ゲームに転生したっていう小説はタイトル長いものが多くて、○○したけど▲▲で~~××します、っていう自己紹介文面が多い気がする!?

ちびまるフォイ

どんなに強くとも親には勝てない

「ここはゲームの中……なのか!?」


これまでの最後の記憶を順にたどっていく。


最新のRPGのログボを受け取って、

今日のランキングを確認してそれで、それで――。


けれど、間違いなかった。


累計プレイ時間3000時間をも費やした世界を見間違うはずもなく、

ここは俺が愛してやまない世界『ノーザンライト・オンライン』だ。


「ステータスオープン」


ステータスプレートを開いて確認する。

能力値は俺が育てていたキャラクターそのものだった。


といって、すでにゲームでは強くなりすぎたので、

運営から特別に作成枠を用意してもらって作ったサブアカウントのキャラ。


「さて、これからどうするか……」


ふと、目の前に人が歩いていることに気が付いた。声をかけてみることに。


「ああ、誰かこの世界を救ってくれる人はいないだろうか。

 あいつが現れてからこの世界はお先真っ暗だ」


こんなセリフのNPCいなかった。リアルプレイヤーにも見えない。


「あいつって?」


「『†リュート†』だよ。あいつが来てからというもの好き放題されて困っているんだ」


「それ俺の本アカじゃん!!」


ゲームの世界に来て、俺がサブキャラに成り代わったのと同時に

本アカは別にこの世界で動いているようだ。しかも悪役側に。


これはたぎる。


「フッ、面白い。自分を倒すための冒険、か。

 やってやろうじゃないか。この俺が世界を救ってみせる!!」


圧倒的な戦力差があることは俺が一番わかっている。

けれど、俺を一番動かせるのは俺しかいない。

能力には現れないプレイヤースキルを見せてやる。


『たかし~~!! ご飯よ~~!!』



「よし、まずは冒険者ギルドで情報を――」



『たかし~~! 早く降りてきなさ~~い!』



「……あれ?」



『たーーかーーしーー!!』


声が聞こえる。

ゲーム内の音声じゃない。これは……。


『たかしーー!!』



【 警報:親フラグが発生しました。 】


【 警報:親フラグが発生しました。 】


【 警報:親フラグが発生しました。 】



「マm……母さん!?」


ゲームの外、正確には1階から聞こえる母の声。


まずい。もしゲームが見られたら電源を切られるかもしれない。


なにせ3000時間もプレイしているだけに、

母の中ではゲームは悪として認識されている。


電源を切られれば世界を救うどころじゃない。俺が消える。


「母さん!! どうか、どうか電源は消さないで! すぐ戻るから!!」


『たかし~~! 降りてきなさ~~い』


母以上の大声で答えてもまるで反応がない。ただの母のようだ。

思えば、どれだけ大声で答えても、声が届いた試しは現実でもなかった。


「くそ! こうなったらシステムメッセージで!!」


本来はフレンド登録などに使われるシステムメッセージを自分宛てに送った。

画面にはメールのようなアイコンが表示されて、簡易メッセージが表示される。



【 今、ゲームにいるから。電源消さないで!! 】



「って、これ効果あるのか!?」


母が見て、俺がゲームの中に転生したことがわかるだろうか。

いまだにゲームを『ぴこぴこ』『ふぁみこん』と呼び、

アニメを『まんが』と呼んでいるくらいの母だ。


ソードアートオンラインも知らない母がこの状況を飲み込めるとは思わない。


すぐにコンセントぶち抜いて終わりだ。


「ダメだ! 母さんに何かを求めるんじゃなくて、

 とにかくゲームをプレイしていることを気付かせないようにしよう!」


『たかしーー! もう、なんで降りてこないのよ!』


母親の階段を上がる足音がゲーム内にも聞こえてくる。


プレイヤーとの対戦に使われる暗転魔法を何度も何度も連続で使用する。

画面は真っ暗になって、ゲーム画面も見えなくなる。


これならゲームしてるとは思わないだろう。



『たかし! ご飯できたって言ってるでしょ!』



バン、とドアの開く音が聞けえた。


「ノックくらいしろよ!!」


思わずゲーム内で叫んでしまったが、こちらからの声は聞こえない。

俺はヘッドホンでゲームプレイしていたのを思い出した。音漏れゼロ。


『たかし? いないの?』


どうかこのまま去ってください。

MPが尽きて暗闇画面が解放されれば終わりだ。


ゲーム画面が映ってしまう。


返事をしなかったことで腹を立てた母の怒りの矛先はゲームになり、

強制電源オフという核爆弾発車よりも重いボタンを押される。


「早く……早く行ってくれ……!!!」


『トイレ、かしらねぇ』


母の足音が遠ざかる。ギリギリのところでかわせた。



『あら? なんかテレビのランプついてるわね。それにファンの音もする』



「あっ……」


一気に血の気が引いた。


ゲーム機の電源はつけっぱなしだったので、電源ボタンのランプもついてるし

冷却用のファンの音もバリバリ聞こえていた。


『たかしったら、夕飯前にゲームしたらダメだって言ってたのに!

 いい加減にしなさい!! もう!!』


ついにMPが切れて暗転が解除されると、

青空の代わりに、モニターの向こうで電源ボタンに近寄る母が映った。


そして、世界は完全なる暗闇に包まれた。




ブゥゥゥン……。



目を覚ますと、自分の部屋に戻っていた。


「あれ? 戻った?」


ゲーム画面には起動中のゲームのロゴが表示され、ローディング画面へと進んだ。


「リセット……? リセットされたんだ!」


機械オンチな母は電源ボタンの近くにあるリセットボタンを押したんだ。

それでゲームはリセットされて、俺は現実に戻ってこられた。


「ああ、よかった。今度ゲーム転生するときは時間に気をつけなくちゃな」


1階に降りるとやや冷めた夕飯が用意されていた。

そして、空いたままの席を見て気付いた。


「母さん?」



そのころ、ゲームの画面には1通のメッセージが書置きのように届いていた。



『たかしへ。ちょっとお母さん世界を救ってきます。ご飯はレンジでチンしてね。母より』

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