短編集

短編集【聡梓一】


「そうし、もうすぐそうしはお兄ちゃんになるからね、弟を大事にしてあげてね。」


僕と弟は4歳ちがう。物心がつき始めたころ、僕に弟が生まれた。誕生日は2日違い。名前の漢字も1文字違い。さすがに身長は僕のほうが上だけど、初めて聞いた人にとって僕らは双子と勘違いしやすいらしい。顔も、性格も似ていないのに。


おれは生まれつきか、何でもできる子であるらしい。周りからのそういう空気は、保育園にいたころから感じていた。小学校や中学校のテストはほぼ全部満点だし、高校だってトップで入った。地元に残る必要があったのだから、それも当たり前ではあったのだけれど。入学式で代表挨拶をした時の、ざわめきはなかなか壮観なものでもあった。何でもできるだけでなく、どうやらおれはかわいらしい、所謂美少年な顔であるらしいのだ。その辺をわかり始めてからおれは、わざと僕と言うようになったし、それを武器に周りの人に頼めないことなどなかった。今は流石におれというが、あの頃は本当にできないことなどなかったように思う。


過去の事のように話しているのは、今は自分がそれほどに能力を持つような人物ではないとわかっているつもりだからだ。今でもたまに、あの頃の栄光に浸りたいような、そんな気持ちになることもある。たまには落ち込むようなことがあって、過去の栄光で自分を慰めるのもいいかもしれないが、毎日やっていたって自分が落ちぶれていくだけだとわかっている。

何でもできると思っていたころとは違う。自分が何もできないのではないかと思うときさえある。

周りは、聡梓君は何でもできていいわね、うちの子も見習ってほしい、などという。

でも結局は自分の問題なのだ。自分が足ることを知らないから、いつまでも貪欲なままだから、諦めているように見えても諦めきれていないから、自分が何もできないように感じてしまう。上には上がいることを知っているから。ここまでできればいい、なんて区切りがないから。


オンリーワンという言葉を素直に受け入れきれないのだ。自分くらいの人はいくらでもいる。替えがきく。そんなことを考えるたび、自分が何かで一番にならなければいけないと、それも世界で一番と言えるくらいの、そう思う。

そうでないと、まるで自分の存在価値を見つけることができない。


例えば、おれの弟なら、誰よりも動物に好かれる。いとこの長鷹なら、自分と大事な人を守れるくらいの力がある。

でもおれは中途半端だ。他人よりすべてのことが上手にできるかもしれないが、それだけでそれ以上はない。何か一つに秀でることがない。それ1つで自分を立てられるような、自分と言えるようなものが。ただの人の上位互換でしかない。


こんなことを言っていると、そんな人たくさんいる、と言われるかもしれないが、先に言った通り自分の問題なのだ。他人が足りている、と思っていても自分では全然足りていない。そういうことなのだ。


たった4歳の差さえなければ、弟のほうがずっとおれよりも必要とされていたかもと思いさえする。そんな時に、4歳の差を喜んでしまうのだ。たった1文字違いのおかげで認識される自分がいてよかったと思うのだ。

おれは、できないわけではない。




だけど




オンリーワンより、ナンバーワンが欲しい。

自分を象徴する何かが欲しい。

弟みたいに何かに秀でていたら。




そうしておれは今日も、自分の存在価値を探し続けるのだ



































内心、何もなくなった自分を誰かに認めてほしいと思いながら

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あやしきは 澄可 かぐや @kaguya_hiba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