第33話

 とある魔法医院の一室。タカシは困惑していた。


(ありのまま今起こったことを話すぜ!俺は少し前にクエストの受注がたまたま重なったパーティーにクエスト中眠り薬を持った〝豚汁〟を飲ませ意識とターゲットを奪いつつ、転生前から念願であった『騙して悪いが仕事なんでな』を去り際に決め、それが同じパーティーのエルフ、アリシアにばれてしまい、コブラツイストからの背中に鬼の顔が浮かび上がりそうなフロントチョークを決められ、歯を食いしばり過ぎて歯が欠けてしまったためしぶしぶ魔法医院という名のイメクラに来たのだが、まさかのそのフロッギーのクエストで眠り薬を盛ったパーティーの一人のシスターと鉢合わせしてしまったのだ。な……何をいってるのかわからねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった……頭がどうにかなりそうだった……)


と少し長めのここまでの回想を語り新たな読者にも分かりやすく説明を決めたところでようやく目の前のシスターに意識がいく。


「……」


 シスターも恐らくタカシの姿を忘れていないようで警戒しているのかシスター服の裾を握りしめタカシの姿をねめあげている。


(べぇっすねぇこの状況。早速見つかっちゃったんだけど。自分から姿現しちゃったんだけど。あの張り紙程度では絶対わからないしこんだけの冒険者の中でまた鉢合わせするのはないだろうとか考えてた俺が軽率過ぎた。偏差値低すぎる。い、いや偏差値10でも最近じゃ知恵の勇者になれると聞く!そんなバカでも勇者なのだ。なら俺も考えろ。Don't think, feel.)


「あのぉ……」


 真顔でその場に硬直し考えるタカシを目の前に困ったような疑惑の表情を浮かべながらシスターが声をかけてきた。


「え……はひ」


「こないだの豚汁の君ですよね?」


(ですよねー。ばれないわけないもんなぁ……)


「まぁ……そうっすね。ハハハ」


 彼女の表情は困惑から怒りの表情へと変わった。そして両裾に力がこもり、その場に立ちあがる。

タカシは思わず椅子に座ったまま硬直する。彼女はタカシの目の前まで近づくと彼女はタカシを睨み見下ろした。


(あれこの構図見たことあるな。あ、このままシスターさんが裾を握りしめたまま裾をあげれば〝嫌な顔されながらお〇ンツ見せてもらいたい〟に出てきたシチュエーションと全く一緒だ。ぶっちゃけ悪くないのでは!?)


「あの……豚汁?という飲み物おいしかったです。ありがとうございました」


「へっ!?」


思わず予想もしてない言葉に逆にあっけにとられる。恐る恐る口を開く。


「怒ってないんですか?」


「へッ?いやぁ助けて頂きましたし、美味しい飲み物まで頂いて怒るとは一体?」


「あぁ……そういう解釈なのね。いやぶっちゃけ悪質な横取り行為してたんだけど俺」


「ん?そうなんですか?」


 困り顔で手に人差し指を当て一生懸命に考えている。タカシは思う。異世界に来てからいい子とばかりしか会っていない。童貞の妄想をそのまま詰め込んだようなそんな作者のエゴを投影したかのようなそんな女性ばかりがタカシの目の前には現れる。

そして目の前で必死に考えるシスターに罪悪感を感じたタカシは白状した。


「いやあれ眠り薬仕込んであったんだよね。いや俺達も金厳しくてつい焦ってやってしまった。ほんとすみませんでしたッ!」


謝罪の言葉とともに出たのは土下座、をさらに超えた土下寝だった。

先ほどまで『騙して悪いが仕事なんでな』と腹の内は思っていたのだが不思議と感情が裏返った。

まるでどこぞの格闘漫画の主人公が自身の体を侵す毒を戦いの中で裏返すかのように。


「まぁまぁ……そうだったんですね。確かにあの後眠っちゃいましたね私たち。でも疲れもあったしおなかも一杯だったからそれでかと思ってました」


ニコニコと笑みを浮かべる彼女を前に罪悪感にさらに苛まれるタカシであった。


シスターがそのまま席に戻り、座りなおす。そして一言。


「まぁつもる話もございましょうから、とりあえず治療の後にというのはどうですか?」

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異世界に転生した俺が苦労して得たスキルは〝豚汁〟でした。 ミズキミト @kurenai44564

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