挫創
黒弐 仁
挫創
「痛っ…!」
光夫が突然声を上げたのは、大学生生活最後の夏、思い出作りに東南アジアの某国に旅行に行き、その最終日、国の名所の一つとも言うべき熱帯雨林の中を歩いていた時のことだった。
「どうした?」
「いや、なんか、急に顔に痛みが走って…」
「ちょっと見してみ?」
光夫の顔を見てみると、左頬が少し赤くなって盛り上がっていた。
「虫に刺されたみたいだな。なんか赤くなってる。」
「げぇ~、マジかよ…。こんなところにいる虫なんてどんなものか分かったもんじゃねぇぞ。」
「だから虫除けスプレーかけてけって言っただろ。取り敢えずホテル戻ったら薬塗っとけ」
「くっそ~。痕に残らなければいいけどなぁ…。」
顔の後のことを気にしつつも、その後は特に何事もなく最終日を満喫し、帰国した。
帰国してから二週間後のこと。
その日は光夫と他二人で飲みに行く約束をしており、駅前で待ち合わせわしていた。だが、約束の時間に到着したの俺と他の二人であり、光夫は現れない。遅れるとの連絡はなかったため、少しの間待つことに決めた。
「光夫のやつ、今日のこと忘れてるんじゃねえのか?」
「いや、それはないだろ。昼にもグループトークで来るって言ってたじゃん」
「そのまま寝ちまったんじゃねえの?」
そんなことを駅前の喫煙所でたばこを吸いながら三人で話していると、
「すまん、遅くなった。」
唐突に光夫が現れた。
「遅えよ。遅れるなら連絡くらいしろよ。」
「そうだよ。一体何して…」
光夫の顔を間近で見た俺は、思わず言葉を失った。
旅行の最終日の左頬の虫刺されの跡があの時よりも明らかに大きくなっていた。色も赤黒くなっており、どう見ても普通のものではないのは明らかだった。そしてそれと対照的に顔色は悪く、少し青白い。
「み、光夫!?お前…それ…どうしたんだ!?」
「なんかあれ以来、どんどんひどくなっていってな。薬塗ったり皮膚科に行ったりしているんだけど、全然よくならなくて。」
「え、大丈夫かよ…。今日は無理せず帰ったらどうだ?」
「たかだか虫刺されで大げさなんだよ。酒飲めば治るだろ。」
「そうそう。ストレス溜め込んでるのが良くないんだよ。こういう時に発散させないとダメなんだよ。」
結局、その日は日付が変わるまで付き合わされた。だが、俺は最後まで光夫の顔の虫刺されが気になってしまいどうしても楽しむことができなかった。
夏休みが終わり後期となった。大学4年のこの時期、これから本格的に大学卒業に向けてゼミやら卒論やらが忙しくなってくるにも関わらず、光夫は大学に姿を現さなくなった。
LINEでメッセージを送っても既読はつくものの返事はこない。光夫と同じゼミの学生に聞いてみてもどうやら同じことになっているようだった。
俺はその原因が、あの虫刺されではないのかと不安に思っていた。
光夫のことを心配しつつ、卒論に追われる日々を送っていたある日のこと。突然、光夫から連絡がきた。
二人きりで話がしたい。××県○○市△△町□□まで来てほしい。日時はいつでも構わない
それだけが書かれていた。俺はなぜだかは分からないけれど、言いようのない胸騒ぎを覚えた。
次の休日に向かうという返信をすると、分かったとだけ返事が来た。
そして次の休日、たどり着いたその住所にあったのは、古い日本家屋といった感じのやや大きめの建物だった。
周りは荒れ果てた元は畑だったと思わしき空き地に囲まれており、他の家とはだいぶ距離が離れている。恐らく、光夫の祖父母の家といったところだろうか。
インターフォンは見当たらなかったため、LINEで光夫に着いたと連絡を入れるとすぐに、鍵が開いているから入ってくれという返事があった。
ドアを開けて中に入ると、中はやけに暗かった。どうやら家じゅうのカーテンを閉め切っており、また電気もつけていないようだった。
「光夫―。どこだー。」
「一番奥の部屋にいる。こっちにきてくれー」
こっちはわざわざ来てやってるんだから出迎えるくらいしてくれてもいいのに。
それにしても、光夫は一体何の目的でこんなところまで呼び出したのだろうか。
心の中で文句を吐きつつ、俺は家の奥へと向かって行った。
「遠いところ、わざわざ来てもらってすまなかったな」
一番奥の部屋で待っていた光夫の顔を目にした瞬間、俺は思わずギョッとした。
