームから落ちる気配がない。1日15時間近くはゲームをしていた。


元々やりこんでいたゲーム。こんな暮らしを2ヶ月もしていると、もうやる事がなくなってくる。

最近は4人で集まってチャットをしているだけか、初心者の手助けをしに行くぐらいだ。


@@@▶メープルランド飽きてきた!


突然の@@@の飽きた発言。でも、葵もXYZもひなも気持ちは同じだった。


XYZ▶それなw

ひな▶あたしも飽きたー!

でも、皆と居ると楽しいから辞められない!


葵も同じ気持ちだった。


乱舞姫▶ひなちゃんと同じで皆がいるから

やってる感じで、ゲームじたいには飽きた。


@@@▶全員飽きてるのか!

なら、いいゲームがあるんだけど。


突然の@@@からのお誘い。これは、皆で他のゲームに乗り換えるという事だろうか。


乱舞姫▶いいゲーム?

XYZ▶どんなゲーム?

ひな▶ひなは皆に着いていくよ!

@@@▶例えばゲームで金が儲かるとしたら、する?


ゲームで金が儲かるとは一体どういう事なのだろうか。


葵は、メープルランドのキャラクターなら有り余る程のお金を持っている。それが、1割でもいいから現実の世界の金になったら、最高なんて思う時は多々ある。


乱舞姫▶お金が儲かるってどういう事?

XYZ▶お金は欲しいですね。

ひな▶ゲームでお金?

それって、騙されてない?


確かに怪しい。花に寄ってくるミツバチみたいに甘い話には惑わされない。

下手したら詐欺に引っ掛かる事になる。


@@@▶どうせ、ゲームするならRMT

しようよ。

ひな▶リアルマネートレードか!


リアルマネートレードとは、ゲーム内でのレア素材などを現金で売る事だ。


運営側もRMTには注意していて、アイテムを現金で売った事がバレたら即アカウントを消されてしまう。


今まで大切に育てていたアカウントが消えるのは大きな痛手だ。


@@@▶葵ありがとう

XYZ▶助かりました。

ひな▶ご苦労様ー!

@@@▶では、説明します!

まず、プランダーゲームていうネトゲをダウンロードしてみて!

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