絶対に飲んではいけない怪我を治すポーション

あかさや

第1話

「ふはははは!」


 宝箱を前にした俺は笑い声を堪えきれなかった。

 この宝箱に中に入っているのは、どんな病気や怪我も治すと言われる伝説のポーションである。


 俺はこの60000階層あるダンジョンに潜り、臭くて不潔なダンジョンのモンスターをぶっ殺したり、仲間を盾にしたり、見殺しにしたりしてこの33456階層にまで辿り着いた。


 俺は、やるべきことをやり遂げたのだ!

 恐らく俺は、前人未到の記録を打ち立てた者として、その栄光は永遠に語り継がれるに違いない!


「ふははははは!」


 また大声で笑ってしまった。

 駄目だ。笑いたい気持ちは抑えなくては。ここは安全エリアではない。大声で笑っていればそのうちモンスターがやってくる。それもわけがわからないくらい凶悪なモンスターどもだ。なにしろ、いまは肉壁にできる仲間を切らしているところだ。さっさとこれを回収して、33000階層にある安全エリアまで戻らなくては、安心とは言えない。


 俺は宝箱を開けた。

 その中には――金色に輝くポーションが入っている。

 これが――どんな怪我も病気も治すポーション……なんて神々しいのだろう……ここまで78人もの仲間を見殺しにしてきただけあった……。


 俺はポーションを手に取った。小さな瓶に入ったそれは、とても軽いはずなのに何故か重量感がある。これが伝説のポーションの輝きか……


「ん」


 宝箱の底にはなにやら紙片が入っていた。なんだろう、と思って手を取って見ると、そこには……


『絶対に飲むな』


 紙にはそんな言葉だけが書かれていた。

 これは一体どういう意味なのだろう? 以前にもこのポーションを手にした者がいて、そいつが残した者なのだろうか? 意図がまったくわからない。


 だが――


 飲むな、なんて言われてしまうと、飲みたくなってしまう。この階層まで降りてくる間にかなりのダメージを受けてしまったし、帰りのことを考えたらここで飲んだしまったほうがいいのでは……


「まあ、半分だけ飲んでみよう」


 俺は瓶を開けて、中身を飲む――


 その瞬間


「アバ―――――――!!!!」


 全身を強烈な痛みが貫き、なにが起こったのかわからないまま、俺の意識は途絶えてしまった。



「あ……また死んでる奴がいる」

「せっかく飲むなって警告の書き置きしてあったのに……馬鹿な奴」

「人間なんてそんなもんだよ。飲むなとか言われるとと見たくなるのさ」

「ふうん。あほくさ」


 どんな傷も治すポーション……それは圧倒的劇薬である。見つけた方は絶対に飲んではいけません。

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絶対に飲んではいけない怪我を治すポーション あかさや @aksyaksy8870

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