第14話 幸福のカタチ
ペコの背に触れる。ビクッと一瞬震えるが彼女は何も話さない。
「大丈夫、心配しないで。これからペコを元に戻すから」
「・・・・・・うん」
自分でも驚くほど落ち着いた声が出る。
そのままペコへ現在の状態とその解決法を告げる。
途中で何度か驚く素振りを見せてはいたが、ペコはただ口をつぐみ私の話を聞いていた。
「どう?ペコ。頑張ってくれる?」
「・・・・・・」
顔を上げ、周りを見渡すペコにみんなが頷きで答える。
ひとりひとりの顔を見て、最後に私へと顔を向ける。
「ほん、とうはやだ。お姉ちゃんが、みんなが、しん・・・じゃうかもしれない。」
ペコの大きな手が、優しく私をつかみ上げる。
マーマレード達が一瞬構えたが、首を振って大丈夫だと伝える。
今は何よりペコの話を聞いてあげるのが一番だ。
「でも・・・お姉ちゃんたちが、すっごく頑張って考えてくれたから。ペコも頑張りたい・・・!」
「ありがとう、ペコ。私はペコを応援することしかできないけど、ペコが戻ったらまたワッフル作ってあげるから」
「私も、すっごい大きな飴作ってあげる!」
「・・・!えへへ、頑張る!」
嬉しそうに微笑むペコ。この笑顔をまた見たい、それだけのために私は、右手を上げて作戦決行の合図をノブルへ送った。
―――――――――――――――――――――
半刻くらいだろうか。今のところ彼女の容態に変化はない。
呪文の書き換えを行なおうとディンブラ率いる天使たちが詠唱を続けている。
あと3分の1とアプリコットが伝えてくれた。
「このまま終わってくれるとありがたいのですけど・・・」
詠唱のみが響く空間で、リデルの呟きが空に消える。
私はペコの小指を抱きかかえながら願い続ける、どうか何事も無いようにと。
「Ξαναγράψτε・・・!ノブル、出番だ!」
詠唱中のディンブラが突如声を上げる。瞬間、私はペコの手から振り落とされていた。
「クリスさん!」
振り落とされた私へリデルが駆け寄る。
「大丈夫、それよりペコは―――――」
「――――――――」
まるで機械人形のよう。いつの間にか立ち上がっていたペコの目は発光し、口からは聞き取れない何かの言語があふれ出していた。
「ペコちゃん!?ペコちゃんってば!」
フローラの呼びかけにも答えるそぶりを見せない。
「ディンブラ、どういう状況だ!」
「あれは、詠唱だ。恐らく仲間、グレゴリを呼ぶ詠唱・・・!」
「・・・了解。ディンブラ、お前たちは詠唱を続けてくれ。グレゴリは私達で何とかしよう」
「正気か!天使が束になっても苦戦するものを・・・チッ、こちらの詠唱が終わるまで無限に転移してくるはずだ!それまで耐えてくれ!」
「分かった。最後にディンブラ、これを超えればぺこは元に戻るんだな?」
「そのはずだ」
一瞬顔を伏せ、何かを考えるノブル。
「・・・そうか。シェファー、頼めるか?」
「・・・!了解しましたわ、お姉様」
そう告げると、シェファーは城の方へと駆け出して行った。
「クリス!・・・お前は呼びかけてやってくれ。彼女は・・・ペコの心はまだそのままのはずだから」
「うん・・・!」
「スゥゥゥ・・・」
声の限り、叫ぶ!
「ペコ―----!!!」
「――――、――」
「今一瞬途切れました!・・・ペコちゃーーーん!!」
「―――、――、―」
「ペコ―!」
「ペコちゃーん!」
「ペコーー!!」
それぞれの声がペコへと投げかけられる。そして、その度ペコの詠唱が途切れる。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
「!!!」
ペコへの呼びかけで必死になっていて周りを見ていなかった。
いつの間にいたのか、周りは何体かのペコのように大きな・・・禍々しい天使が、グレゴリがこちらへと歩みを進めていた。
「みんな、呼びかけを続けろ!もう少しで詠唱が終わる!」
辺り一帯で街が壊れていく音がする。
家屋の2倍はあるだろう巨体が明確な意思―――詠唱を行う天使たちへ向けての殺意を持って向かってくるのが分かる。それでも、私達に出来ることはただペコに向かって
「ペコーーーーーーーー!!」
「、、―――、―」
ペコの心へ届かせるしかないから。
―――――――――――――――――――――
「くっ、侵攻が速い・・・。天使の攻撃だけで足止めが間に合うか・・・」
書き換えまであとわずか、呼びかけで侵攻は遅れているものの見渡す限りにグレゴリの群れが近づいているのが分かる。
数はゆうに20を超えているだろう。それでも、私達は。
ガラガラと私の後ろに建っていた建物が崩れる。
その後ろにはそれを壊した巨体が振りかぶって――――
「クリス!!!」
目の前が真っ白な光に包まれる―――――――
―――――――――――――――――――――
「不利益だ。代償は高く付くと思え、娘」
グレゴリほどの大きな体、しかしその姿は神聖な光に包まれている。
眼前にそびえ立っていたグレゴリの姿は既に無く、でも光はまだ輝き続けていて。
「我ではない、あの娘だ。」
「え?」
後ろ・・・ペコがいる方!
思い切り後ろを振り返る、するとそこには何も・・・いや、小さな。
見慣れた小さな体が座り込んでいた。
「ペコ!」
「お、ねえちゃ」
抱きしめる。暖かい、小さなぬくもりを。
「もう、離さないからね。ペコ」
「・・・ううん、お姉ちゃんは、ずっと、いっしょにいてくれたよ」
「ペコ・・・」
「ありがとう、ペコを、幸せにしてくれて」
半壊した街の中、みんなが、皆が見守る中で私達はお互いを抱きしめ合っていた。ずっと、ずっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます