おまけ

プロット版 本編 『雨の日の悪夢』

 当作、『病み少女と迷える男は雨の中』は、元々、2018年8月に、カクヨム主催で行われた都市伝説企画に参加する為に執筆した作品です。

 その後、大幅に加筆等の修正を加えて、今の形に仕上がりました。

 ですが、修正前もこれはこれで良い点があるかもしれないと感じたので、おまけとして企画参加時の修正前の本編を載せたいと思います。

修正前は、物語のタイトルが異なり、『雨の日の悪夢』という作品名でした。


 大きな違いは、文字数です。

 修正後が約6000字対し、修正前は企画に合わせて、約2500字の文字数でした。


 ですが、物語の本筋は同じです。

あくまで、おまけですので、ご理解下さい。


 以下、修正前の本編です。

わざわざ見る方は恐らくいないと思うので、自分用になるとは思いますが、もし興味のある方がいらっしゃれば、ご覧下さい。




 2018年8月18日、深夜、雨が激しく降り注いでいた。

 雨は、ある部屋の窓を激しく叩き、その中にいる1人の少女は、思わず耳を抑えて俯いていた。

 彼女の名前は十倉めぎ。

 彼女は、ある事情で部屋の外に出れず、体調も悪かった。

 そこに、この豪雨、音で頭痛が悪化する。

 このまま、死ぬかもしれない。

 もし、そうなら、その前にこの気持ちをどうにか出来ないだろうか。

 彼女は雨の中、そんな事を考えていた。



 8月18日、雨の中、街を歩く1人の青年がいた。

 彼の名前は花園塔矢。

 彼の人生は社会人2年目の今日に至るまで、目立った出来事こそないものの順風満帆である。

 だが、彼はそれでも現状に不満を抱いていた。

 彼自身を見てくれる人間がいないからだ。

 会社の中で求められるのは、組織の一部としての自分。

 なら、自分である必要はないのではないか。

 会社でも、そして学生時代も仲の良い人間が少なかった彼は自分自身の存在に疑問を感じており、時たま、休日に街を歩きながら、そんな事を考えていた。

 そんな彼が、休日に街を歩き、もう遅い時間なので帰宅しようとしていたその時だった。

 自身の頭に直接少女の声が響いたのだ。


「ここで、ちどがザックをオポッサム!」


 しかも、その内容が、完全に意味不明だった。

 彼は正直怪奇現象よりも、まずこの発言の意味は何だろうと考えた。

 すると、彼の脳に突然の大音量が響いたのである。


「え!?今、どこかから声が!?

