One day is the day.

雨月 秋

Poet『とある一日の始まり』

昨日、遠くの空で心臓が鳴って、真っ赤な血液が飛び散った。らしい。故郷のさびれた夏が、四角い画面越しに教えてくれた。輪郭と繊細さを失った世界が、そこにはあった。窓の外の密室から、蝉の声が聴こえて、私はベッドをおりる。机の上の高層ビル群が、夏の温もりを際立たせる。弱いか、中くらいか、強いかといえば、私は弱い方が好き。三時間で終わってしまう命。それを握り捻って、永遠のものへと変える。空気が切り刻まれ始めて、今日も夏か、なんていう独り言も細切れになった。食べるものもなく、喉をうるおすものもない。長い針が12を、短い針が8を指す。のろまな私。彼らとは、どうも気が合わないらしい。せわしない細身の彼が、小声で何かを言っている。君にかまっている暇はないと言わんばかりに、背を向ける。クローゼットのドアを開けば、ハンガーにぶら下がる猫。私がこの肌に被せるのは、いつもそういうものばかり。本当のからだを隠す。右手の親指には包帯を巻いた。それは、泣き顔を隠そうとするのと、同じようなもの。トートバッグを肩にかけて、すり減ったスニーカーを履く。玄関のドアを開ければ、私を置いていこうとする夏がいた。なけなしの一歩で、外の世界へと踏み出す。これが、とある一日の始まり。

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One day is the day. 雨月 秋 @Rhyth0606

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