エピローグ

 パタン、とつい先ほどまで読んでいた本を閉じると、私はコーヒーカップを持ち上げた。

 映るのは私の顔だ。


 夢ってなんだと思います?


 いつの間に隣に座っていたのだろう。黒髪の大層綺麗な女性が頬杖をつきながらこちらを見て言った。


 『夢』


 記憶の整理だとかなんだとか、色んなことを言われているけれど。

 一体なんなのだろう。

 果たして、これも現実なのだろうか。それとも夢の中なのだろうか。

 ふわりふわりと浮かぶ思考に私はどんどん引き摺られていく。


 まあコーヒーでも飲んで落ち着きなさいな。

 大丈夫。夢からは皆、醒めるものですから。


 ハッとして隣を二度見するが、そこにはもう女性の姿はなかった。

 私もそろそろ帰らなければ。そう思って手の中のコーヒーを口に含んで飲み込む。

 その味は確かに苦く私を覚醒へと導くのに、まだ温かなカップからゆらりと立ち上がった湯気はまるで、夢のように不確かだった。

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夢七夜 文月六日 @hadsukimuika

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