その3(10)
次にカミルが気付いたのは、ベッドの上だった。体中がチクチクと針で刺されたように痛む。ゆっくりと目を開けると、目の前にレイナスがいた。これは夢か? と一瞬思ったが、目の前のレイナスはしっかりと実在していて、カミルと目が合うと安堵の表情を浮かべた。
「カミル! よかった」
レイナスがカミルの手に触れると、触れられた場所が激しく痛んだ。
「痛っ!」
カミルが声を挙げると、レイナスが慌てて手を戻した。
「ごめん。痛かった?」
「うん。痛い……」
「あんな事するから……」
「俺、倒れてた?」
「うん」
カミルは辺りを見渡した。ここは、山の家の自分の部屋だった。
「レイが運んでくれたのか?」
「そうだよ。本当にびっくりした。直接教会に入ってくるなんて、無茶すぎて信じられない」
「だって、レイがあんなところにいるのが悪いんだろ? 俺のこと避けて……。だから、意地でも行ってやろうって思ったんだ」
「馬鹿だね」
「うるさいな」
「でも、うれしかった」
レイナスが幸せそうに微笑んだ。レイナスのそんな顔が見られて、カミルも心からうれしかった。
「レイ、これからは、ずっと一緒にいよう。もう俺を置いてどこかに行ったりしないで欲しい」
「カミル……」
「俺、やっと気づいたんだ。俺は、レイのことが好きだって」
カミルの言葉に、レイナスが頬を紅潮させた。その瞳が微かにうるんでいる。
「本当に……?」
「うん」
レイナスは、両手をカミルの方に出しそうになって、慌ててそれをやめるような仕草をした。そして、
「ああ、もう! 早く治ってよ」
と言った。
多分レイナスは、カミルを抱きしめたくて、でもそれができなくて、もどかしいのだ。
カミルはその様子に笑った。
「分かったよ。早く治すよ」
カミルとレイナスは見つめ合った。レイナスが、そっと身をかがめると、カミルの唇に、触れるような優しいキスをした。
「これぐらいなら、痛くない?」
「うん。大丈夫。でも絶対、これ以上はダメだからな」
カミルがレイナスに釘を刺すと、レイナスが笑った。
「絶対しないよ」
「レイ、たまに無茶苦茶してくるから、怖いんだよ」
「なんだよ、それ。僕を信じてよ。僕は、カミルが痛がるようなこと、絶対しないから」
「本当に?」
「本当だよ」
二人は、目を見合わせて笑った。
カミルとレイナスは、これから長い時間を生きていかなければならない。この先どうなるのか、それは全く分からない。だが、レイナスと共にいる時間が、こんな幸せな時間が、できるだけ長く続けばいい。カミルはそう思った。
聖なる闇の賛歌 色葉ひたち @h-iroha
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