天才エルフ魔法使いエリリエちゃん

芥島こころ

伝説のエリリエ伝説

 はいどーもパツキン天才美少女エルフ魔法使いエリリエちゃんです。今日も真っ黒な森がモリモリしていて空なんて見えませんね天気がわかりませんねいつも薄暗くてほんとうに大丈夫かって思うんですけどまぁなんとかやってるみたいで大丈夫っぽいですこんにちは。本当にエルフってこんな陰気な森で鬱々と暮らしていて病気ににならないの?生きてる?息してる?ってなっちゃうよね。今のところ息してるかな。

 そんなこんなで私は天才すぎてめちゃくちゃに強くなったというかちょっと前たぶん二〇年くらい前の話なんだけど一人で森の中を散策っていうかぶっちゃけアレなキノコ採りで徘徊していたんだけどそしたらすげぇでかくて家よりでかくてマジかよヤバイじゃんってなるサイズのドラケリオンがヤバイくらい硬いはずの黒い森の天井をバキバキと割りながら登場して即さらわれてウワーもうダメだー食料だー食べられるんだー死んだーこれは死んだわーと思いながら爪で掴まれたまま森を抜けて雲を抜けてクソ寒い上空の空気で食べられる前に死にそうになりつつ着いた巣で待っていたのは餌を待つ子ドラではなく死にそうなドラちゃんで、私を連れてきたすげぇでかいドラケリオンが「手荒に扱ってすまなかった。急いでいたのだ。単刀直入に言う。この子を治してほしい。エルフは治療術が得意と聞いた。どうか頼む」なんて頭を下げられちゃってもう本当にヤバかったんだよね。だってそのときの私はただでさえ少ない魔力量なのに探索魔法使った直後でほとんど魔法使えないもん。まぁ天才だから知識的にはモチのロンでオッケーなんだけど生まれつきの魔力量いかんともしがたくって仕方ないよね。で、そこで私は賭けに出たの、一世一代の大博打とまでは行かないけどわりと強めにグッと来る感じ。雲の上の岩壁に掘られた巣には当ドラケリオンが集めたんだと思う光り物つまり黄金のアクセサリとか宝石とかがたんまりあってその中に魔力たっぷりの魔石レベルの宝玉が少しだけ混ざってて本当にマジでビビッたんだけどそれはそれとしてそれがあれば私は天才だからそこから魔力を借りて治療術くらいならなんとかなりそうだったから私の波長に合う宝玉というかもう魔石って言っちゃうけどを集めて私の一部として扱うことで魔力量を補填したんだよねさすが私。普通そんなことしないよできないよだって失敗するでしょそうだよねめちゃくちゃ厳しいの分かるでしょでしょ。それでもまぁ私は天才だから子供の頃にどっかで一回だけ見た治療術だけどバッチリ覚えてるし借り物の魔力でもわりと難しめの魔法だって使っちゃうし治療術そのものは単純な出力の問題だったからそのへんはバッチリなんだけどやっぱりエルフ用治療術だからドラケリオンに効いたかどうかはわりと怪しくてどうかな~ヤバイかな~って感じだったんだけど結局ドラちゃんはなんとか快方へ向かって、若干これ自分いらなかったのでは疑惑が立ち上がろうとしているところを脳天踵落としで座らせて両手をもみもみしながらお礼としてドラケリオンがあまり見向きしてなかった魔力入り宝玉のかけらとか金ピカ装備品に付いてた霊符とかひっぺがしてそれらを自分に注ぎ込みまくって魔力大爆発な感じで強化された養殖最強天才美少女エルフ魔法使い私に変身して自力で飛んで帰ってきて今に至るってわけ。

 この前一ヶ月くらい前だっけ森の天井に穴が空いたでしょ。アレ帰ってきた私。


「うわわりとゲスじゃんすげぇっていうかあれエリリエだったんだマジビビったんだけど」

「最近顔見ないと思ってたらマジ半端ないコトしてるじゃんやるじゃん! 頭だけ天才だけど魔力が足りないとか言われてたのに魔力が揃ったんじゃん完璧じゃんやるじゃんエリリエ。でも魔石パチるのはちょっとゲスくない?」


 朝なんだか夜なんだかよくわからない暗い森の中の小さな広場で倒木を魔法でいい感じに切って乾燥させた椅子に座り焚き火を囲みながら数少ない友人たち(女二人)(バカだけどいいヤツ)がフランクなエルフ語で褒めつつディスってくる。

 ゲスじゃないし。パチってないし。やる時はやる女の子なだけだし。


 結局。私は首都の隣の集落住み(わりと静かでわりと便利)なんだけどそこから急ぎ足で数時間しか離れてないところに現れたドラケリオンにさらわれて何故か助かってでも帰り道が全然わからなくてドラ岩壁の付近をウロウロ飛んでいたら当ドラケリオンが牙むき出し(たぶん笑顔)で「娘の恩人だ。背中で送っていくよ」なんて言ってくるけどまたあのクソ寒い思いをするのか勘弁してよと思って丁寧に断って豊富になった魔力で自力で飛んだり歩いたりなんかよくわからない賢そうな生物っていうかエルフ語分かるんだから実際賢いんだろうけど夜をまたぐ度に姿も大きさも変わる本当によくわからない生物と友だちになったり山を超え海を渡りおもしろ冒険しながら帰ってきてついに故郷のエルフの森を見つけてテンション上がって森の天井を破って派手に到着するまで都合二十年くらい留守にしたんだけど、同胞エルフ達といえばエリリエ最近見ないよねまた何かやってるんだろうねなんかよくわかんないけど大丈夫でしょみたいな扱いで誰も迎えに来てくれなくていやいやいやめっちゃでかいドラケリオンじゃんみんな見てたでしょアレどう考えてもヤバイでしょって言ってもまぁ森での数少ない災害だよねっていうかエリリエ捕まってたの全然気付かなかった大丈夫だった? とか聞かれるレベルで本当にお前ら適当に生きてるよね本当にいいかげんにしろよと思わなくもないけど気付かなかったなら仕方ないよねって感じ。私含め極々一部以外のエルフって基本バカだからまぁそうなんじゃない? ってなったらまぁそうなんだよねってなってそこから進まないからね本当にね仕方ないよね。まぁでも基本いい奴らだから私も今すぐ森を出てこうなんて思ったりはしないけどね。過去には私みたいに賢いエルフがまだ見ぬ世界を目指して旅に出たって話もあるんだけど戻って来たって話は聞いたことがないからまぁ外にも面白いところあるだろうし、もしかしたらもしかしなくても問答無用で死ぬような危険なところとかあるだろうし、けど私はここエルフの黒い森を結構気に入ってるんだよね。だから特に外へ行きたいってことはないし行っても戻ってきたいよね。まぁ、外へ出る選択肢があるのは前の私みたいに天才だったり今の私みたいにめちゃくちゃな魔力があったり十分に成熟したドラケリオンみたいにめちゃくちゃな力が無いと無理だけどね。黒い森の周囲にある森林結界は生半可な知識や力じゃ抜けられないし、天井をブチ破るのも成熟ドラケリオン並の力がいるから並エルフには無理でしょって言っても私がそうであるようにみんな子供も大人も特に現状に不満はないみたい。ちょっと深いところへ行けば美味しい木の実や珍しい花はあるし、肥沃な畑はたっぷりの食料を生むし、輝く美しい滝や深く澄んだ湖や妖精踊る老木や宝石の採れる谷や黄金を含んだ岩やとにかく色々あるし、基本不自由しないんだよね。極々たまに襲ってきた巨大めちゃツヨ生物に食べられるエルフも居るけどそれはエルフ達も植物にやってることだしお互い様だよねって感じでみんな納得してるし納得しなきゃ黒い森では生きていけないし。あ、でも陽の光だけは得にくいかな……一応このモリモリした森にも開けたところはあるけど害獣が集まりやすいから行きにくいんだよね。だからみんな生白いけどこれまで数千年間エルフはずっとそうだったんだしまぁ大丈夫でしょ、たぶん。そんなわけで、この生活は結構気に入ってる。すごい魔力も手に入ったけど天才だからそんな力を振り回したら面白くないことになるのはわかってるし私や数少ない友人が困った時とかにたまに活用する感じで趣味の魔法の研究を進めつつ普通に生活していきたいよね。



 で、パーフェクトボディ―になっちゃった私は森での我らエルフ達の領土を広げるべく長老の方々に指示されて方々へ設置されまくってる開拓村の戦闘力&便利屋として森の中の色んな所を行ったり来たりしてる。昔は森林結界の中は全部エルフの領土だったんだけど徐々に害獣とかに押しやられて結構小さくなっちゃってて。長老もめちゃ強いんだけど動けないからそれに準ずる私が領土を取り戻すアテにされまくってて嬉しいことは嬉しいんだけどマジ鬱陶しいのも確かで引きこもって魔法とかキノコとかの研究をさせろよなぁなんて思わなくもないんですけど期待されるのもそれなりに結構クるし領土が無くなるのも困るからこうして動物忌避魔法を振り回しながら有望株な開拓村に出向いてるってわけですよね。我ながらチョロい。あ、でも鬱陶しいのは本当に鬱陶しいからねそこんとこよろしく。凶暴な巨大動物が跳梁跋扈な深くて黒くて巨木がモリモリした森の中でエルフの縄張りの外を駆け回るのはちょっと、ほんのちょっと疲れるからね……


