第3話 大喧嘩
大喧嘩。
妊娠中、一番の大喧嘩はつわりの最中だった。
理由はいろいろあった。夫氏が勤務している会社の行事の打ち上げがあったり、友人と食事に行く話があったり。普段、そういうふうに出かけて行くことが極端に少ない人だから、笑顔で送り出してあげたかった。のだが、あまりにも、立て続けに夫氏が夜出掛けることが多くて寂しかった(多く見積って二週間の間に三、四回出掛けていたと思う)。
さらに、連日の吐き気や汚い我が家(体調が悪過ぎて家事全般、放棄していた)、何も楽しくない日々の連続なのに、仕事も遊びも充実しているように見える夫氏。羨ましさと恨めしさが加速度的に増えていく。
加えて、友人というのが、夫婦ぐるみのお付き合いをしていた友人で、私だけハブられ(仲間はずれの意味。ハブるって浸透してるのかな?)た形であることを、食事会の後に知ったりした。虚しくなった。
事件が起きた日の夕方だったと思う。女の子の声で電話がかかってきた。『遊ぼうよ。暇なんだもん。来てよー』というような感じの声が漏れ聞こえた。夫氏は面倒くさそうにしながらも、行ってくるわ、と言う。いやいや待て待て行っていいって言ってないし、そもそもその女誰?てか、どこ行くの?何しに行くの?妊婦の妻置いてまた遊びに行くの?しかも女のとこ?は?意味わかんないんだけど。という気持ちである。
「また?」
「じゃあ行かないよ」
「いいよ。行けばいいじゃん。もう知らない」
爆発してブチ切れて実家に帰った。すぐに夫氏から電話が来た。もちろん無視。その代わりLINEに『今は話したくない。明日以降にしてください』と連絡を入れた。関係修復と、今後の生活を快適にするために必要なことだと意を決した。一通り母と妹に愚痴り、メモ帳をひらいて嫌だったことを打ち込む。打ち込みながら泣いた。
なんで私だけ、仕事も行けないし遊びにも行けないし買い物にも行けなくて、何を食べても美味しくないし、テレビもつまらないし、ゲームも出来ないし、何も楽しくないのに、こんなにしんどくて、苦しくて、嫌な気持ちにならなきゃいけないんだろう。どうして妊娠しちゃったんだろう。なんで切迫なんだろう。なんで、誰にもわかってもらえないんだろう。なんでなんでなんで。
まだこの時期、誰かに不安を伝えることも出来ずにいた。なんで妊娠したんだろうなんて、誰かに言えるはずもなかった。本心ではないといっても、言ってしまえば、悪い方に、事態が転がってしまう気がしていた。
翌日、仕事終わりの夫氏から連絡が入り、ファミレスで会うことになった。ファミレスで冷静に文句を言い仲直りした(正直あまり覚えてない。喧嘩したという事実の方が鮮烈すぎた)。ここで、離婚することになるかもしれないと思っていたと夫氏が言っていて、いやいや引き止めろよと思ったことだけは、今も覚えている。
これはもはやただの愚痴なのだが、愛情表現も少ない上に、私が嫌だと言ってしまえば引き止めたりすることもないというのは、私が不安になっても致し方ないと思うのだが、どうだろうか?
とまあ。私たちにしてはかなりの大喧嘩だったのだが、これが後に、別の事件を引き起こすことになるとは、思いもしなかった。その別の事件に関しては、未だに私の中でも決着がついていなくて、書くかどうかは、迷っている。
私なんかでも、親になれるのかな 黒巣真音 @catnap
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。私なんかでも、親になれるのかなの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます