素晴らしきバイクとの日々、そして
シンカー・ワン
頭文字・K
閉塞感に苛まれた時や、訳もなく喚きたくなるような時、無性に見たくなる動画がある。
ニコ○コ動画にあるそれは、Perfumeの「DreamFighter」にオートバイがあれやこれするシーンを合わせたもので、オートバイの動きと曲のタイミングがバッチリあってる場面とかはものすごくスカッとする。
そしてニコ動名物のコメント。流れるそれらのバイク愛に溢れる事と言ったら。
全てのライダーにぜひ見て欲しい、なんとも気持ちのいい動画で、見終わると泣きたくなるし、何よりもバイクに乗って走り出したくなる。
残念なことに、この動画。削除されてしまいましたが……とほほ。
YouTubeの方に動画だけは上がっているんですが、やはりコメントが流れてこその作品。熱量は下がってました。
我が人生を振り返れば、社会人になってからは傍にはいつもバイクがあった。
楽しい時も辛い時も、嬉しい時も悲しい時も。勿論笑う時も泣く時も、いつも一緒だった。
そうオートバイとは、私にとって欠かす事の出来無い、素敵な人生の相棒なのだ。
初めて取った免許は原付で、必要にかられて取った。
当時住んでいた会社の寮が山の上にあり、自転車通勤にはその登り道がしんどかったからというのが、免許を取った主だった理由。
まー、バイクに乗ってみたいって子供っぽい憧れもありましたけどね。
幸い一発で取る事が出来、当日交付されたての免許を握り締めて予てから目をつけてあったバイク屋さんへと直行。
新車で注文したのはカワサキのAR50S。色は勿論ライムグリーン!
カワサキ者なら当たり前、でしょ?
……本音を言えば、初代ARの無駄と虚飾を廃したスパルタンさに憧れていたので、GPZ系のラインを持ったSは敬遠気味だったんですけどね。
初代を手に入れるのは難しいし、同じ形の二代目は馬力規制の憂き目にあってて味気ないしで、選択肢がこれしかなかったのが現実(苦笑)
原付き免許とったのに、何で楽そうなスクーターにしなかったのか? って疑問も湧く方もおられるでしょう。
理由は簡単です。
私はスクーターに乗れない。
免許取った当日、合格者は会場で乗車体験みたいなものをしまして、そこでゼロハンスクーターに乗ったんですよ。
10メートルくらい先にあるバイロンを回ってくるだけの事だったんですけど、私はこれが怖くて怖くて。
スクーターの乗り方とか、操作性とか、そういう一切合財がとにかく怖かった。
とにかく、オートバイというものに座って乗る、この感覚がわからなかった。
バイクはまたいでナンボでしょうが。
と、言う訳でスクーターというものは私の中ではオートバイではありません。よって、乗るという選択肢は初めからありませんでした。
ARは確か三日後には納車されてた。取りに行けたのはそれからさらに四日後で、注文してから一週間、やっと自分の愛車に乗る事が出来た。
恐る恐る跨って、寮まで帰ったのをよく覚えている。
当事50ccはまだノーヘルでオーケーだったから、風を斬る感覚がダイレクトに伝わって、自転車とは似て非なるその感覚に、これがオートバイに乗ってるという事なんだと、変にテンションが上がってた。
……半年くらいあとにノーヘル、ダメになりましたけどね。
ARでバイクのイロハを覚えた。ゼロハンにしては大きめの車格が、のちにステップアップしていく際に役に立っていたと今は思う。
二年と少しのARとの蜜月のあと、次に選んだのはカワサキKS-1。
車色はライムグリーン。他の選択はない(笑)
乗り換えた理由はいくつかありますが、ARで楽しめる事はやりつくしていたというのが一番かも。
KSはARよりも二周りは小さな車体だったけど、エンジンは同じで実にきびきび走ってくれた。
何よりも10インチタイヤは楽々足がつくという安心を与えてくれた。
立ちゴケは絶対に無い、と。←笑うなかれ。これって結構重要な事ですよ?
