指輪の行方
達見ゆう
指輪の行方
皆さん、指輪は大好きですか? 大抵の女性の方は好きと答えるのではないでしょうか?
でも、年月が経つと持っている指輪はデザインなどが古くなりますね。あるいはプレゼントしてくれた彼氏と別れたり。そんな時はどうしていますか? ゴミ箱へ捨てる? リフォーム業者に依頼して作り直す? フリーマーケットアプリに出品する?
なるほど、それもありでしょう。しかし、それらの処分をするには惜しい、かといって手元に置きたくない指輪というのも存在します。
結婚指輪です。え? それは絶対に処分しないものだって? いえ、離婚してしまうと一刻も早く処分したいアイテムへと変わります。そんな指輪の行き先は「質屋」なのです。
「えー? そんな買った時は百万円もしたのですよ!」
今日も店先で怒鳴る女性がいる。この店ではありがちな光景だ。
「ですから、デザインなどにも流行があります。これは二年前の流行デザインです」
「プラチナにダイヤよ!?」
なおも女性は納得せずに抗議の声を上げ続ける。店主は気まずそうに声を落として説明を続けた。
「宝石も身につけるとわずかながら傷がつきます。それに……失礼ですがこれは結婚指輪と婚約指輪ですよね。後ろに二人の名前の刻印が入っていますと、そのまま売ることはできません」
そう指摘すると女性は気まずそうに黙りこんだ。
「こういう指輪はお客様もそうですが、大抵は質入れではなく買取り希望の方なのですが、まず売れません。宝石は外し、貴金属は溶かして新たな材料にするしかありません。そうすると、宝石や地金の原価にしかならないのです。どうしますか? 他店に行っても同じことを言われると思いますが」
恐らく何軒かはしごしていたらしき女性は観念して店主の言い値でそれらを売った。
「やれやれ」
店主は肩をコキコキと鳴らしながら、もう一度ルーペをセットして指輪のダイヤ部分を見た。典型的なダイヤが中心にはまった結婚指輪。しかし、ダイヤの中の内包物の形が気になって再確認したかったのだ。
「このハート形の内包物……あのダイヤか。これで三度目だ」
このダイヤがはまった結婚指輪を持ち込んできた女性は三人目だ。
もちろんデザインや指輪の材質はその都度変わっている。前回はホワイトゴールドの台座に収まっていたはずだ。
先ほどの女性にも説明をした通り、結婚指輪や婚約指輪は新たなアクセサリーの材料として下取りしてもらうしかない。誰だって中古の結婚指輪なんて嫌がる。刻印もあれば尚更だ。
「考えられるのは、ダイヤが新たな結婚指輪となるが、持ち主が離婚して売りに出されることを繰り返したのか。確率は低いし、俺の元へ戻ってくるなんて普通ならあり得ない。しかし、このダイヤの内包物の特徴的な形は間違いない」
すると、このダイヤはいわば呪いのダイヤかもしれない。持ち主の結婚生活を壊してしまう呪いのダイヤ。
「ホープダイヤモンドやコイ・ヌールなど呪いのダイヤは聞いたことはあるが、まさかな」
この指輪をまた下取りに出すと、結婚指輪となり自分の元へ戻ってきてしまうかもしれない。
「持ち主の結婚を壊す……ふむ」
「どうも、ジュエリー加工のヨシオカです。今回の下取りアクセサリーはございますか」
「ああ、どうも。今回はこの指輪数点と切れてしまったネックレスチェーンだ」
「はいはい、ダイヤの指輪にオパールの指輪、サファイアの指輪と十八金のチェーン三点と」
「それで一つ頼みがあるのだけど、お宅はリフォームもしていたよね」
「はい」
「このダイヤの指輪をリフォームしてもらいたいのだけど」
「おや、奥さんの持ち物ですか?」
「いや、客の持ち込んだ指輪さ。コッソリとリフォームしてカミさんにプレゼントしようかと思ってな」
「ええ? いっつも奥さんの悪口言ってたじゃないですか。別れたいけど首を縦に降ってくれないって。中古とは言え、指輪のプレゼントなんてどういう風の吹き回しですか」
「なあに、北風ばかりじゃなんだから、たまには太陽を当てないとな」
そんなのは詭弁だ。ガミガミやかましいだけの妻とこれで別れられる。店主は秘かにほくそ笑んだ。
数ヶ月後の店主の自宅。荷物を片付けている店主の妻の姿があった。
「せっかく指輪をプレゼントしてくれて夫婦仲が改善したと思ったのに、あの人が事故で亡くなるなんて」
指輪の行方 達見ゆう @tatsumi-12
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