 現在はわりと首都から遠いというか森林結界にほど近いけど動物にとっては猛毒なレベルで空間魔力密度が高くてエルフ魔法系特有の中和というか一体化するというか身を任せるというか同化する系のアレでアレしないと動物は基本的に死ぬっていうエルフ(と植物)にとってすげぇ良い場所があって周囲の地形とか考えても有望株っぽい候補だった場所に居ます。有望株っぽい場所だったんですよ本当に。約20名の仲間(体力バカ)たちと共に簡素な家を五戸建てて柵を作って畑作って開拓村としての体裁を整えてさぁ中長期的評価始めよっかってなったら有害動物というかぶっちゃけ魔力的に変質したモンスターって感じの異形化した狼とか猪とかがジャンジャン来てやべぇよってなってるところですね。もちろんこれはちょっとこれは開拓村としてちょっとどうするのって事になるんだけどいつの間にか周囲と連絡がつかなくなっていてハハーンさては孤島で仲間と力を合わせてサバイバル系だな? ってなるんだけど実際問題食料はしこたま溜め込んである保存食があるし飲料水は空気中から獲ったり地中から獲ったりできるしバッチコイや戦争じゃボケという気概で毎日を過ごしています朝ですおはようございます今日も元気にやっていきましょう。

 午後になってまだ日は高いけれど今日はなんでか知らないけどもう疲れたというか精神的にダメなのでダメだから家(仮設)に帰って寝ようと思って仲間に声かけてから開拓村の外周をグルッと囲む柵がモンスターどもがガンガン突っ込んでくるからすぐボロボロになちゃってそれを修理と言うかもうほとんど作り直しって感じで作るために広げていた材料とか道具とかバババーと片付けて汚れも魔法でサクッと片付けて自分もサクッとピュリファイって帰る準備万端になってよーーーし帰るぞ家だぞ布団だぞ携帯用ペラペラ布団だけどな!!!って一歩踏み出した瞬間に周囲警戒班が持ってる警鐘がカンカンカンカン鳴るもんだから本当に「は?」って素で声が出たりするレベルで「は?」ってなって貴様らタダじゃ帰さねぇぞだし修理したところ壊したらもう絶対に許さないからな警鐘が鳴るってことは大猪か狼の群れかどっちかどっちだどっちでもいいブチ殺してやるぞの心持ちで全身に強化魔法をかけて腰に下げた空間圧縮バッグから私謹製のオーガーが持ってそうなサイズの大鉈を抜いて強化した脚力で土煙上げながら現場まで駆けつけて見た光景がこれ。これなの。


「おお、すごい。濃魔力帯を超えてきたかいがありました。エルフの開拓村でしょうか。この様式は始めて見ました」

「学者さんよォ、何でもいいけどよぉ、警鐘らしき鐘を鳴らされた上にそこのエルフさんにめちゃくちゃ睨まれてるんだけどよぉ」

「エルフと争うのだけは勘弁して」

「ま、仕事だけきっちりしてればいいっしょ」


 ヒューマンが四匹。オスが三匹にメスが一匹、どうやって黒い森の外周の結界を抜けたのか知らないけど全員わりと装備が整った状態で開拓村の門の前に立っている。けど歴戦の覇者という感じは全然ないし雰囲気的にも強くなさそうだしうちのバカどもでも倒せそうだし私要らないよねこれ。私は疲れてるんだよね。みんな集まってきたしいいよね。

 じゃあ帰って寝るから。



 で、翌日朝に起きてふと思ったんだけどヒューマン語分かるの私だけじゃないのこの開拓村って基本バカしかいないしやべぇよ今どうなってるんだろうヒューマンってこの空間魔力密度だと死ぬんじゃないのなんで来たのおかしいでしょいやまぁ死んでも別にいいけど片付けがめんどくさいしどうしよ焦る~~~って急いで髪を梳いて着替えて外套を羽織って装備品整えて丸太で作ったログハウスっぽい建物を出て辺りを見回したらバカ数名と談笑してる4人組を見てポカーンってなってポカーンってなった。なんだそれ。エルフ首都に居た頃にエルフ爺さんからエルフ語は極一部除いた他言語と比較して相当に難しくて外部に話者はほとんど居ないって話を聞いたことがあるんだけどまさか爺さんはホラ吹きで実際そんなことはなかった…? なんて考えながら近づいていったらヒューマン語 VS エルフ語で会話してて天才かよこのエリリエちゃんでもフィーリングでそこまで会話できないよすげぇよ。って思ってつっ立ってたら学者さんと呼ばれていたオスが私に気付いて語りかけてきた。


「おはようございます。あ、翻訳魔法使えるので大丈夫ですよ」


 早く言えよ。


 いやそうじゃない。この環境でなんで生きてるんだろう。なんか普通に会話してるんですけど。バカ(仲間)には分からないだろうけれどそもそも翻訳魔法常時発動って魔力容量ヤバイでしょと気付いてしまってエリリエちゃん驚き桃の木なんだけどどうしよ質問して良いのかなどうかなでも研究者系の魔法使いしかも実地系ならまぁ大丈夫だと思うけどでもやっぱそういう効能的に秘術っぽい魔法に外部の者が触れると不味いよねと思ってたらやっぱりバカはバカなので「え、ちょっと、そういえばヒューマンってここに居るとヤバいくねぇ?」(エルフ語)って聞いちゃうから本当に考えが浅いんだよなあと思わなくもないけどその直球さは好きだよ私がリスク負わなくて済む的な意味で。まぁ一応すこしだけ身構えたけどあんまり意味はなかったようで。


「いえいえ、そうでもないですよ。コレはこちらの道具によるものですし、対濃魔力帯への対策としてはそれぞれの装備品に掛けられた魔法の効果になります。どれがどうとは言えませんが」


 なんて言ってハの字眉で微笑んでいる茶髪若者オスヒューマンにへえすごいですねと相槌打ちながらもちょっと考えてしまう。だってこれ森林結界を越える手段とこの高空間魔力密度に耐える装備を人数分用意できるってことでしょ。もしかして、森の外はそれなりに進化しているのでは。え、マジで。マジで? エルフやばくない?


