終幕
『あなたは、復讐という行為を支持しますか?』
支持……28.7%
不支持……59.2%
わからない・無回答……12.1%
《支持するという人の意見》
・やり返すことは悪い事じゃないと思う。
・無関係な人を巻き込まなければ、いい。
・相手が苦しむなら、そいつの家族にも手を出すのも一つの方法。
・復讐される方が悪い。
・↑それな。
『あなたは、復讐をしたことがありますか?』
したことある……29.9%
したことない……46.6%
無回答……23.5%
《したことがあるという人の意見》
・いじめっ子だった同級生に、仕返しをした事があります。
日常的に殴られてたので、教室の椅子でボコボコにしました。
・小さい頃、虐待してきた両親が年老いたので、山に捨ててきた。
後悔はしていない。
・浮気をした夫を社会的抹殺しちゃいました☆
・みんなコワー。
まあ、私もヒキニートの妹を毎日、いびって楽しんでますけど。
・復讐される奴は、それなりに理由があるんだから自業自得でしょ。
※※※※※
――――これが、世の中の声だ。
世の中には、復讐を正当と思う存在が確かに存在するのだ。
喫茶店前で美玲と別れた俺は、携帯でネット記事を見ながら溜息を吐いた。
……自業自得、か。
被害者は、加害者に復讐する権利がある。
罪を犯した加害者は、罰を受けなければならない。
そうなのかもしれない。
それでは、罰を受けたら……復讐されたら、加害者は許して貰えるのか?
いいや。
罪を犯したという事実は、一生消えない。十字架は死ぬまで背負い続ける。
美玲も言っていたが、過去は変えられないから。
だから……それが嫌だったら《悪いこと》をするな。
その簡単な論法は、理解は出来る。
でも、理解出来るからといって受け容れられるわけではない。
何が正しくて、何が間違っているのか。
今の俺には、判断は出来なかった。
俺の帰路を歩く足が重いのは、日頃の運動不足のせいだけではない。
家族が待つ家に、帰りたくないのだ。
俺がいることで傷心の悠奈や母さん、それに無関係なジイちゃんバアちゃん達に迷惑は、これ以上かけたくなかった。
陽一が起こした事件が連日報道され、一番取り上げられた話題は《復讐》だった。
親を殺された子供が敵を討つ《敵討ち》が昔、まかり通っていた国だ。
その法律が無くなった今でも、復讐心を肯定する思想は残っている。
陽一が、幼い頃のイジメの記憶を記録した数冊のノートが見つかってからは、雑誌記者達は一部を取り上げて、まるで昨日あった出来事であるかのように報道した。
一部のサイトでは、俺は生粋のイジメっ子として書かれており、受けた復讐は生ぬるく、陽一の苦しみをもっと思い知らせてやるべきだと書かれてある所もある。
インターネットというのは、恐ろしい。
顔も名前も知らない存在同士でも、共通の目的があるのなら、電子の世界で簡単に集まれるのだから。
上手く逃げ
それは二週間前から起きていた。
学校から帰る時、校門前でやけに生徒達の顔をジロジロと見ている人がいた。
俺とも目が合った。
その人は異変に気づいた先生が声を掛ける前に立ち去ってしまった。
それから連日、校門前に見知らぬ誰かがいる。
声を掛けられた人もいるという。「トモキくんですか?」と。
学校は、すぐに俺を呼び出して近日トラブルを起こしてないか、問い質した。
その時の俺は、何が何やらわからず、首を傾げたり横に振ったりするだけだった。
それから、二日後。今度は悠奈が、夕食時に相談して来たのだ。
『病院帰りに誰かに後をつけられている気がする』
『待合室で横に座る人が、いつも同じ人な気がする』
『そばに来る人は、最低な自分に対して、敵意と悪意を持っている』
気のせいだと俺と母さんは、慰めた。それでも不安そうだったから病院の送り迎えの時間をずらしたり、若くて力のある近所の方に時々一緒に居て貰ったりした。
しかし、その話を聞いてから、俺も人の視線を気にするようになった。
すれ違う人々が、やけにこっちを見ている気がした。
必ず止まる交差点で隣に立つ人が、いつも同じな気がした。
校門から帰宅するまで、尾行されているのではないかと何度も後ろを振り返った。
その人は、いつも違う人。でも確かに感じる、俺への敵意。
俺への
『自殺に追い込まれた陽一君の代わりに、佐野 智輝へ復讐を!』
そんな馬鹿げた提案に賛同する者が、それなりの数いて俺は恐ろしくて震えた。
顔も名前も知らないが、誰かが俺の不幸を願っている。俺の死を願っている。
俺の苦しみを望み続けた、安河内 陽一と同じように。
今までごくごく平凡、平穏に過ごしてきたと思っていた。
他人から恨みなんて、買っていないと思っていた。考えもしなかった。
それは自覚してなかっただけ。知らなかっただけ。
知ってしまったのなら、もはや穏やかに暮らすことなど出来ない。
歩かされるのは、苦痛に満ちた茨の道。
取り巻く無数の棘は、いつになったら途切れるのか。それとも永遠に続くのか。
怯え、苦しみ、絶望しながら進まなければならない。
止まることも、戻ることも、逃げることも許されない。
心と体をズタズタにされながら足を進めるしか、許されていない。
あぁ、陽一。これがお前の望んだ俺の末路なのかよ。
『佐野 智輝。お前の苦しむ顔が見たくて、八年間ずっと……憎しみ続けた。
最後の時にして、ようやく……見たかったものが見れてよかった。
でもまだ満足はしてないから。むしろ、これからだよ、智輝』
陽一が、犠牲にした未来。払った代償で得た、第二の復讐。
地獄の底から、俺の苦しみを見て笑っているのだろうか。
怒りなど湧かない。達観したからじゃなく、俺は疲労していた。
さっきから人の視線を感じる。
今、追い抜いた人は、さっきすれ違った人と同じじゃないか?
家に帰りたくない。
奴等に家がバレたら、今度は何をされるのだろう?
俺だけじゃなくて、また悠奈や母さんが犠牲に!?
…………いやいやいや、考えすぎだ。考えすぎだ。
どうした俺? こんな
ネットの連中はいい加減な事を書き込んで、勝手に盛り上がっているだけ。
俺の名前を特定しても、俺が今現在、どこにいるかなんてわかるはずがない。
悠奈が連日「怖い怖い」って言って泣くから、影響されただけなんだ。
こんな嫌がらせなのか、どうなのか曖昧な姑息な手口を使う奴なんていない。
もう陽一は、いない。そうだ、アイツはいないんだ。
だからこれは気のせいだ。気のせいに違いない。そうだ、そうなんだ……。
俺は何だか悲しくなって、胸が引き裂かれたように痛くなって、苦しくなった。
それは従兄の死を悲しんだのか、己の現状を嘆いたのか。
俺には、わからなかった。
―完―
ガスライティング 月光 美沙 @thukiakari
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