第8話 きまぐれに

〈まえがき〉

2ヶ月ぶりだ…お久しぶりです。

最近ちょっとした出来事がありまして、木曜日が自炊デーみたいになったところがあります。きっと清華ちゃんは毎日自炊してるんでしょうけど。

木曜日が自炊デーになってくれたおかげで、授業がないせいでだらけまくってた水曜日、買い物やら部屋の片づけやらで少しだけ活発に動けるようになりました。ありがとう木曜日。

あとすみません、今回めちゃくちゃ長いです。(当社比)


〈本編〉

 授業が無い日ってなんでこうも幸せなんだろうか。別段面白くもない先生の話を聞かなくても良し、何をどうしたらその色に染めようと思ったのか皆目見当もつかないようなチャラい髪色の人間とグループワークをする必要も無し、なんなら家から1歩も出なくたって誰からも咎められないのだ。

私は、木更津清華という人間は、一人でいることが大好きだったりする。

いや、正確には一人の時間がないと死んじゃう病だけど。

なんだかここ最近やたらと人と関わっていた。

本来ならただ先生の話を聞くだけの授業も、どういう風の吹きまわしか「隣の人と意見交換を」とか言い出すし(隣の人がいない人はどうしてたんだろう)、家には連日人が来るし、なんならここにきて急に新しい知り合いが増えたりもした。

そういうわけでなんだか本当に死にそうなくらい疲れていて、死にそうなくらい一人になりたかった。

同じ空間に誰かがいるのが嫌だと思ってしまった。

知らない人だろうが知り合いだろうが、人の顔を見るのが嫌だと思ってしまった。

人の声が、聞こうとせずとも耳に入るのが嫌だと思ってしまった。

部屋に響くのは雨と空気清浄機と扇風機の音だけ。

あとはたまにつまむじゃがりこの音と、バイトの資料を作るキーボードの音。

「あぁ~~~~幸せだ…」

多分LINEの通知もたまっているんだと思う。通知全部切ってるから知らないけど。

そういうのですら見たい気分じゃない。

…とはいえ、いい加減ベッドでパソコンを弄り続けるのにも飽きてきた。

お腹もすいてきたし。

「なんか、作ろう」

だいぶ前に見かけた雑誌に載っていた「デキる女の作り置き」。

内容は見ていないけれど、要するに作り置けばいいんでしょ。

作っていた資料のファイルを保存して、私はベッドから起き上がった。

よし。

 来週うちに来る友達にはチンジャオロースを振舞おうと思って買っておいたパプリカ(ヤツはピーマンが苦手だ)とタッパーを取り出す。

いくら結構食べる人だったとしても、さすがにパプリカを丸々2個食べちゃうほど胃袋が大きいわけない事を信じて、赤と黄色、それぞれ半分に切る。

残りの半分ずつはラップでくるんで冷蔵庫へ。

タネを取って縦に細く切って、それから横に切っていく。

タッパーにポリ袋を敷いて、その中に四角く切られたパプリカたちを入れていく。

それから浅漬けの元で浸して、袋の空気を抜きながらタッパーに蓋をして冷蔵庫へ。

作り置き一品目、完成。

「…しょっぱいものだらけになりそうだな、まぁいっか」

暑くなってきたし。

きゅうりを斜めに切ってポリ袋へ。

塩を振り入れてよく揉んで口を縛り、冷蔵庫へ。

あとで少し水で洗ってタッパーに移し替えて、水を入れれば二品目、完成。

次。

余っていた半分の人参を少し太めの細切りにする。なんだ太めの細切りって。

フライパンに油(本当はごま油がいいけど買い忘れていた)を敷いて、細切りにした人参の半分を炒める。

イイ感じに火が通ったら醤油と粉末のだしと塩と胡椒を適当に振る。

にんじんしりしり。

タッパーに詰めて、今度はすぐには冷蔵庫に入れずに粗熱を取る。

三品目、完成。

「…楽しい」

ハマりそう。作り置きってなんとなく、何日くらい作り置いていていいのかわからなくて手を出したことが無かった。

でもこれくらいの量なら3日くらいで食べきれそうだし、それくらいなら保ちそう。

お腹がすいてきたので、小皿にフライパン用のホイルシートを敷いてにんじんしりしりを半分くらい乗せる。

にんじんを炒めている時は割り箸を使っていたし、今のところ洗い物は3つしかないのでできればこれ以上増やしたくない。

まぁこれから後2つだけ増えるんだけど。

でも、2つ増えても合計5つと7つじゃ大違いだ。

しりしりを作るときに残しておいた半分の細切り人参を細かく刻んでいく。

あ、でもみじん切りはダメ。

それから、これもチンジャオロースのために買っておいたけど…筍水煮の細切りを半分出して、これも細かく刻んでいく。

あとは同上。

炊飯器に米を2合。

水を入れて、醤油を大匙3.5くらい、料理酒を大匙2.5くらい。

少しだけ混ぜたら刻んだ人参と筍を投下。

鶏肉でもあればよかったんだけど、「ガチ」の炊き込みご飯が作りたいわけでもないし、良いや。

「炊飯」を押して、休憩。

夜10時にして初めてLINEを開く。

いつもどれだけ溜めていても10件ほどしか来ない通知が20件を超えていた。

…そりゃそうか、思い返せば昨日の昼から携帯触ってないや。

しりしりをつまみながら返信していく。

ごめんって、別に誰かと一緒にいたとかじゃないから。むしろずっと一人だったよ。

水曜日?いいよ、何時にどこにいればいい?

えっ、来週ミーティングあるの?行きたくない…さぼろう?♡

あー木曜日は樫野くんが家に来るんだよね、ごめん

「…やっぱだめだ今日、疲れる」

一通り返信してから炊飯器を見ると、炊けるまであと10分。

うん、洗い物くらいはできちゃうな。

 「はぁ~~~良い匂い、最高。幸せ。このために生きてきた」

部屋中に立ち込める醤油の匂い。

今すぐ玄関と窓を開け放って近隣住民にこの幸せを自慢したい。

これを!この!炊き立ての!具入りのさくらごはんを!今から食べられるんです!!

茶碗にさっきのホイルシートを敷く。

しゃもじを濡らしてご飯をかるく混ぜる。

ほら見て、おこげ。もう最高でしょ、こんなの。

茶碗にすこしだけ多めによそって、割り箸をサラリーマンみたいに口にくわえて手を合わせる。

友達と一緒にいたり遊んだりご飯を食べに行ったり振舞ったり振舞われたりするのは嫌いじゃない。むしろ好き。

でもほら、たまにはこういう日もあっていいと思うんだ。

無いと疲れちゃうと思うんだ。

醤油味のご飯を頬張って飲み込んで、私はゆっくりため息をついた。

食べ終わったら、残りのご飯はラップにくるんで凍らせよう。

さて、明日からまた頑張ろっか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おいしいごはんがたべたいの 夏冬春秋 @torini_naritai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