「そんなにこの魔道具が珍しいですか? エルフの魔法は人間よりも優れていると聞いていましたが、魔道具に関してはそうでもないのでしょうか」


 しらない。知らない。知らない!

 これでは天才魔法使いとは名乗れない……!!



 ヒューマン達は3日間滞在し、私達たちに許可を取った上で周囲の薬草や木の枝を拾って帰っていった。ヒューマン達が開拓村を離れると私の体調は回復したし通信も可能になった。つまり、高空間魔力密度に対抗するために魔道具で周辺の魔力をガンガン吸い取るか中和するかしていたんだと思う。遮断もしていたかもしれない。とてつもない技術だと思う。すっかり回復した今の私でも現象そのものはおぼろげながら分かるんだけど詳細はわからない上に私には再現ができない。悔しい。いくらエルフがバカばかりとはいえこのエリリエちゃんはエルフの中でほぼトップと言える魔力量と知識を持っていると思っている。実際長老たちに教えることも極たまにだけどあるといえばある。そしてエルフは基本ひきこもりなのでほぼ全員森林結界の中に居る。つまり、エルフの魔法技術および魔道具技術はヒューマンに遅れを取っているということ。悔しい。

 これは、悔しい。



 それから私は開拓村回りをやめさせてもらって領土中を飛び回った。外へ向かう準備のため。いやだって何があるかわからないじゃんあのしょっぱいヒューマンですら私の理解が及ばないような魔道具を持っていたし装備を整えるのは旅の基本らしいしそういう基本はきっちり抑えていこうねって思うよね。その過程で何人かめんどくさい知り合いができちゃったけどまぁスルーで。出てっちゃえば接点はないでしょたぶん。

 長老からも許可が出た。何者にも負けぬ知識と経験を積みエルフのさらなる発展に貢献せよ、だって。一日話してわかったんだけど長老も現状を維持していくだけではいずれこの環境は壊れてしまうという予想はしていて、でもまさか鋭い羽のフィアー族どころかあのヒューマンにすら負けてるってのはちょっとびっくりしたらしくてわりと私に期待してるみたいで責任重大だよね。まぁ任せておいてほしい。

 さて、出かけよう。友人二人にも挨拶したし準備は万端。携帯食料オーケー。ちょっと古いけど簡単な地図も持った。水は魔法でどうにかなる。魔力薬も少しだけどある。頑丈で滑らかな下着と薄くても簡単には破れない呪印入りのエルフ伝統の外着。外は黒地で内側にエルフ銀糸で対抗魔法を刻んだマント、そして天然エルフ銀の塊から削り出した厳つい肩アーマー! 大事だよね! もちろん魔石付き! 鉢金よし! ブーツよし! 手袋よし! 装備よし!

 この天才美少女エルフ魔法使いエリリエちゃんに出来ないことはない!



 とりあえずドラケリオンにさらわれた帰り道で見かけた海へ行ってみようと思って一ヶ月くらいかけて休み休み適当に飛んできたんだけど、道中で見かけたはずの島が無い。エルフの街がすっぽり入るようなサイズをだったから見逃すとは思えないし、確か不定形の友人と一緒に訪れた時にはあったはずなんだけど、と思って上空から海面を眺めていたら何かが動いた。あれが噂に聞く人魚、かな。近付いてみる。はろー。


「うわぁびっくりしたぁ! え、エルフ!? なんでこんなところに」

「はろはろー。ちょっと旅してるんだよね。何か面白いことって無い? 例えば島が忽然と消えるとか」

「――なにか知っているですか?」


 よくないことを聞いてしまったらしくて目線が氷。待って待って。


「ち、違うって。ちょっと前にここを通ったの。その時は綺麗な島があったから寄ってみようかなぁと思って飛んできたんだけど見当たらなかったからなにか知ってるかと思って」

