暁ロマンス
琥珀 燦(こはく あき)
暁ロマンス
南の島は、正直、無いよなあと思っていた。
彼女が新婚旅行先に、二人にいちばん似合わない場所を、と笑って決めたのだ。
結婚式にこだわらなかった二人だったが、
新婚旅行には絶対行こうと決めていたのは元々、二人ともがフットワークが軽いせいか。
南国のホテルは驚くほど快適だった。部屋は全室オーシャンビューで、
僕たちはすぐにプライベートビーチに飛び出して行った。
きれいな水と戯れ、彼女は足元を滑りゆく魚たちに驚き、太陽の光を体中に浴びて、南の海を目いっぱい楽しんだ。
冷房の効いた部屋で少し眠り、夕暮れに美味しい食事とお酒を堪能した。
そして"初夜"を迎え、僕たちは情熱を爆発させるように何度も激しく優しく抱き合った。互いの存在を確かめ合うように互いの指先で、手のひらで、くちびるで、ことばで愛を刻んだ。
「愛してる」ということばをこの夜何度口にしたろう。とっくに体を知り尽くしあっていると言うのに。その度に彼女はふっくらした頬を赤らめた。その頬がまた可愛くてくちづけた。
そして、疲れてまどろむ僕たちに暁が訪れた。
彼女は目を擦って起き上がり、昨日買ったばかりのリゾートドレスに袖を通してベランダに出た。
「夜明けが始まるわ」
僕はTシャツと短パンをまとい、ベランダの彼女の横に立った。
「空がきれいなブルーですね」
「見て。下の方がもう雲が明るい」
海の水平線の際を指差し彼女が言う。
彼女の横顔の頬を雲が薔薇色に染める。そんな丸い頬が殊更にいとおしい。
ぼくたちの新しい生活が始まる。そのことをこんな美しい場所で祝えて良かったと思う。
「ねえ、朝陽って大きいんだね。オレンジがぽっかり浮かんでるみたい。すごい」
ぼくはそんな彼女を背中から抱きしめた。
暁ロマンス 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753
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