その顔には至る所に大きな赤黒いニキビのようなものができていた。特に左側がひどく、瞼の上にあるもののせいで目はほとんど開けることができないようである。よく見ると顔にだけではない。首や鎖骨の辺りにまでそのニキビは見受けられた。
「光夫!?お前、そのニキビは一体…」
「あの日、あのジャングルで刺されてから増殖が止まらないんだ。しかもこれ、ただのニキビじゃないんだ。」
「ただのニキビじゃないって、一体…」
「まぁ見てろよ」
そう言うと光夫は左の頬の挫創の一つを摘まみ、思いっきり力を込めた。すると、
ぶちっ
こっちにも聞こえるような大きい音を立ててニキビは潰れ、勢いよく膿が吹き出し、それが俺の頬にまで飛び付着した。
普段の俺だったらこの不愉快極まりないことに怒りを覚えていただろう。しかし今、目の前のことに目を奪われ、それどころではなかった。
光夫が潰したニキビから、膿と同時に別の何かが飛び出してきたのだ。暗くてよくはわからなかったが、どうやら膿のような半固形のものではなく、確かな形を持っているようだった。
「光夫…。今の、何だ?」
「自分の目でよく見てみろよ。」
そう言うと光夫は目の前に落ちたそれを指でつまんで拾い上げ、スマートフォンの明かりをかざして俺の目の前にまで持ってきた。そして、その見せられたものが何か分かった瞬間、俺は心臓が飛び出すのではないかというほどに驚愕した。
それの大きさは3mmに満たない程度で、顔のニキビと同様に赤黒い色をしている。
二本のかぎ爪のようなものがあるそれは、どう見ても何かの昆虫類の脚の一部に違いなかった。
「見ての通りだよ。このニキビの一個一個の中に虫がいるんだ。」
驚愕のあまり言葉を発することができなかった俺を見かねて光夫が口を開けた。
「きっとあの時。単に刺されただけだと思ってたのは、どうやら俺の体の中に入り込んでいたようなんだ。」
力ない声で光夫は続けた。
「い、いや。おかしいだろ!人間の体に入り込むなんて…。あの時刺されたのは一度だけだったじゃないか。だとしたら体に入り込んでいるのは一匹だけだろう?だったらこんな短期間で一気に増えるわけがないだろう!」
「あぁ。一般的な常識で考えたらな。」
その光夫のあまりに冷めた声に俺は口をつぐんだ。
「これに関しては、俺なりに色々と仮説を立ててみたんだよ。そして最終的に二つの仮説が有だという考えに至ったんだ」
「その仮説っていうのは?」
「一つ目は、こいつは人間の体に卵を産み付ける虫だということ。ある種の蜂が蝶や蛾の幼虫に卵を産み付けるようにね。」
想像するだけで吐き気を催すような話だ。とても現実のこととは思えない。だけれど、光夫はもうこれを受け入れてしまっているんだろう。じゃなかったらこんなに冷静に考察などできるはずがない。そしてその考えは俺にとある嫌な想像を生ませた。
「だけれど、この仮説は個人的には可能性が低いと思っているよ。」
「な、なぜ?」
「お前も分かっているとは思うが、このニキビ、どんどん増えていっているんだ。際限なく。それも顔にだけじゃない。」
そう言うと光夫は着ている長袖をめくり、肌を露出させた。そこには顔同様にいくつものニキビがあった。
「こいつらは皮膚の下で数を増やしては体中に散っていっているんだ。今じゃあもう上半身はニキビだらけでぼこぼこだ。恐らく下半身にまでやってくるのも時間の問題だろう。」
俺は目の前にある恐怖に、言葉を出せない。吐くのを抑えるのがやっとだ。
「あの時痛みが走ったのは確かに一回だけだった。だとしたら、卵を産み付けたり、卵を体内に持った状態でそのまま人間の体に入り込むだけならその数は、例えば何かしらの理由で幼虫が死ねば、減ることはあれど、増えていくことなんてありえないだろう。ましてやこんなに急速な勢いで。虫とはいえ、近親交配は本能的には避けているはずだ。」
「…。それじゃあ、その…、もう一つの…、仮説っていうのは一体…。」
俺は息を乱しながらも、恐怖に震える声を絞り出して訪ねた。
「仮説というよりかは、今の仮説の延長といった方が近いかもしれないけれどな。恐らくこの虫は、人や動物の体内でのみ数を増やすことのできる種なんだろう。」
…俺は光夫の言っている意味が理解できなかった。いや、意味が理解できなかったというよりも、言葉が簡潔すぎてうまく脳内で処理できなかったといった感じだ。
「要するに、普段はジャングルの中に住んでいるけれど、繁殖をするときだけ動物の体内に入り込む。きっとこれはそういう虫なんだろう。」
「い、いや。ちょっと待ってくれ!それこそおかしいだろ!一回だけ痛みが走ったのなら体に入り込んだのは一匹だけだろ!だったらそれ以上増えることなんてないじゃないか!虫といえど、雄雌あっての繁殖だろう!」
「そう。常識的に考えればな。」
恐怖に動揺している俺とは対照的に、光夫はいたって冷静に答える。
「お前はこの世にいる虫の全てを知っているか?」
「い、いや。全てなんて知っているわけないだろ。日本のものでさえよく知らないのに。」
「その通り。お前だけじゃなく、どの人間も全てなんて知っているわけがないんだよ。日々新しい種が発見され、さらには発見される前に絶滅していく種だっている。もっと言えば、発見されること自体が稀でその生態がほとんど不明のものだって存在しているはずだ。」
「…何が言いたいんだ?」
「つまり俺はたまたまその稀なものと遭遇してしまったんだってことだよ。」
二人の間に沈黙が流れる。光夫が何が言いたいのかわからない。色々と非現実すぎて頭が追い付かない。
しばらくして、光夫は再び口を開いた。
「あくまでも想像での話だけれど、俺の中にいるこいつらはきっと、動物の体内で一匹からでも数を増やしていくことができる他の種とは全く異なった繁殖方法を持っているんだよ」
「馬鹿な…。ありえない…。」
「ありえないとは?」
「どんな虫だって、俺ら人間と同じように、番いがあってこその繁殖だろう。機械が機械を作るのとはわけが違うんだぞ。こんなこと…、多細胞生物で…、ありえない…」
「…。さっきも言ったけど、お前はこの世に存在する生物全てを知っているのか?そしてそれらのそれぞれの生態を全て理解しているのか?」
俺は何も言い返すことができない。
「性別を変える魚がいるように、世の中には繁殖を行うためには人間の常識では考えられないような手段を選ぶ種だって存在するはずなんだ。お前がありえないと言うのは、あくまで人間が考え出した『常識』に囚われているからだろう。そんな『常識』なんて、いつ覆されたっておかしくはないんだよ。」
再び沈黙が流れる。こんな状態になってまでも冷静に考察を立てる光夫にはさっきから違和感しかない。それと同時に、先ほど俺の頭に浮かんだとても嫌な予想がどんどん大きくなっていく。
「光夫…。お前、これからどうするんだ?」
「…俺が今日ここにお前を呼んだのはそのことについてだよ。前置きが長くなったけど。」
俺は光夫のその後の言葉を聞きたくなかった。きっと光夫自身も俺の表情からそのことが分かっていたのだろう。少し躊躇いがあったが、光夫は続けた。
「お前には、俺が死ぬのを手伝ってほしいんだ。何度も自殺しようとしたけれど、ダメだった。死ぬことに対する恐怖を克服することができなかったんだよ。」
「何でだよ!!!」
俺の嫌な予想は見事に的中してしまった。
「こんなことで、人生を終わらす必要なんかないだろう!!そ、そうだ!!医者だ!でかい病院に行って、最先端の医療を受ければきっと…」
「もう既に行ったよ。」
光夫はなおも力なく答える。
「あらゆる治療法や薬剤を試してはみたがどれも効き目はなかった。どうやらよっぽど生命力の高い虫らしくてな。あとは一個一個ニキビを切り開いて取り出すしか方法はないらしいが、そんなことでは恐ろしく時間がかかる上にこいつらの増殖する速さを考えるととても追いつかないんだと。さらに言うと、増殖しては広がっていくから全ての居所を掴むのも不可能なんだってさ。かなり偉い医者にも見てもらったけれど、お手上げだった。さらには今の俺を使って研究を始めるとまで言い出したもんだから、病院から抜け出してあまり人目に付かないこの辺りまでやってきたんだよ。」
「だからって、何も死ぬことは…。というよりも、研究してもらえれば治療法が見つかるかもしれないだろう?」
「俺も最初はそう思ったさ。だけれどあいつら俺を救う気は一切なかったんだよ。俺を実験台にして自分たちの名声を得るための研究しかしないつもりだったんだ。そのことが分かったから俺は逃げ出してきたんだ。」
光夫は続ける。