500キロほど走って慣らしが終わったあとにバイク屋さんのご好意でリミッターカットしてもらい、2サイクルエンジンをビンビン響かせながら、突っ走ったものでした。
ただ、その車格の小ささから、本気でとばすとかなり怖かったですが(苦笑)
車重の軽さと、小径ホイールとホイールベースの短さから来るジャイロ効果の弱さが安定感を奪ってて、全開で走る時は必死こいてハンドル押さえてましたね。
初代KSの欠点はマフラーエンド。
2ストゆえ、オイル混じりの排気をするのだけど、マフラーエンドの形状が問題で、乗り手に帰ってくるのよね。
乗ってる間は担いでたディバッグがドロドロに汚れまくった悲しい思い出が。
新型のKSRにモデルチェンジしてからはマフラーエンドが下向きになっててかなり改善されてたけれど。
そして二年後、転機が訪れる。
ARを手に入れて一年後に会社の寮を出てアパートで暮らす事になったんですが、同期入社の奴と一緒に住んでまして、そいつがいつの間にか中型免許を取り、400ccのバイクを手に入れていたんですよ。
車種はホンダのCB-1。
当事のネイキッドブームに乗って即席で作られたバイクでデザイン以外の中身はCBR400Rだからバカっ速いんだけど、どうにも頭でっかちなデザインに好みが分かれてて。
私は勿論、否ですけど。
突然現れた自分のより大きなバイクを羨ましそうに見る私に同居人の一言。
「シンカーも免許取れよ。ツーリングしようぜ」
彼はそれは熱心に口説いてくれました。
仕事しながらだって二ヶ月もあれば免許は取れるから大丈夫大丈夫とか、今から注文してけば、免許取ったらすぐ乗れるようになるぞ、とか。
幸いお金はあったので、思い立ったが吉日、善は急げということで、彼が通ったという自動車学校に入校手続きして、その帰りにいつものバイク屋さんに赴き、400ccのバイクを注文しました。
そのバイクはカワサキのゼファー。当時最も人気のあったバイク。
案の定、注文しても納車されるのに二ヶ月はかかると言われましたよ。免許の取れるだろう期間と同じ。
逆に二ヶ月で免許取れないとせっかくのバイクにも乗れないという事に。
それからの二ヶ月は大変でした。
公休の日は自動車学校で取れる時間いっぱいの実技と学科、仕事が早く終わった日も取れる学科か実技を一時間とか。
何とか無事卒業して、いざ本試験。幸いにも一発合格。バイクはもう届いていました。
ARの時と同じように取り立ての免許握り締めてバイク屋へ。
下取りにしたKS-1と別れ、いざエボニーカラーのゼファーに。
どうでもいい事なんだけど、結局ゼファーシリーズにはカワサキの象徴とも言うべきライムグリーンのボディカラーが設定される事はなかったですなぁ。
まー、設定されていたとしても似合わなかった事は想像出来ますけど(苦笑)
ゼファーを買った時、KSを下取りに出した事は未だに後悔してまして、二台所有する甲斐性があれば手元に残しときたかったですわ。
チョイ乗りにあれほど楽なバイクはなかったもの。
さてさて、教習車に乗っていたといえ、自分のものになった400ccは大きかった。
特にゼファーは一昔前のナナハンクラスの車格だったから。
その日はまだKS-1の乗り味が身体に残っていましたから、おっかなびっくりで自宅まで乗りました。
翌日からいきなり通勤に使い、その行き帰りの行程を繰り返してゼファーを身体に馴染ませる。
名車Z400FX直系の古いエンジンはゴロゴロと重くゆったりとした感じで回るけど、絶妙のハンドリングとポジショニングが生む、とても素直な操縦性は乗り手に安心感を与えて、乗っている事が心地よかった。
コイツとならどこまででも行ける。いつまでも付き合える。そう感じてました。
ですが、ゼファーに乗ってた時期はトラブル続きで、当時最高の人気車種だった事もあり、三回も盗難の憂き目に。
三回目の時、二週間くらいで何とか見つかりましたが、ひどい状態になっていた事と、盗まれる直前に車検をしていてお金もかかっていた事もあり、修理する事に心が折れてしまい、手放しました。
もしも、あの盗難が無ければ、きっと今もゼファーに乗っていた。それは断言出来ます。
ゼファーは本当に素敵な相方でした。
バイクライフの最後にはもう一度ゼファーを。とか思っていたんですけどねぇ、排気ガス対策やらなんやらで、ゼファーシリーズそのものがカタログから消えてしまいましたよ。
空冷マルチエンジンはインジェクションと相性が合わないのか、全滅したよなぁ……。
辛うじて生き残っているのはシングルだけか。それも風前の灯火だが。
ゼファーを手放したのはいいけれど、やはり生活するうえでバイクは必要だという事になり、毎度のカワサキショップへ。
その際、店頭に飾られていた目立つバイクを買う事に。
それはカワサキの徒花、KR-1S。2ストパラレルツインの250cc。
一時期レース界を席巻したタンデムツインレーサーKRの市販版、KR250で失敗してんだから止しとけばいいのに、わざわざ新設計のパラレルツインで出した2ストレーサーレプリカ。
元になる市販レーサーもないのにレプリカってなんだよ? って声が当時から出てましたなぁ(苦笑)
まぁ、そう言う訳で商売的にも大失敗した車種なんですよね、KR-1Sって。
走っている姿が見られたらその日は何か良い事があるかもと言われるくらいのレア物。
ですから安かった。中古で新車の原付くらいの値段でした。
お金が無かった事と2ストの大きいのには一度乗ってみたかったという好奇心が購入の決め手。
乗り出してから散々後悔する事になりましたが。
買った次の日に、アクセル戻したらいきなりエンジンが止まる。
信号で停車するたびにエンジンが止まる。
もうトラブルだらけ。何度バイク屋に持って行った事か。
プラグを替える、チャンバーの中に溜まるカーボンを焼く、あれやこれややってもらって何とかエンジンストールせずに走れるようにはなりました。
グズらなければKRはよく走りました。軽量ハイパワーの恩恵でひらりひらりと舞うように。
2スト特有の高回転での二重性格も乗りこなせたら楽しいものでした。
でも、この軽さとハイパワーがすなわちKRの欠点でもありましたが。
コンパクトな車体はまるでゼロハンのそれで、乗って受ける軽さもまたそれ。
その軽さは安定感を奪い、タイヤの接地感の無さの怖さといったら!
