エピローグ ある満月の夜の日
「ありがとう、ございました!」
ペコの元気な声が店中に響く。
あれからいくつかの月日が流れ、私達は元の暮らしへと戻っていた。
―――――――――――――――――――――
「つまり、ペコは元通りってわけじゃないの?」
「正確にはな。上書きっていうのは呪いの上にそれを無力化する印を貼り付けただけであって完全な対処じゃない。何か異変があったらすぐにでも報告するように。」
「なるほど・・・分かった、ありがとうディンブラ」
―――――――――――――――――――――
そんな話があって気を付けて見守ってはいるけど、今のところはそんな素振りはない。
お風呂の時にも背中は真っ白で綺麗なものだし。
「しっかし、あの王様もあんな魔法が使えるなら最初から協力してくれればいいのに。そう思いませんクリスさん?」
「ははは・・・」
私を守ったプリンシパリティの一撃、あれはディンブラの話によるとおいそれと使えるものではなく、一発撃つのに膨大な量の許可がいるらしく・・・つまり、不利益とはそういう事なのだろう。
私に何かの罰があるかと思ったが、今回の問題は災害として解決されると何のお咎めもなく解放された。
「まあ、あの王様がクリスさんを守ってくれたのでそこは感謝しなくちゃですけど・・・」
ぶつぶつと文句を言いながらテーブルの食器を片付けるリデル。
彼女にも感謝しなくてはいけない。彼女はあの後壊れた街の復旧作業の手伝いに加え、私と街の人々へ事情説明で頭を下げてくれたのだ。
「本当にありがとね、リデル」
「えっ・・・もうっ、何なんですか突然」
口からこぼれた感謝の言葉にリデルは顔を赤く染め、小走りで奥のテーブルへ行ってしまった。
「ふぅ・・・そういえば今日は・・・」
私の足は自然と勝手口の方へと伸びていた。
―――――――――――――――――――――
「ペコ、月を見てたの?」
「ん♪」
空を見上げる。
私達を照らしている大きな満月。
「ここでペコと出会ったんだよね、ほんとこんな満月の夜にさ」
「・・・・・・」
「ペコ?」
「きみは、なにをみているの、うつむいて」
彼女が顔を上げる。
「しあわせな、そらにたのしげなまち、まえを、むかなきゃきづけない」
静かな空間に彼女の声が広がる。
「オレンジペコのゆうぞらに、めをほそめるきみ」
「だいじょうぶ。あなたは、しあわせにつつまれているから」
たどたどしくても、音程があっていなくとも。
それはペコが私に向けて歌ってくれた初めての、歌だった。
「であってくれて、ありがとう。お姉ちゃん」
涙があふれ出る。そういえば久しぶりに流した気がする。
私が泣いていると駆け寄ってきてくれたペコを抱きしめ、私は感じた。
私は今、幸福だって。
天使喫茶 @ieneko39
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