欠けない僕らは背徳を雨に隠す

作者 小谷杏子

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★★★ Excellent!!!

美しい雨の音が聞こえてきそうなお話でした。

異国の少年サンディと、文通を始めた主人公の村雨耕一郎。
文通の中でサンディが語る、雨の日に美しく踊る少女の話。
そのやりとりや、主人公が思い浮かべる少女の姿が、その描写がとても綺麗で、私の脳内でも、少女が美しく踊っていました。

長い間文通を続けた二人。
彼らの、彼女への想いがどうなるのか――

儚くて美しい物語です。触れてみてください。

★★★ Excellent!!!

「彼女はとても美しいんだ」
異境の少年は、弾むような筆跡で綴る。

「今年もね、雨がいっぱい降ったんだ。そうすると彼女は晴れやかに笑うんだ」
手紙からは純粋な憧憬と穏やかな恋慕が滲んでいる。

異境の少年と文通を楽しんでいた青年は、それらの手紙に綴られた少女の姿を夢想していた。日常からかけ離れた美しい夢に憧れ、導かれるように、彼は異境の村にむかった。文通相手の少年は想像と違わずそこにいた。されどすでに少女はいなかった。それから青年は、毎年少女を捜して国境を渡るようになる。

雨を願う少女の《幻想》…想像から創造された《憧憬》という偶像。夢を追い続けた先にあるものは。

想像のなかで変わっていくものと現実のなかで変わっていくもの。時の流れに曝されても変わることのない、諦めることのできなかった愚かな《純真》を、精緻に書きあげた素敵な文学です。文章の巧みさはさることながら、心の機微を丁寧にすくいあげた描写の数々が、胸に静かな余韻を残してくれます。
雨の季節に是非とも読んでいただきたい、しっとりとした文学作品でした。