 私ついにそんなにヤバい状態に!?」


 脳に直接響く大音量に頭を痛めながらも、彼はおおよその状況を理解した。

 今、自分は見知らぬ誰かと念話のような物が出来ているらしいと。

 理由はわからない。

 だが、彼は昔、幻聴を聞いたり、イマジナリーフレンドと会話する事があった。

 なので、これは念話ではなく、その一種かもしれないと考えた。


「失礼します。どなたかは知りませんが、一体何をしていたのですか?」

「えぇ…誰だか知らないけど、よく冷静に対応できるね。」

「まぁ、幻聴という可能性もありますしね。」

「あぁ、幻聴、なるほど…。」


 少女の声は、先程までのどこか楽しそうな態度とは打って変わって、どこか悲しげであったが、納得したようでこう続けた。


「まぁ、それでも良いか。

 えっとね、私、物語を考えてるの。」

「え?あれ物語だったのですか?趣味でしょうか?」

「まぁ、生きた証を残したいから考えてるってとこかな。」


 彼には、その言葉が、その言葉がカッコつけで言った言葉ではないように思えた。

 その言葉の響きが、余りに神妙であったからだ。


「それは…どういう事でしょうか?」


 少女からの返答は少し間が開いたが、確かに答えた。

 それは、彼が思うよりも深刻な内容だった。

 何でも、彼女は数年前に受けたいじめ等が原因で重く精神を患ってしまい、今は家から出ることも出来ないという。

 せめてでも、自分だけの生きた証を残したいと最近始めたのが物語を作る事らしい。


「…そうですか。」


 彼は、そう返し、ふとある事に気づく。

 自分だけの何かを今まで残していないと言うのは、自分も同じだと言う事だ。

 唯一無二に彼はなりたい。

 もし、自分が彼女と同じ境遇になったとしたら、同じような行動を取るのではないだろうか。

 彼は少女にとても共感し、強い興味を持った。

 これが、もし幻聴で無いのなら、きっと、この雨の日の怪奇現象は自分と似た彼女を助ける為に起きたものだ。

 なら自分には彼女に出来る事がある。

 彼はそう考え、こう言った。


「その物語、私に聞かせてくれませんか?」


 それを効くと彼女は、少し嫌がりながらも、嬉しさを隠し切れない様子で、自身の物語を語った。

 その物語は、途中だったが、とても面白いものであった。

 また、主役の2人は、彼女自身と彼女の友人をモデルにしており、名前はちどとめぎだと言う。

 しかし、驚いた事に、登場する友人は彼女を苛め、今の状況を作った元凶だというのだ。

 なぜ、そんな人物で考えるのか彼は聞いた。

 すると、少女はこう答えた。


「あの時は、色々思う所はあったけどね。

 時間が経ったし、元々は大好きな友達だったから。

 それに今思うと、私が鏡で見る顔とあの子のあの時の顔はどこか似てた気がしてて…あの子も追い詰められてたんじゃないかって思ったんだ。

 だから、2人とも心が追い詰められてない世界を書きたいなって思ったの。」


 少女は、微かに笑ってそう言った。


「まぁ、聞いてくれてありがとね。幻聴さん。」

「…今日は本当にありがとうございました。

 貴女の事が気に入ってしまいましたよ。

 …本当に心から。

 最後に名前を伺っても、良いですか?」


 彼がそう言うと、少女は少し恥ずかしそうにこう言った。


「白羽ちど…」



 …同日深夜。


「開けるぞ、めぎ。」

「な、何で、あんたがここに?」


 1人の男が有無を言わさず、少女の部屋のドアを開けた。

 その男は、少女…十倉めぎと昔から関わりのある従兄弟、花園塔矢だった。


「どうでも良いだろ、それより白羽ちどって知ってるか?」

「中学の時の友達だけど…何でその名前を?」

「…実在するのかよ。

 お前がいじめてたってのは?」

「な、何で、そんな事。」

「事実だったのか。じゃあ、容赦はいらねぇな!」


 そう言うと、塔矢は彼女を思い切り、殴りつけた。


「はは、懐かしいな。

 こうしてお前を殴るのも。

 今、あの子がどんな状態か知ってるか?お?

 最近は幻聴も聞かないし、お前を殴る必要は無くなったんだけどな。」


 塔矢が、再びめぎを殴りつける。


「俺は、あの子に答えをもらった気がする。

 あの子の復讐を出来るのは、俺だけだ。

 あの子はそんな事望んでないかもしれない。

 でも、俺は許せん。

 家から動けないあの子を守れるのは、世界で俺だけ。

 これが、俺にしか出来ない事だ。」


 めぎは、塔矢がちどの事で完全に狂ってしまっていると思った。

 やはり、私が悪いのか、めぎは遠い目でかつての事を思い返した。

 塔矢に殴られ続け、外にも出られない日々が続き、死ぬかもしれないと思っていたあの夏休み。

 そのストレスを、ちどにぶつける事を決めてしまったあの2年前の2018年8月18日。

 それは奇しくも、今と同じ豪雨が降り注ぐ深夜であり、この日と同じ日付であり、彼女の目は2年前と同じ目をしていた。

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病み少女と迷える男は雨の中 咲兎 @Zodiarc2007

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