「違うのですか。知ってるも何も、私は当事者ですよ」


 諦めたような顔の若い人魚から話を聞くと。昔々、海を彷徨っていた人魚たちはそれはそれは美しい浮き島を見つけそこに住むと決め、原生生物を刺激し過ぎぬように穏やかに暮らしていたそうな。その島はたいそう美しく、空を往く生物たちによって存在を広く知られていて人魚たちはそれらとほそぼそと交易をしたり魚を必要な分だけ採ったりしていたんだけど、ある時、ってこれがここ二〇年以内のことなんだけど、海の魚がどんどん減っていって原因が分からず途方に暮れていたらある海ドラゴンが現れて「魚がほしければこの島の半分を譲れ」なんて言ってきてバリバリの戦闘民族な人魚たちにそんな事言うもんだからそりゃもう即戦争。なんだけど、争いの最中にドラゴンが原因不明の死を迎えてこれはなにか変だ、って島をよく調べたの。浮いてるからもちろん裏側があって人魚は日光を必要とするからそんな深くまで行ったことがなかったんだけどどうにもその裏側を通り過ぎる生物が居ないってことがわかって、もう島は住処としてずいぶんと慣れ親しんでいたから今更捨てるわけにも行かず決死隊を組んで深くまで潜って見たら、巨大なイソギンチャクみたいな生物が手当たり次第に捕食していて。


「……沈む要素なくない?」

「これから! これから話すんです! もう! はぁー、もう結論から言います。そのイソギンチャクが島を浮かべていたのです。魚を取り戻そうと私達が攻めた結果、イソギンチャクが弱ってしまったため島は沈みそうになったのです。でも島の恵みは惜しいからと人魚全員と大鯨様の協力で島を動かして浅瀬にまで移動させました。それでも傾いてしまったし気候がほんの少し変わったため島の様子は少しずつ変わっています。しかも移動させた影響なのかイソギンチャクは完全に死んで萎んでしまいました。私はイソギンチャクの生態を詳しく知るために島があったここでイソギンチャクと似た種族で言葉が通じるものが居ないか探しているのです。私の他にも何人か活動しています。そもそもイソギンチャクがなぜ島を浮かべていたのか、なぜ突然無差別に生物を襲うようになったのか、なにもわからないのです。でも、もう時間が……」

「なるほど。島を浮かべればいい。裏側に空気でも貯めればいいのでは?」

「もうやったのです。でも島そのものがあまり気密性が高くなく……」

「結界は?」

「え?」

「結界は張ったの?」

「え……?」


 なるほど私にどうにかできるかも。


 ということで早速やってまいりました通称人魚の島。ほんとに浅瀬にあってまるごと傾いててウケる。じゃなくて、水中呼吸魔法……は海水を肺まで飲み込むってことでちょっと気が進まないので水中から酸素を取り出して口の中に導く魔法、体を薄く覆う個人用物理結界魔法、対攻撃魔法攻勢防御結界。視力強化、筋力強化、その他諸々。ガッチリ固めて潜ってすぐわかった。岩がスカスカじゃん。ダメじゃん。そりゃ空気抜けるよ。ってサクッと持続型の物理結界を張ってオッケーじゃないのこれ? 一応空気を生み出す魔法もかけておいて完璧じゃん。


「できたよ」

「え?」

「だから、今潜って結界と空気用意したから数日中には浮くと思うよ。魔力は周囲の空気から供給するようにしておいたし私が思いつく限りの防御結界も貼ったからたぶん半永久的に大丈夫だよきっと。いやぁ、いい仕事したなぁ。私の修行にもなったし一石二鳥じゃんやはり私は天才では」

「え……?」


 解決! 次行ってみよう!

 まぁ一〇年後くらいに様子を見に来るよたぶん。


「ええっ!? お待ちを! 本当なのですか!? 本当でしたら是非お礼を! ああ、ちょっと、待ってくださぁーい!」



 情報収集にヒューマンの街へ立ち寄ったらあれよあれよという間にでかい石造りの建物の地下牢に入っている。なんで? と思いつつもいきなり騒ぎを起こすのもなぁどうやって穏便にここを出ようかなぁなんて考えていたら地上からカツンカツンと階段を降りて来た二人組が来た。禿げたオスと…エルフのメス?


「ほほほ、ちょうどエルフが来てくれてよかったですな」

「フン、このような小娘をワタシの身代わりとして差し出すのは不本意なのですがね」


 エルフ……じゃないな、こいつ。幻影魔法と変身魔法の組み合わせ。足りない魔力は魔力増幅の魔法具か。元は、ええと、死霊がヒューマンに入って操っている。なるほど。エルフを騙るのか。万死に値するぞお前。ええ、それは許されない。それは許されないなぁ。


「これで帝国にも言い訳が効くな」

「ほほ、言い訳などと。これは必要な投資なのです。私が街長になるためのね」


 ああ? 私を売る気か?

 ムッカチーン。



 ……。

 街が半分ほど更地になってしまった。本当に申し訳ない。



 遥か高空。

 ただ蒼と白と風の世界。

 飛ぶこと。

 軽くなるからだ。

 自由。

 孤独。

 世界のすべてが敵になる。

 空気が薄い。

 物理結界が今にも綻びそう。

 出力全開の飛行魔法が悲鳴を上げてる。

 まだいける。

 もうあぶない。

 あとすこし。

 空の星に手が。

 




 海中を漂っていた。ああ、落ちたのか、と思うと同時に悔しさ。あとちょっとで翼人伝説に語られる天空の島に届くと思ったのに。まぁ届いたとしても物理結界はヤバかったし魔力は尽きかけていたしそのまま空に居たら死んでたかも。まだ早かったんだろうね。もっと鍛えないと。


 眼の前には大きな薄い壁。いや、クラゲの傘。何という大きさ。端が視界に収まらない。噂でも聞いたことがない。どこなんだろうか。いや、それよりも。


 貴方が私を助けてくれたの?

 ありがとう。


  どういたしまして


  あなたにはおおきなものをかんじる


  まだみちはつづく


  うみにいればたすけてあげられる


  わすれないで


 ……これは、すごい。魂に直接語りかけてきた。何年、何百年、いや何万年、かな、一体どれだけの時を経てきたんだろう。今、私はとてつもない体験をしている気がする。今はよくわからないけれど、とりあえず、わかった。海では頼りにすることにするよ、クラゲさん。


  あなたのゆくさきにさちがありますように



 黄金の精霊に会った。

 どうしても魔道具の効率が目的の値に足りなくて新しい魔導素材というか単純に魔力が通りやすい金属を探していろいろ調べた結果とある山の下にあるっぽくてちょうどその近辺にあった鉱山へこっそり侵入して奥まった廃坑道で穴掘り魔法と岩石結合強化魔法と飛行魔法と照明魔法と空間圧縮魔法を駆使してとてもつよい魔法使いにしか出来ない超強引垂直掘りをしていたら大当たり。と言っても目的の魔像素材ではなく黄金。辺り一面の黄金の塊と言っていいほど。周囲を掘れば掘るほど金を大量に含んだ石が出てくる出てくる。お目当ての物ではないけれど研究資金が増えるのは研究の進み具合に大きく影響するので本当に嬉しくて嬉しくて。出処が言えないので自分で精製しないと換金ができないけれどそれはそれとして嬉しすぎて思わず魔力ゴリ押し広域探査魔法でどこまで崩落させずに採れるか調べていたら金ラメ色の壁からニョキッと半透明な精霊様の顔が出てくるから本当にマジでビビって飛行魔法切れて穴の底に尻もちをついてめちゃくちゃ痛かったりしたけど本物じゃん精霊様じゃんこんな地下深くに居るってなんの精霊だろう地脈か岩石か地層か宝石かはたまた黄金かさてさてという思いで痛みなんて吹き飛んで。


「こんにちは、精霊様。本日は良いお日柄で」

「あなた、とても大きな魔力をしていらっしゃる。あなたなら大丈夫かもしれない。あなたに決めました。わたしはあなたにお願いをします」

「は?」


 って流れ(流れ?)で普通精霊様って無色透明でなんとなくそこ居るのが見える程度なんだけどこの精霊様は半透明だしかなり上位の精霊様なのではと思っていたら「あなたなら」のあたりからスッと全身金色に変化して色があるのって本当に特化した存在だったような覚えがあるけどそんなことどうでもいいくらい金色ってヤバイじゃん全身金色はちょっと笑うとか思っちゃったのを許してほしい。

 ゆるして。


「だめです。わたしはあなたを許しません。わたしはあなたにお願いをします。あなたにはわたしをここから連れ出してもっと魔力の豊富な土地へ移動させてほしい。わたしは金鉱脈を呼び寄せるためにここへ埋められた。強い精霊使いが居た。わたしは強い精霊使いに操られここへ埋められ固定されている。強い精霊使いがかけた固定化の魔法を解いてここから連れ出してほしい。わたしは弱まった力を取り戻すための豊富な魔力がほしい。しかしわたしがあなたから必要な魔力のすべてを引き出すことは不可能。あなたの魔力ではわたしの要求に足りない。あなたはエルフ族として、いえヒト型生物として非常に豊富な魔力量だけれど私が必要とする全魔力には到底及ばない。わたしが必要とする魔力はおよそ生物から得られる魔力量では足りないので土地から魔力を得るしか無い。しかしここではわたしの魔力は金を生むために使われてしまう。そういう契約になっている。捕まえられ、強制的に結ばれた契約。この強制的に結ばれた契約をわたしから破ればわたしは消滅してしまう。あなたを待っていた」


 なぁんて言われたらこの精霊様見かけによらず結構グイグイ来るなと思いつつもその強くて悪い精霊使いをブッ飛ばしてやろうかなと思うし今すぐここから連れ出してあげたいと思うよねっていっても実際やれば鉱山の持ち主と全面戦争だろうけど、私は負けない。私の"何人も自由たれ"という信念を邪魔をするものはすべてブッ飛ばす。だって、私は天才美少女エルフ魔法使いエリリエちゃんだから。

 幸いエルフの黒い森には地上でも空間魔力密度が非常に強い場所がいくつかある。そこへ連れて行ったらどうだろうか。私の故郷だから色々と大丈夫だと思う。そこに異常に黄金を欲しがるやつは居ないよ。


「ありがとう。わたしはあなたにお礼をします。わたしの力の一部をあなたに使わせてあげましょう。わたしたち黄金があなたと共にありますように」





 色々な国を巡った。様々な種族に会った。山を登り、海の底を歩いた。楽しかったんだと思う。いや、確かに楽しかった。道具を作った。魔法を作った。言葉を作った。目的はだいたい達成できた。

 他種族の友人もできた。少し離れているので頻繁には会えないが、今の私が飛んでいけば地上のどこに居ても日が沈むまでに顔を見ることができる。でも海中を漂っているアレだけはちょっと難しいかな。いやでも探索魔法を水中、いや海中なんだから比重を考えなきゃいけないし川と違って深さがあるし湖と違って大きな波があるから塩分濃度や温度変化も考えってそうじゃなくて。私ってすぐ考え込んじゃうんだよねほんと。これだけは二〇〇年旅をしてきたけど変わらなかったな。

 でもその旅もそろそろ終わり。

 すべての大陸を歩き、すべての海に潜り、すべての空を飛んだ。今訪れるべき場所はもう無いと思う。予知魔法は数百年先に大きな問題を予想してるけどそれはその時になったら考えよう。その時まで特にすべきこともなくなった。

 森へ帰ろう。愛しのバカどもが居るエルフの森へ。でもバカだからな……覚えてるかな。ダメだったら私が鍛えてやろう。そうすれば多少は良くなるでしょ。たぶん。基本バカだけど、いいヤツらだし。

 はて、なにか忘れてるような気がする。まぁ、いっか。





 そんなわけで天才美少女エルフ魔法使いエリリエちゃんはエルフの黒い森へ帰って来たんだよねでもちょっと色々あって色々あるから森に入ったら急いで目的の人物に順番間違えないように会わなきゃいけないのを思い出して今急いでるんだけど、旅してる間に出ていった頃と比べてめちゃくちゃに魔力が大きくなっちゃってすぐに居場所がバレるんだけどあっちょっと待って誰か来たうわ。


「あ、エリリエじゃん。結構派手な感じになった? あれ? めっちゃ久しぶりじゃない!? そうじゃん! めっちゃ久しぶりじゃん! やばい、みんな呼んでくるわ!」


 いやいやいやいや呼ぶんじゃあない!待って!


「おひさー、エリリエ。おみやげ期待してたんだけどなんかある?」

「ああー! エリリエだ! ちょっと! 出てく前に貸してた魔石のかけら返してよ!」

「おや、家出娘が戻って来たねぇ」

「わー!エリリエおねえちゃんだー!だっこしてー!」

「けっ、ようやく戻ってきたか」

「ああ、エリリエ、君のことを忘れた日は無いよ、さぁボクとともに」


 うおおお!うるさい!

 今顔を合わせてはならない人物が森にいるのは知っているんだまずは長老(まだ二千歳くらいなのでもちろん生きている)に話を通しに来ただけなんだみんなを呼ぶんじゃあない! と考えている間に! ああ!


「こんにちは。お久しぶりです。わたくしの顔を忘れたわけではありませんですよね。わたくしはあと一〇年したら会おうとあなたが言ったのを聞きましたわ。わたくしの背びれはしっかりと覚えていますよ、ええ。それがあなた今は何年だと思っているのですか、しびれを切らしてこちらから会いに来たら森に居ないし、いったいどこで何をしていたのですか。待ちくたびれましたです。言い訳を聞かせていただこうではありませんか」

「そうそうこの人魚さんめちゃくちゃキレててウケるんだけど」


 また会おうと言っていた世にも珍しい歩く人魚がキレてる。やばい。


「<ようやく来たな愚かなエルフめ。此奴等に我/我らがお前に紹介されてこの森へ来たと説明するのにどれだけ苦労したと思っておるのだ、おい聞いているか、この馬鹿共には我/我らの言語は届かぬとお前は知っていたのであろう? あの偉そうな老いぼれどもでも届かぬ。何かお前の持ち物を一つ渡すだけでずいぶんと違ったはずだ。だからお前は愚か者なのだ、大体お前はいつも……>」

「あはは!やっぱこの生き物っぽいのの言ってること全然わかんない!エリリエってこれわかんでしょ?やっぱエリリエ天才だわちょっと頭の中身わけてよ」


 不定形の友人ことうちへ招待した何かがキレてる。やばい。


「わたしはあなたからこの森があなたの住処であると聞きました。わたしはあなたに

はそう聞いてここに来ました。違うのですか? 違うのですか? 違うのですか?」

「エリリエ、この精霊の人だけはマジマジのマジでヤバイからどうにかして」


 森へ案内はしたけど放ったらかしにしていた黄金の精霊様がキレてる。超やばい。

 とやばいやばい思っていたら数少ない親友(二人)が近付いてきた。


「あっそうだ、ねぇエリリエ、ちょっと考えてたんだけどさ、最近? のあーしらエルフって害獣を狩っても畑の養分にしかしないじゃん?」


 そりゃそうだエルフは基本的に獣肉を口にすることはないよ普通は肥料として使うでしょ肉食の植物に与えたりもするしめちゃくちゃ役に立ってるじゃん食べるわけ無いじゃん。すごく古い文献では食べる習慣もあったって言われてるけどあんな古い本ほんとに正しいこと書いてあるかなんてわからないしまず疑っていいと思うよねだってあんな臭いもの、と思ったけど私は昔からわりと食べてた気がするというかめっちゃ食べてたわ子供の頃この臭みが癖になるよねとかイキりながら周囲をドン引きさせながらめっちゃ食べてたわ思い出した思い出しちゃったヤバイ奴じゃんウワー! うわうわうわ今すぐ飛んで逃げたいやばい。


「それで思ったんだけどさ」


 うん?


「あーしら葉っぱばっか食べてるからバカになるんじゃねーの?」

「天才かよ」


 いや、どうかな……





 この頃のエルフといえば、魔法使いとは名ばかりの詐欺師か手品師のような粗雑な魔法しか使えないエルフばかりで、1000年前によく聞かれたような、森を拓き、山を平らげ、草原を湖にする大魔法使いはすっかり姿を消していた。しかし元来の引出不精な体質と数万年前から伝わる原始のエルフによる森林結界により、外部では未だに『エルフとは魔法技術に優れたものが多い』という認識が広く流布していた。更に、無責任で噂好きな風の妖精たちが語る遥か昔のエルフ像がそれに拍車をかけた。それでも真実を知る者は少なからずおり、その者たちは市井で語られるエルフと実際との差に薄ら笑いを浮かべ見下していた。もっとも、"森"の外に出るエルフはある程度以上の魔法技術を持っている。そもそもある程度の戦闘能力と知識がなければ森林結界を超えることが出来ない。でなければ、侵入した愚かなヒューマンのように、しばらく森を彷徨ったのちにブーツ・ツリー(別名、首吊り蔓)によって巻き上げられ、腐った梨のように木にぶら下がることだろう。それでも、大半(と言ってもいい割合)が森林結界を超えられないエルフであることは間違いなかった。

 だが、その状況はある一人のエルフによって打開された。エリリエである。

 彼女は広く世界を巡り、土地々々の様々な種族や環境から魔法の真髄とも言える知識を学び、理を解いた。森に戻った彼女は同胞達に新たな魔法を教え、それが今現在におけるエルフ魔法の基礎となった。彼女が作り出した魔法の素晴らしいところは、全く新しい魔法を作るのではなく、遥か過去に輝いていた時代のエルフ魔法の式を取り入れて魔法を再構成したことが挙げられる。これは、一度廃れてしまったエルフ魔法を復活させたとも言え、彼女のエルフ観を伺わせると共に大きな偉業である。これにはとてつもない労力があっただろうと想像できる。魔法の再構築とは通常、魔法を作り出した本人が改良をするために行うものであり、他人が作った魔法に手を加えることはしない。というよりも不可能である。それは、すでに出来上がっている料理を崩して違う料理にするような行為であり、とても常人にできることではない。凄まじい知識と技術を兼ね備えたエリリエだからこそ可能であった。「すでにある魔法を変化させそれをきちんと機能させるのは、単純に新しい魔法を作る事に比べ一億万倍は難しい。しかし、私はできる。」とは彼女の弁である(エリリエ著、『魔法作成』第二章 "式は簡便にせよ、理はいつも単純である" より)。更に、彼女の魔法には過去の魔法と比べ非常に大きな利点があった。非常に効率が良いのである。各魔法における詳しい解説は著名な解説本が多数出回っているためそちらに譲るが、とにかく、使い勝手が良かった。あまりにも使いやすいので、まずヒューマンが模倣した。次に、彼女と親交が深かったと言われる知恵の種族ワーボ、草原の覇者テックアルーなど様々な種族、集団へと伝わっていった。果ては名を語れ得ぬ宵闇の眷属までもが模倣したと云われている。もっとも、新エルフ魔法はエルフ用の魔法として極めて完成されていたため、他種族のそれがオリジナル以上の物になることはなかったが、それでもそれぞれの種族の魔法として大きく進歩したと云われている。

 彼女の生み出した新たな魔法によってエルフの復権は叶った。冷笑を浮かべていた者たちは口を噤み、風の妖精は新たな物語を囁き、市井の者たちはエルフの魔法を目にし感嘆した。

 その偉大なる大魔法使いであるエリリエの消息はというと、全くの不明である。ある時、スウ、と空気に溶けるようにして居なくなった。あるいは、どこか遠くへ歩いていった、ドラケリオンに乗って空へと消えた、など様々な証言があり、正確な行方は杳として知れない。ただ一つ言えるのは、彼女が残したものはエルフ達にとって、いや全世界の知的生物にとってかけがえのない宝になったということだろう。


 ――『新・現代エルフ魔法』著者不明

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天才エルフ魔法使いエリリエちゃん 芥島こころ @CelsiusD6

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