「もはや時間の問題なんだよ。こいつらは俺が生きている限り増殖を続けるんだ。こいつらが増殖を止めるのはきっと、俺が死んでこいつらの餌になる時なんだ。虫に食われて死ぬくらいだったら俺は今のまま死んでいきたいんだよ。」
「馬鹿なこと言うな!!考え直せ!!俺と一緒にもう一度戻って治療法を探そう。」
「無理だ。無理なんだよ…。俺はもう、外を出歩くこともできないんだ。」
「…?何を言っているんだ?」
「厳密にいえば、夜の間は大丈夫なんだが、日中に外に出ると、こいつら、暴れだして、激痛が走るんだ。…。見てみろ!!」
そう言うと光夫はカーテンを思いっきり開けた。まだ日は高く、よく晴れていたために部屋には一気に日光が入ってきた。日光が光夫の顔に当たったその瞬間だった。
光夫の顔中にあるニキビが一斉にうにうにと動き出したのだ。顔の形を変え、波を打っているかのように。
「おぉおおぉぉぉぉぉぉおおぉおおぉお!!!!!!」
余程の激痛が走っているのか、光夫は唸り声をあげながら手で顔を覆い、その場に倒れこんでしまった。
「うわぁ!!!うわぁあぁぁぁあぁぁあぁぁあぁ!!!!!!!!」
恐怖に駆られた俺は結局光夫をそのままにし、その家を飛び出していった。
それから一週間が経過した。あれ以来、光夫のことが気になりつつも、自分からは連絡をする勇気も出ず、悶々とする日々が続いていた。
(光夫は一体、どうしているだろうか…。もしかしたら…もう…くそっ…!あの時、
逃げ出したりなんかせず、無理にでも説得するべきだったんだ…。)
少し落ち着こうと、大学の喫煙所でたばこを吸っていると、LINEの通知が入った。相手の名前と通知内容が目に入った瞬間、安堵と不安が俺を同時に襲った。
安堵の理由は、まだ光夫が生きているという事実。不安の理由は、そこに書かれている一言。
助けてくれ
俺は即座に大学を飛び出し、光夫がいるであろうあの家へと急いで向かった。
大学からあの場所までは約一時間ほど。道中、俺は気が気ではなく、心は休まらなかった。光夫の言っていた虫のことが気になってしょうがない。俺は途中でコンビニに立ち寄ると、念のため小さめの殺虫スプレーを購入した。こんなもので光夫の中の虫を殺せるとは到底思えないが、今は藁にも縋る思いだった。
光夫のいる家にまでたどり着くと俺はそのままドアを開けた。
許可など待っていることはできない。一刻も早く、光夫を助けねば。
家に入ると俺は靴を脱ぐのも忘れ、一番奥の部屋まで駆け抜けた。
「光夫!!大丈夫か!?」
部屋に入り、光夫の姿が目に入った瞬間、俺は全身が総毛立つのを感じた。
光夫は力なく床に横たわっていたが、その皮膚には血色がなく黄土色に近くなっていて、顔はパンパンに膨れ上がっていた。 いや、顔だけではない。体全体がはち切れんばかりに膨れ上がっている。
そして、膨れ上がっているにもかかわらず、その体の表面はボコボコと歪な形をしている。
ニキビだ…。
ニキビが余すところなく、びっしりと体全体にできているのだ。そのせいで目も満足に開けられないようてある。
「うぅ…。うぅう…。ぶふぅ…。かはっ…」
苦しそうな光夫の呼吸音で我に帰った俺は急いで光夫に駆け寄った。
「光夫!しっかりしろ!おいっ!」
「かふっ…かふっ…おぉ…」
返事をしようとはしているのだろうが、返ってくるのは苦しそうな呼吸音のみである。もしかしたら、喉の内側にもニキビがびっしりとあるのかもしれない。
「俺だ!よく見ろ!」
そう言って俺は光夫の閉じられている瞼を開かせた。そしてそこにいたものを目にした瞬間、俺は全身の血が凍りつくのを感じた。
その眼球の中には虫がいたのだ。恐らくは、甲虫と呼ばれる類いのもの。全身が赤黒い色をし、もぞもぞと動いている。
「うわぁぁぁあぁぁあぁあ!!!!」
俺が叫び声をあげると、光夫は口パクをして何かを伝えようとしてきた。その口の動きから、光夫が何を言おうとしているのかはすぐに分かった。
殺して
(くそっ。こんなことになるんだったら、あの時、まだ苦しみが少なかったあの時に光夫の言う通りにしておけばよかった…!!!)
「ごめん、光夫…。」
俺は光夫の首に手をかけ、思いっきり力を込めた。
掌から凄まじく嫌な感触が伝わってくる。
(早く…!!早く終わってくれ…!!)
光夫が受けているものとはまた違う苦しさが俺を襲う中、それは起こった。
ぶちっ…
ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち
光夫の顔中のニキビが破裂し、火山のように膿を吹き出しながら中からあの眼球の中にいたものと同じ虫が一斉に出てきたのだ。
そしてそれに続き、身体中のありとあらゆる部位のニキビも続いて破裂し、あっという間に光夫の体は虫どもに多い尽くされてしまったのだ。
俺はその光景を震えながらただ呆然と見ていることしかできなかった。
「いつっ…!!!!」
突然走った痛みで我に帰り、自分の体を見てみると、何匹かの虫が自分にも引っ付いているのに気が付いた。
「うわっ!!うわぁっ!!やめろぉ!!」
俺は必死にそいつらを振り払おうとした。
だが、よほど力が強いのか、一向に離れない。
「くそぉ!!」
俺は買っておいた殺虫剤を手に取ると奴らに目掛けて一気に噴射させた。
しかし虫どもに離れる気配はない。
どうする!!考えろ!!!このままでは俺も虫に食われちまう!!!
それだけではない。この虫どもは絶対に外に出してはいけない。もしそんなことになったら第二、第三の光夫のような被害者が表れることになってしまう。
そのような事態は、絶対に避けなければならないのだ。
考えられる時間は多くない。俺は過去の虫に関する記憶を必死に遡っていった。
そしてふと、俺の脳裏にある記憶が蘇った。小学生の時、虫眼鏡を使って太陽の光を蟻に当て、燃やすという子供ながらの残酷な遊びをしている奴らがいた。
それがヒントになり、俺はすぐに思い付いた。
殺虫剤の使用上の注意を見てみる。このタイプの殺虫剤は…確か…あった!!
火気厳禁
俺は自分の上着を脱ぎ、殺虫剤を出来る限りかけると、胸ポケットに入っていたライターで火をつけた。タバコを吸うために持っていたものだ。
殺虫剤で湿った上着は瞬く間に大きな炎の固まりとなり、その熱さに手を離しそうになるのを必死に堪えた。
その熱気にやられたのか、俺に引っ付いていた虫どもはすぐに離れていった。どうやらこの虫も火には弱いらしい。
(光夫…すまん…)
俺は再び心の中で光夫に謝ると、火のついた上着を横たわる光夫に向かって放り投げた。
火は光夫と虫どもにも燃え移り、さらに大きくなっていった。
その内、床、壁など至るところにも燃え移り、気付けば部屋の半分は炎に包まれていた。
(まずい…このままじゃ共倒れだ)
俺は自分も焼かれてしまう前に家を飛び出し、そのまま振り返らずにがむしゃらに走り続けた。
あれから2週間が経った。
俺はあの日以来、下宿先のアパートへは帰らず、ネットカフェを転々としていた。その理由は簡単だ。
「次のニュースです。××県○○市△△町で発生し、大学生一人が死亡した放火事件から今日で2週間となりましたが、未だ犯人は逃走中です。目撃情報によると犯人は二十代の男性で、被害者と何かしらの関係があった人物の可能性もあるとみて、警察は調査を進めているとのことです。」
(くそっ!!俺はあいつを救ってやったのに!!あの化け物を一掃してやったというのに!なんでこんな目に合わなきゃならねぇんだよ!!)
最早警察に捕まるのも時間の問題である。気が気ではないが、どうすることもできない。
一旦落ち着こうと、トイレにある洗面台で顔を軽く洗おうとした。
そして鏡に映った自分の顔を見てみると、右の頬にニキビができているのを見つけた。どうやら疲れきっていて今まで出来ているのにも気づかなかったようだ。
(あぁ、嫌だ嫌だ。あの悪夢のような光景を思い出しちまうよ。全く。)
ぶちっ
イライラしていたということもあり、俺は勢いよく頬のニキビを潰した。
その時だ。膿と共に何か別のものが飛び出してくるのを俺は見逃さなかった。
それはどうやら膿のような半固形ではなく、確かな形を持っているようだ。
(!?!?!?ま…、まさか!?まさかまさかまさか!!!!!!!!!!!!)
一気に心拍数が上がり、全身の毛穴から汗が滝のように吹き出した。。
飛び出たそれを、指で摘まみ光にかざしてよく見てみた。
それは極めて小さかったものの、疑いようもなく何かの虫の脚の一部だったのだ。
俺の全身から血の気が引くと同時に、頬のニキビの中で何かがもぞもぞと動くのを感じた
挫創 黒弐 仁 @Clonidine
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます