輝かしい都会の薄暗い路地裏で、不思議なやつと出会う。

 冒頭の夜の都会の描写や主人公の感じ方がいかにも「田舎者とも都会人とも言えない半端な人間」の感じがして、最後まで読んでしまいました。面白かったです。

 私は都会とは無縁の山の中で高校卒業まで過ごしましたが、たしかに都会というのは、当時の自分にとっても夢の中にしかない場所のような気がしましたし、色々なフィクションの舞台でもあって、ときどき信じられないほど胸を打つドラマチックなこともあるのだと思っていました。

 上野駅のバルで一人酒をしていたら、頼んだ料理が思いのほか量が多く、隣の人にお裾分けしてそのまま身の上話をしながら梯子酒をした数年前の出来事を思い出しました。終電に気づいて急いでいたせいか、連絡先はお互い交換せずその一晩だけの出会いでしたが、なんだか強烈な出来事で今でもこのように思い出したりします。

 そうした出会いは高校生特有のものではなく、大人になっても十分ありうることです。まったくの異邦人に出会って、かえって自分の存在や在り方が際立って見えるようになる、ということなのだと思います。

 この作品に登場する二人も、そんな不思議な人生の一瞬を通して「新しい自分」に出会うことができたのかもしれません。