幸せなカエデ

 かえでは、花楓に、今日一日の出来事を話しました。

「とっても、普通な一日ですね」

「はい! とっても普通で、すごくたのしい一日でした!」

お兄ちゃんとご飯を食べて、朋絵さんとクラスメイトと学校に行って、好きな本が一緒の友達とおしゃべりをして、一緒にお弁当を食べて。眠くなりながら授業を受けて、放課後には海を眺めて、駅でお友達とばったり会って、アルバイトでは新しいことをやって、憧れのお姉さんと一緒に帰って。

「かえでひとりでは、できなかった、楽しい一日でした」

「私も、すぐに今日のかえでみたいにはできないと思います」

花楓も、羨ましそうに一日を思い描きます。できるならば、そうなりたいなと強く願いました。

「ありがとう、かえで。ごめんね、あとは私の番だから」

「はい。花楓」

2人は、握手をします。すると、花楓はゆっくりと消えていきました。思春期症候群によって、かえでが借りていた花楓に戻る日が来たのです。今日1日は、無理にかえでがお願いして叶えてもらった普通の1日でした。普通の、ステキな1日。

 ずっと、願っていた夢が叶ったかえでは、疲れて眠ってしまいました。すーすーと寝息を立てる表情は、とても幸せな笑顔でした。

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梓川カエデの幸せな一日。 井守千尋 @igamichihiro

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