第15話「死線の先」
岸野と佐々木達中央即応連隊の隊員達も正面から迫る敵と交戦していた。百名単位の民兵たちが押し寄せ、中央即応連隊は南側を守る二十名と少しの隊員でそれを迎え撃っていた。
岸野の足元には何百発もの空薬莢が散乱し、足を少し動かすとそれを蹴散らす羽目になる。
「詰まった!」
一倉三曹が叫んで89式小銃を抱えて伏せた。携行した弾では足りず、インドネシア空軍基地に残されていた弾薬まで使用していたが、中には不良弾があって岸野もすでに一度故障を起こしていた。弾の入っていた紙箱にはブラジル産と書いてあった。銃自体も見たこと無いほど汚れていてガス煤まみれだ。
「正面から戦車!戦車が来ます!」
隊員が叫び、岸野は顔を上げた。インドネシア国軍のPT-76軽戦車が正面に見える通りに車体の左側を晒そうとしながら前進していた。周りにいるのは頼もしいインドネシア国軍の兵士達──ではなく、民兵だ。戦車を鹵獲したらしい。
そのまま通り過ぎろ……!岸野は血が滲むような力を込めて祈ったが、戦車は交差点で車体を旋回させ、砲身をこちらに向けて進んできた。
「こっち見んな、くそっ」
「最悪だな!対戦車戦闘、用意!」
しかし歩兵対戦車では歩兵に勝ち目はないと言っても過言ではない。歩兵が戦車に対抗するには周到に設けた障害と連接する対戦車陣地が必要だ。PT-76軽戦車の砲身が持ち上がり、76.2mm戦車砲がターミナルビルへ向く。
「狙われてます!」
「退避!」
岸野が叫んだ数瞬後、戦車砲の砲身から炎が噴き出し、遅れて発射音と着弾した耳をつんざく爆発音が鳴り響いた。正面に設けられたバリケード付近に砲弾は直撃していてそれを粉砕していた。
「くそっ、皆無事か」
「関二曹が動かない!」
「
岸野が声を張る。小隊に三門の84mm無反動砲が本来配備されているが、今回は二門しか持ち込めず、うち一門は砲手ごと屋上の偵察分遣隊の支援に差し出していた。
戦車が再び主砲を発射。こちらを震え上がらせる凄まじい発射音と共に砲弾はターミナルビルの正面ロビーに直撃して炸裂した。民兵たちは戦車の後押しを受けて勢いを増している。
さらに同軸機関銃が火を噴いた。鞭のように弾幕の火線が空港施設を叩く。隊員達は顔を上げられなくなった。
戦車は地上最強の兵器だと岸野は改めて認識した。敵をその火力と防御力で脅かし、味方を鼓舞する。圧倒的な存在感だった。
しかしその時、そのPT-76戦車にどこからともなく対戦車弾が撃ち込まれた。砲塔の後方に着弾した成形炸薬弾が炸裂し、戦車の各ハッチが開いてどす黒い煙が吹き上がった。
「なんだ?」
佐々木が顔を上げて驚きの声を上げる。
「友軍?誰かが戦っているのか」
そのPT-76を攻撃したのは
「こちらマスティフ、敵戦車撃破。繰り返す、敵戦車撃破!送れ!」
「すげえ!帰ったら戦車撃破記念パッチ作りましょう!」
二人は興奮していたが、その行動は極めて冷静だった。
民兵の群衆はAT-4の発射に気付いて二人を射撃しながら追いかけたが、二人は煙の中をあっという間に狭い路地に消えていった。残されたのは煙と使い捨てのAT-4の発射筒のみだ。
敵戦車が炎上して黒煙を上げている姿は、民兵達を動揺させたが、それでもバンドン空港を守備する自衛隊の劣勢は覆せない。弾薬が不足し始め、各班に負傷者は増え続けた。
岸野は89式小銃に新しい弾倉を叩き込むと、右太腿に取り付けた〈サファリランド〉社製のカイデックスホルスターから拳銃を抜いた。
新型の20式小銃の配備は、水陸機動団や第一空挺団が優先されているため、中央即応連隊は後回しにされているが、拳銃はSIG SAUER P220をライセンス生産した9mm拳銃から、9mm拳銃SFP9こと新型の軽量で装弾数と操作性が遥かに向上した〈H&K〉社製のSFP9M自動拳銃に更新されている。
これを使う距離で撃ち合いになれば間違いなく死ぬ。岸野は生唾を飲み込みながら、SFP9Mの
「誰でも良い。友軍がこなければ早いうちに我々は全滅する」
佐々木が言った時、「あ、」と小さくつぶやく声が聞こえ、振り返ると岸野の右わきにいた遠坂三曹が顔を両手で覆いながら後ろに転がっていった。そのままばたりと身体を広げた遠坂の右目のあった場所からはおびただしい血が流れていた。バンドン誘導隊二人目の戦死者だった。
すでに何名も被弾しており、負傷者の数はさらに増えていった。民兵の集団は今や五十メートルにまで近づいている。この距離ならば人間に射弾をほとんど集中させられる。岸野と佐々木の脳裏に「全滅」の文字がよぎった。
しかし偵察分遣隊の隊員達は絶望も無ければ焦りもなく、まったく諦めていなかった。剣崎一尉が数名を南側に回し、岸野の横にも片腕を負傷して戦闘服を血で濡らした陸曹が立ち、窓枠に被筒部を乗せてM4を射撃し始めた。この状況にも彼らは淡々と戦い続けている。
「全員、踏ん張れ」
岸野は無線に励みにもならない言葉を吹き込み、行動不能となった隊員の弾薬を集めさせようと一倉三曹を振り返った時、突然、敵の先頭集団の辺りの地面が、激しい音を立てて沸き立った。
次いで削岩機のような腹に響く音とガラガラと何かが降り注ぐ音が続いて聞き取れた。民兵の周囲で起こった嵐は五秒間ほど続き、土煙の中で先頭付近の者はあらかた薙ぎ倒されている。偵察分遣隊の隊員の無線機から声が聞こえてきた。
『ウミギリ12、ディスイズヴィーナス02。南側から進入し、掃射した。射撃効果を報せ。オーバー』
『ヴィーナス02、ウミギリ12。敵部隊制止。西側へ旋回し、方位230から再進入。再度掃射せよ。オーバー』
『ラジャー、アウト』
「やっときたか」
片腕を負傷した隊員が聞こえてくる無線と頭上を見上げて口元をにやりと歪める。顔を上げると頭上を重たく鈍いエンジン音を響かせながら大きな機体が通り過ぎた。
「オスプレイ?」
佐々木が呟いた。二機のV-22オスプレイが頭上を飛び越え、大きく翼を傾けて旋回している。ヘリと同様の垂直離着陸モードに形態を変更しながら進入したオスプレイはそのまま空中でドリフトするように機尾を大きく振って旋回し、ランプドアから
機体後部からの射撃のみでは効果は限定されたが、それを低空で行ったインパクトは大きかった。
統合任務部隊が編成される以前から
機尾を振りながらターミナルビルに迫っていた飛行場内の敵を掃射した二機のオスプレイは、強烈なエンジン音を響かせて高度を上げながら回転翼を頭上から正面へと向け始め、離れていく。
「弾を出せ!奴らに混乱から立ち直る隙を与えるな」
ジャマ・イスラミアの民兵達は軽いパニックに陥っていた。そこへ屋上から弾幕がここぞとばかりに浴びせられ、岸野達も射撃を再開する。
旋回したオスプレイが再度空港の真上を重低音を響かせながら通過し、掃射しながら去り際にフレアを放出した。眩いマグネシウムの閃光が民兵達に降り注ぐ。
さらにスポットの方向からドスの利いた大型機の爆音が響いてきた。敵の集団が散り散りになって退いていくのを確認した岸野は、それでも中腰の姿勢でスポットの出口に向かった。この出口付近の警戒に就いていた香坂三尉が疲労困憊の顔をくしゃくしゃにしながら外を指さしていた。その指先には、編隊を組んだまま、ぐっと機首を持ち上げて急制動で降下姿勢をとった三機のV-22オスプレイが見えた。
V-22は後部のランプドアを開放しながら着陸し、
彼らは偵察分遣隊と同じ水陸機動団の隊員達で、手には新型小銃として配備が進む20式小銃を始めとする火器を携行している。
彼らを展開させたV-22は再びエンジンの回転数を上げて上昇。一度、飛行場の上空から離れる。展開した水陸機動団の隊員達は素早く飛行場内に展開し、新たな防衛線を組む。滑走路にいた民兵達に火力をぶつけながら横隊で交互に突撃し、それを追い立てるようにして蹴散らしていった。
そのうちの二個分隊がターミナルビルへと駆け込んでくる。彼らは折り畳み担架を素早く広げて負傷者の収容や応急処置を開始した。
「水陸機動団第3水陸機動連隊の古森二尉です」
ターミナルビルに入ってきた水陸機動団の隊員が岸野たちの元へやってきた。戦場という意識からお互い敬礼はしなかった。
「助かったんですかね?」
佐々木が尋ねた。二個小隊弱の水陸機動団の戦闘員の増援は確かに心強いが、現状は決して安心できる状況ではないうえ、それを乗せて来たオスプレイはここにいる全員を収容することは出来ない。
「ご安心を。まず負傷者と民間人をオスプレイで後送しますが、我々の回収ヘリも遅れて到着します。まずは負傷者と民間人の移動準備を」
「了解した。悪いがエスコートは最後まで我々に務めさせていただく」
「結構です。我々は外周に展開して敵をレンジ外に押し出します」
ジャマ・イスラミアの民兵たちは一時的に撃退されているだけで、すぐにも逆襲してくるかもしれない。時間が彼らの生死を握っていた。
すぐさまターミナルビルの奥に集められていた邦人は飛行場の出口へと集められた。その場にはこの戦闘で発生した、緊急後送が必要な負傷者と
中央即応連隊バンドン派遣誘導隊の被害は三名が戦死し、五名が重傷だった。一機につき二十四名が乗り込めるV-22に分乗するため、邦人達は三個班に分けられ、その班ごとに一列縦隊で並べられる。
「我々の後に続いてついてきてください。何かあっても慌てずに、我々の指示に従ってください」
第3水陸機動連隊の通信手が無線で呼ぶとホールディングエリアで旋回しながら待機していたV-22が再び飛行場へ向かって降りてくる。
「来るぞ」
「着いてきてください」
中央即応連隊の隊員達は負傷し、疲弊していたが、彼らは使命と矜持で最後まで邦人を警護するつもりだった。岸野達は邦人を囲んでターミナルビルを出る。それを少し離れて水陸機動連隊の隊員達が護衛していた。
滑走路に向かう経路を進んでいると、あちこちから焦げ臭い煙の臭いや火薬の臭いが舞い込んできた。滑走路の傍にも民兵の死体が幾つも転がっていて、破壊された車輛が煙を上げていたりする。
戦場のど真ん中を突っ切って滑走路の傍まで近づいた頃には、V-22の独特なエンジン音が間近まで迫り、その機影もはっきりと見えていた。
「来た……」
民間人の一人が呟く。滑走路の手前で岸野は片膝をついて周囲を警戒し、彼らにしゃがむよう指示した。機影はあっという間に近づき、立った人間がよろけるほどの強烈なダウンウォッシュが吹き付けてくる。その間も岸野は、倒れた死体の中にいる生き残りが起き上がってこちらを襲ってこないかとか、破壊された車輛の影に敵が隠れているのではないかと、周囲を油断なく警戒して89式小銃を握っていた。
滑走路に着陸したV-22のランプドアからフライトヘルメットを被り、〈FirstSpear〉社製のプレートキャリアを身に付けた
岸野達はV-22の後方に真っ直ぐに接近し、開け放たれたランプドアへと向かった。
「民間人二十名、搭乗します!」
「了解!搭乗してください」
機上整備員に、エンジン音に負けないよう声を張って告げて岸野達は機体の四周に体を向けて再び警戒する。その間を邦人達が抜けて乗り込んでいく。
「あなたたちは乗らないんですか!?」
岸野の肩を掴んで大声で聞いてきたのは、岸野にココアを入れてくれた女性だった。
「乗ってください!」
岸野はここで押し問答する訳にもいかず、彼女の手を取って振り返ると機体の方に押しやった。機上整備員に連れられた女性の声はエンジン音で聞き取れなかったが、口は、ありがとうと感謝の言葉を岸野に告げていた。
それで全てが報われた。
三機のV-22はエンジンの回転数を一気に上げて周囲の物を吹き飛ばしながら再び滑走路を飛び立った。
残された岸野達、中央即応連隊と水陸機動団の隊員達は引き続き、空港とその周辺の警戒に当たった。三機のV-22はバンドンを離れて飛び去ったが、二機のV-22が引き続き空港の周囲を旋回し、ジャマ・イスラミアの民兵たちを威圧し続けてくれた。
「やり切ったな」
佐々木が邦人を乗せたV-22が飛び去った方向を見つめて呟いた。
「家に帰るまでが任務ですよ」
岸野はそう答えながら迎えのヘリを待った。気を緩めるとアドレナリンの燃え尽きと、心の揺り戻しで緊張が解けて眠気が襲い、気だるさで戦えなくなり兼ねない。
勝って兜の緒を締めよとはこの事で心理学的に起こり得る体の反応だった。
全員に注意換気しながら改めて持ち場に配置し、回収を待っていると古森二尉の言葉通り、遅れて海自のヘリが到着した。改めてオスプレイの長距離作戦能力と展開速度を思い知らされる。オスプレイは一般のヘリに比べ二倍弱の速さで飛行できる。
ヘルファイア対戦車ミサイルと12.7mm重機関銃GAU-21をドアガンに装備した援護役のSH-60K二機に続いて四機のMCH-101掃海・輸送ヘリが到着した。一機につき三十名が搭乗できる。
押しかけるような勢いで中央即応連隊の隊員達はヘリに殺到し、搭乗した。とにかくこの場からいち早く離脱したいという心理状態だった。水陸機動団がその搭乗を援護しつつ他のヘリに乗り込んでいく。
「押すな。落ち着いて乗れ」
「慌てず急げ」
岸野も疲れ切った重たい体を引きずるようにしてMCH-101の機内に乗り込む。エンジンの排熱が機内に吹き込んでいて熱いが、心地よかった。生きているという実感が湧く。SH-60Kが旋回しながらドアガン射撃を時折地上に向かって浴びせている間に全員の搭乗が完了した。
「剣崎一尉?」
佐々木が呟き、振り返る。先ほどまでヘリの周囲で警戒していた偵察分遣隊の隊員達はいつの間にか姿を消していた。驚いて岸野も周囲を見るが、その姿は影も形もない。
「
近くにいた一倉に聞くが、一倉も首を振るばかりだ。MCH-101のエンジン音が高まり、機体はドアを閉じるのももどかしいばかりにフセイン・サストラネガラ空港を後にした。
剣崎達は海上自衛隊の輸送ヘリが降着し、中央即応連隊と水陸機動団の撤収完了を確信すると踵を返して空港を陸路で脱出していた。途中で山城一曹ら監視班と合流する。彼らも遊撃組として戦闘を繰り広げ、大通りから空港に向かっていた戦車や装甲車を撃破し、AT-4対戦車ロケット弾をすべて射耗していた。
空港を出て街中を進む道中の交戦はほとんど無く、偵察分遣隊は止まることなく車両班の位置へ到着した。
車両班も少なからず自衛戦闘は行ったが、無事だった。
高速道路からはインドネシア国軍が展開し、バンドン市内へと前進しようとしている最中だった。避難民がそれに逆らって列をなして進んでいて、それを尻目に偵察分遣隊はジャカルタへと向かう。
「いってぇ……」
左腕上腕を被弾した坂田がハイラックスピックアップトラックの荷台で板垣と野中から手荒い治療を受けていた。
「骨に当たってたら腕が無くなっていたかもしれませんよ。ラッキーです」
板垣が包帯を変えながら言った。
「マジかー。帰ったら療養休暇もらえるよね」
「一番辺鄙な自衛隊病院を選んであげるわ」
「勘弁して下さい」
野中が珍しく冗談らしいことを言っているのを聞きながら剣崎は衛星電話で神村に報告を行っていた。
『部下を全員、連れ帰れ。次の任務が待っている』
神村はそう言うと返事も待たずに電話を切った。無駄が嫌いな合理主義者らしい。剣崎は苦笑し、衛星電話をしまう。
「今、笑いました?」
荷台に立って機関銃を構える大城が聞いた。その言葉に反応した野中が剣崎に振り返る。
「さあな」
「良い所をまた見逃しましたね、野中二曹」
軽口を叩いた坂田だったが、そのあと背後から短い悲鳴が聞こえた。野中が坂田に制裁を加えたらしい。
「帰るまでが遠足、ですよ」
後部座席に座る、額を切った那智が呆れたように呟く。その隣に座った西谷はすでに爆睡していた。その一方で荷台では興奮冷めやらぬ司馬が大城の隣に蹲るように座っていた。
「大丈夫か」
剣崎が声をかけると司馬は顔を上げた。
「生きてる実感がないです」
「生きているのが不思議な戦場だったか」
「ええ、弾が飛び交ってて何人も死んだり怪我して……何時死んでもおかしくなかった」
「弾が避けてくれた訳じゃない。撃っては場所を変え、撃っては姿勢を変え、面倒な基本基礎をちゃんとやっていたからだ。自信に変えることに努めろ」
「自分には皆さんのように北朝鮮に潜っても同じ事が出来る気がしません」
「やらなければ死ぬだけだ。戦訓は大事だぞ。忘れるなよ。あとで詳報を提出してもらうからな」
「はい」
彼らは疲労していたが、新人の司馬を除き、これまで共に経験を積んで来た者達は未だに余裕を維持している。剣崎はそのことに満足を覚えていた。
偵察分遣隊の発足は偶然の産物だった。事態が終結したことにより、不要だとして解散させる動きもあったが、剣崎は今日まで偵察分遣隊を存続させるために部内で戦い続けていた。
軍備は所詮保険だ。使われることがなければただ防衛予算という保険料を無駄に払い続けるだけで、平時に置いてその存在は国の財政を圧迫する重りでしかない。しかし、病気や怪我、事故に備えて保険に加入するように平穏な日々が危機に晒されることは起こり得るのだ。
練武必勝を期して陣頭報国を誓う。精強な部隊を育てることが抑止力となり、抑止破れて侵略を受けたる時は、生命を投げ捨てでも陣頭に立って戦い、平和を速やかに回復する――それが剣崎が自らに課した使命だ。その使命を果たすことの出来る部隊になり得たことを剣崎は確信し、次なる部隊の進化をすでに考え始めていた。
野中は坂田を小突く片手間で治療をしながら満足そうな剣崎の横顔を窺っていた。この男の野心は、国を守るためにある。
男達の世界で生きていくには、自分は小さな存在でその努力が適う事は少ない。女だというのに戦いに身を投じる事を選んだ野中には秘めたる熱い闘志があった。
平和とは戦争と戦争の間の緊張の事だ。戦争が無ければ平和も無いという皮肉な世の中だということに気付いている野中は、その皮肉な世の中に人々を気付かせないためにも、人生を戦い抜くことを決意した。そんな野中を拾ってくれた剣崎には感謝していた。性別や年齢ではなく能力と資質で合理的に評価する剣崎はあくまで冷徹で自分がその期待に応えられなければ替えられるだろう。
この部隊はまだ立ち位置も存在も危ういが、自分のような人間が活躍できる場として貴重な部隊であり、その隊員達もそれぞれを適切に評価している。偵察分遣隊は野中が望む自分の居場所だった。
剣崎の野心が続き、強かな仲間達とこれからも共に戦えることを野中は願いつつ、剣崎の顔を見ている野中をからかおうとする板垣にも足蹴を入れて空港への到着を待った。
The Detachment 分遣隊、インドネシアへ急行せよ 小早川 @illegal0209
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます