愛とは

「パパー!」


 歩道に積もった雪に足跡を付けながら、娘は父に駆け寄った。


「ほらほら、走ったら危ないよ」


 そう言った父は、駆け寄った娘と手を繋ぐ。もう片方の手にはホールケーキの入った白い箱。


「パーティ、楽しみだね」


 父は言った。


「うん! お友達、沢山呼んだの!」


 でもね、と娘は続けた。


「パパは、部屋にいてね」

「え、なんで?」

「だってパパ、その、ブサイクだから。友達に見られると、馬鹿にされちゃう」


 父はショックのあまり足を止めた。そして手に持っていたホールケーキを落とす。


「ちょっと!」


 すぐそばを歩いていた母が、咄嗟にそのホールケーキを地面に落ちる前にキャッチした。金髪の綺麗な髪が、乱れる。


「ママ! ナイスキャッチ!」


 娘は無邪気に笑う。


「あはは」


 母も笑う。


「ねえ、あなた」


 父の耳元で、囁く。


「ごめんね。あの娘の分しか、プレゼント用意できなかったの」


 父は母を見た。オッドアイが特徴的なその顔は、申し訳なさそうに笑っていた。


「いいよ。充分、愛してもらってる」


 と父は言う。


「でも、たまには形に残さないと、不安になるでしょ?」


 なんて母は言った。


「そんなことないさ」


 父は笑う。


――目が見えない私なら、ブサイクなあなたをきっと愛せる。


 懐かしい人の言葉を、父は思い出した。


(そう、そんなことはない)


「見える、見えないは関係ないんだ。だって、愛は感じるものなのだから」

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失明剣士の恋は盲目 violet @violet_kk

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