爆殺計画

 そんなこんなで迷宮のようなこのダンジョンを彷徨う事数分。案外簡単に横穴を見つけることができた。時折くぐもった獣の唸り声や獣同士が争い合う物音などが耳に入り、曲がり角から出てきたらどうしようかと本気で焦っていたが何とかうまく逃げおおせることができた。ともあれ、結局のところ課題は何も解決していない。無理やり口にした肉のおかげで多少は空腹感も和らいだが、これからの事を考えると食事と水分の確保は見過ごせない課題となるだろう。そもそもこんな状況で生き延びることができるのか正直心配で心配で仕方がない訳だが、まぁそんなことを気にしていても静止に関係があるわけではあるまい。むしろ下手に不安になってしまっては生存に悪影響を及ぼすかもしれない。必要のない、マイナスの感情はすぐさま捨て去るべきだろう。そうすることが俺にとっての最適解に違いない。気にしても仕方がないんだ。死ぬときは何やったって死ぬ。死なないための努力はすべきだが杞憂など時間の無駄だ。下を向く暇があるなら前を向くべきだ。

 そんなわけで横穴でひとまず安全を確保した俺は冷静にその中を観察する。鍾乳洞のようなつららを思わせる形状の石が天井からぶら下がっている。それから時折ぴちゃぴちゃと水滴が滴り落ち、絶え間なく水たまりを形作ろうとしている。

 気温は体感二十度中間から前半。快適な温度と言って差し支えない。ひとまずはここを拠点とすればいい。流石に何年もここで暮らすのは嫌だからいずれ脱出を目指すが。何か行動を起こすにしても情報があまりにも足りなさすぎる。

 まずは情報収集。あまりに現時点で奇想天外なことが起きすぎて逆に冷静になっている脳内がそう囁く。

 この世界はどのような仕組みになっているのか。ここまでダンジョンなんかを用意していて、その上でステータスなんかだしてくるような世界だ。ゲームにおなじみの経験値やジョブなんかがあってもおかしくない。むしろそう来てもらわないと困る。



『室町 裕也』

 レベル:150 性別:男

 職業:??? パッシブスキル:なし

 アクティブスキル:隠密/剛健/威圧


 装備:レザー一式/ナイフ


 ステータスの事を考えていると、自然と目の前の岩に刻まれるようにして滲み出るステータス画面。ちなみに現在、スキルは未使用だ。その件に関しても試してみようと思う。隠密という言葉からして有能だと思い、使ってみようと思ったのだが、代償があってもおかしくない。例えばMPの消費とか。ステータスの外にもしかしたらそういう数値があるのかもしれないが、現時点で確認が取れてない以上、硬直時間なんてものがあった日には平気で死を招きかねない。好奇心は猫をも殺すのだ。慎重になりすぎるということはいくら気にしてもないだろう。

 もうちょっと詳細なデータなどは出ないのだろうか。もう少し粘って見たら出るんじゃなかろうか…出ろ…むむむ…。


『室町 裕也』

 レベル:150 HP:2400/2400 MP:790/790 EXP:89000/90000 

 余スキルポイント:35000 性別:男

 職業:??? パッシブスキル:なし

 アクティブスキル:隠密Lv1/剛健Lv1/威圧Lv1


 装備:レザー一式/ナイフ


 出た。ちょっと詳しくなったっぽい。スキルポイントという項目があり、スキルごとにレベルが用意されていることから十中八九これらのポイントはスキルに割り振ることができるのだろう。

 しかしだ。レベルアップとは違って選択肢が用意されている以上、自動的には割り振られず、たまる一方の様だ。流石にこのままでは宝の持ち腐れという物だろう。使えるものは何でも使っておかないと後で悔いが残る。早急にこれらのポイントを割り振る必要がある。この世界には意識や言動を感知して実際に影響が起こっていたりすることを見ると、割り振ることを宣言すればいいのだろうか。

 …いや、まだ早計か?各種の性能を見てからでも遅くは無い。不完全なものに割り振ってもそれこそ後悔するだけだ。あとで戻す方法が確実にない以上、振り分けるのには十分な吟味を重ねる必要がある。

 とにかくこの鍾乳洞で得られる水はごくわずか。これに頼りきりでは早々に限界を迎えることだろう。この世界にも雨という概念があるのかどうかは分からないが、地上ではない以上それも期待できない。生き血を飲むという方法がない訳ではないが、個人的には遠慮したいところだし、前回の様に運よく目の前の敵が死んでくれるということもないだろう。そう考えると、魔法的な力で水を生み出すことも試してみなければならない。

「んー…なんて言えばいいんだ?水、出ろ」

 …出ない。

「いやまぁそうだろうな…。そんなに甘い世界じゃないか。こう…もっとイメージを膨らませて」

 そう言いながら思い浮かべるのは中学の時に授業で聞いたことのある水の生成。

 少々強引だがまずは大気中の水素を寄せ集めるイメージ。流石に自己ったら洒落にならないので団子くらいのサイズの水素の塊を思い浮かべて、その近くに次はマッチ程度の炎を思い浮かべる。そう、俺がやろうとしているのは水素爆発だ。水素自動車などにも用いられている技術で、炎と水素を掛け合わせて爆発させ、水を生成する。具体的な事は何にも知らないし、もしかしたら間違っているかもしれない。けれども試してみる価値はあるし、この世界ではイメージさえあればどうにでもなるなんて事実が判明すればそれこそ儲けものだ。ラッキーなことこの上ない。

「そう…そのまま、合わさって…っ!?」

 ボンッっと何かが爆発するように燃え、ばしゃり、と大量の水――具体的にはバケツをひっくり返したくらいの量の水が足元に落ちた。想像以上の量の水が手に入りそうだということが判明して正直助かった。この世界特有の科学的なものがあるのだろうか。魔法がある世界なら、エーテルとか魔術元素っぽいファンタジーなものがあってもおかしくない。僅かに期待に胸を躍らせ、収穫をひとまず喜んで――

 そして気が付く。




「…モンスターとか、極限まで水素集めたら爆殺できるんじゃね?」

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例えば転生先がダンジョン いある @iaku0000

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