結局あれには馴染めず仕舞いでしたね。
敏感すぎるスロットルは繊細な操作を要求し、パワーはあれどトルクの細さで街乗りにはむかずで、散々でしたね。
バイクに乗ってて二回ほど「あ、死んだかな?」と思う経験をしましたが、そのひとつはKR搭乗時の事。
仕事で残業が続いていた頃、深夜近くの帰宅になり、いつもの様にいつもの帰宅ルートを走っていたら、ブラインドのコーナー抜けたら車が横になって止まっていました。
どうやら方向転換していた最中だったらしいんですが、そんな事こっちは知るかいで、コーナー抜けた直後の加速体勢、減速するには圧倒的に距離が足りず、そのままだと車の横っ腹に突っ込む事確実。
ですが、効き過ぎる事で有名なカワサキのフロントダブルディスクブレーキは最高の仕事をしてくれ、見事に速度を殺し、そしてバランスも奪ってくれました。
車には突っ込みませんでしたが、地面と激しくキスして道路に傷跡残しましたよ。
ライダーの私は途中までは何とかハンドルにしがみついてたんですが、堪えきれず振り落とされて転がってました。
ヘルメットが地面を削る音聞きながら「あー、死んだ死んだ」と変な感想浮かべてました。
地面に横になってしばらくは見動き取れませんでしたね。
どっちかの手の小指が動くの確かめて、それから全身の損傷チェックを頭の中でやって、痛むところを確認して、それからやっと起き上がれました。
大きな怪我とかはなかったんで幸いでしたね。バイクは大変でしたけど。
これでフルカウルバイクには二度と手は出すまいと誓いましたよ。
こけた時の修理費が半端ないんだもの。
結局KRは短期で手放しました。安物買いの銭失いの教訓を残して。
次に手に入れたのは、これ以上は無いという超優等生バイク、バリオスでした。
4スト4バルブ4シリンダー250cc。よく走る上に燃費もそこそこ、操縦性に癖はないしで、ホント言う事がありませんでした。
唯一の欠点はフロントブレーキがシングルディスクだったくらいでしょう。
それでもストッピングパワーに不足は無かったですけどね。
初乗りの印象は、信じられないくらいによく回るエンジンと、追従性の良過ぎるスロットル。
軽く空けただけで回転が跳ね上がるのには、正直ビビリました。
慣らし運転中だというのに、簡単に回転リミット越しましたから。
前に乗っていた2ストのKRよりも、エンジンレスポンスがよかったですよ。
2ストよりも軽く回る4ストって、いったいなんなのよ?(苦笑)
コンパクトな車体に低重心エンジンマウント、大きいけれどよく絞り込まれニーグリップしやすい燃料タンクに、広くてクッションのよいシート。
もう至れり尽くせりで、文句の着けようがなかった。
車種的には高人気でしたのであえて不人気色の赤を選んでたのですが、最終的に盗難に合い、見つかった時は原型を留めないくらいに改造されていたので手放しました。
今でももう一度乗りたいと思っているバイクです。
超優等生バリオスの次に選んだのは、同じ250ですが性格のまったく違う、250TR。
4スト単気筒のロマン車種、エストレアのバリエーションモデル。
初めは嫌がってたんですよ、これに乗るの。なんかファッション的で。
なんたら系が、オシャレな改造施して乗る。そのベース車種みたいで。
でも、250という括りで他を探すと、前出のエストレアとこれ、そしてモダートのDトラッカーやトレールのスーパーシェルパとか、デュアルパーパスのKXRシリーズくらい。
選択肢が狭すぎる! いや、ZZRとかもありましたが……。
ショップの方はDトラを熱心に勧めてくれたんですけど、車高が高すぎていざという時に怖いのでパス。
私は背は低いし脚も短いので、シート高と足つき性は重視しているのですよ。
ですので、端っからシートの高いトレールやらデュアルパーパスは論外でした。
で、最終的に250TRへ、エストレアのハンドル付けるという事で購入決定。
何でそんな事になったかと言うと、私が250TRの幅がありすぎるハンドルを嫌っていたから。
それまで乗っていた、バリオスとの対比でそう感じていたんですけど、今となっては笑い話です。
今乗っているのは、TRよりも、もっと幅広ハンドルですから。
250TRは非力で加速性も悪く、良いのはシングルゆえの燃費くらいなんですが、それも容量の少ないタンクのせいで相殺されてますしで、まるっきし良いとこ無しなんですけれど、たった一つだけ。好きだったところがありました。
それは、トコトコと走っていくところ。
なんて言うか、のんびりとあくせくせずに走るのには、とても適していたバイクだったのではないか。
手放した今は、そう感じてます。
250TRを手放すに至った最大の理由は、坂道を上る時の加速の弱さ。
アクセルを開けてもエンジンがついて来ない、前に押し出していかない。その感覚が好きになれなかった。
前のバイク・バリオスが快適レスポンス過ぎましたからねぇ、その反動はでかかった、と。
で、次のチョイスは大型二輪。
昔描いていた夢「40までに大型免許を取る」をふと思い出してから、大型二輪免許を取りまして、せっかくの大型免許、なら大きいのに乗るしかないな。TRは非力だったしちょうどいい。
と、言う事で750ccの、カワサキZR-7Sという、これまた不人気車種に。
当事のカワサキのカタログには、ネイキッド系のモデルはこれくらいしかなかったのです。
本当は、ハーフカウル無しの、素のZR-7が欲しかったんですけどね、カタログ落ちしてました。
お店の人は、中古で置いてあったZRX1200Sを勧めてくれたんですけど、大型初心者に1200は無理ですとお断りしました。
値段もあまり変わらないくらいだったので、勿体無い事したんですけど。
さてZR-7S。カウルがある事を除くとほぼ文句なし。
エンジンは名機Z650ザッパー直系の空冷2バルブ4気筒で、ゼファー同様重たげに回りますけど、排気量があるんで、モリモリ湧くトルクで前へ前へと押し出す感じが頼もしい。
基本設計が古臭い車種ですけど、逆にそれが味になってて申し分なし。
だけど、やっぱりネックはカウル。
死ぬかと思った体験その2はこれに乗ってる時にあいまして、雨中で交差点の右折レーンから直進レーンへと進路変更してきたトラックに、巻き込まれかけてひっくり返った。
こうして、これを書いているという事で一応無事だった訳ですけど、バイクの方はそうも行かず、傷だらけで痛みまくり。
修理費で、一番でかかったのがカウル代でした。
走っている時の、空気抵抗とか考えたら結構ありがたい装備なんですけどね、カウルって。
でも、いざ壊れてしまうとただの金食い虫です。
ホント、これさえなければねって何度か思いましたよ。
ノーカウルに改造しようかと思った事もありましたが、それにも結構な手間と金がかかるので断念。
重量があり安定のいい車体に接地面の大きいタイヤ、太いトルクに乗り心地のいいシート、でかい燃料タンクな上に燃費も良し、何より今では貴重な空冷4発。
しばらくは手放せそうにありません。
とはいえ、私もいい歳ですし体力的に厳しさを感じる時もあります、いずれは手放す時が来るでしょう。
でも、立ち上がれなくなるまで、自力で身体を支えられなくなるまではバイクと共にありたいと思います。
その時、私の傍らにはどんなバイクがいる事でしょう?
きっと歴代の愛車たちと同じ様に、カワサキの妙な味がクセになる、そんないい奴でしょうがね。
……なんてカッコよく締めていましたが、経済的な理由でZR-7Sは手放してしまいました。
バイクも、もう手に入れることも乗ることも叶わなくなってしまいました。
こんな形でリタイヤしてしまうなんてね。まぁ自分が招いてしまった結果ですが。
これまでありがとうバイクたちよ。キミたちに出会えて本当に楽しかった。
素晴らしきバイクとの日々、そして シンカー・ワン @sinker
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