海底
オフィスのどこかで歓声が上がる。何か嬉しいニュースでもあったのだろうか。私には関係ないことだし、私のときはあんなに明るい雰囲気にはならない。
誰も気にかけてくれないし、相談する相手もいない。黙々と仕事をこなしていくだけ。
たとえ嬉しいニュースが入ってきても、報告する相手がいなくて、淡々と事後処理のように仕事をこなす。
「かなえちゃんがコンペに勝ったらしいよ」
「すごいね、それっていくら?」
「五千万円って言ってたかな?」
そんなやり取りが耳に入ってくると、舌打ちをしたくなる。
内輪で盛り上がっているのをこっちにまで持ってくるな、と思う。
「サナさん、聞きました?」と後輩の武田くんが話しかけてくる。
「うん、聞いた」とだけ答える。
武田くんはどこかで聞いてきた話を詳しくしゃべり、私はわずらわしいと感じたけど、うなづいて聞いているふりをした。
私のことを誰も認めてくれないし、褒めてくれないのに、なぜ働かなきゃならないのだろう。
楽しくない。
つまらない。
他の人たちは大したことのない実績でも表彰されているのに、私がコツコツと積み上げているものの一つ一つに目をやり、積み上げている山の大きさに気がついていない。
これから先も私は日の目を浴びることはなく、海の底から世界の明るさを羨み、遠くへと流れていってしまうのだろう。
泳ぐ気力も、私には残されていない。
頭の虫 椋木 イツキ @Ryocky
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