【物語は】
ある一隻の『帝国』海軍所属の潜水艦が、撃沈されるまでの経緯から始まっていく。前日譚では、王国海軍側の視点で物語は進んでいくようだ。バスで首都に降り立った二人。どうやら彼らに出頭命令があったらしく、その理由について憶測している。何故ならば、”いち士官の人事手続きに際して、首都まで来るように命じるのは珍しい”ことだったから。ここで、首都の様子について語られている。会話の内容などから、戦時中であることが伺える。
(””内は引用である)
【補足:個人的に分からなくて調べた用語】
哨戒(しょうかい)
敵襲に対して見張りをして警戒すること。
緒戦(しょせん)
戦争が始まったばかりのころの戦闘。
【舞台・物語の魅力】
本編に入り物語を追っていくと、主人公が首都に呼ばれた本当の理由が明かされていく。タグを見ると架空戦記とある。ことから架空の物語なのだと推測できるが、リアルさを感じる為、現実なのか架空なのか判断しづらい。それほどまでに詳しく調べ、作品にその事が活かされていると感じた。
参考資料については、あらすじの部分に記載されている。
女性採用までの経緯について。
二人の会話から、色んな背景が見えてくる。話しの流れなどが巧く、とても論理的で理解しやすい。この物語は疑問を残さないように、丁寧に描かれていると感じた。
【彼女たちの覚悟】
指揮官の覚悟。戦争というのは人と人の殺し合いである。女性であっても戦場に出れば、負傷する可能性もあるし死に至るケースもある。無傷である保証は何処にもないのだ。そして、この戦艦に乗っている指揮官は女性。共にここまで歩んできた部下たちが、これから危険な目に合うかも知れない。そう考えた時、きっと迷いが招じるに違いない。
だが戦場では、そんな甘えた考え方は許されないのである。
そして志願した以上、そうなることも考慮しているはずなのだ。
戦争は多くの犠牲を払うものであり、得るものはないように感じた。
【この物語は何故、女性の運用する駆逐艦にスポットをあてているのか?】
この物語は、単なる戦時中の一コマではない。
何故女性の運用する駆逐艦が舞台であり、そこにスポットを当てたのか?
ここが一番重要だと思われる。
女性が戦争に駆り出される理由については、誰しもなんとなく想像がつくのではないだろうか? そう、人手不足である。しかしこの物語で描かれているように、”以前から女性が戦争に駆り出されることは珍しくはなかった”とある。
つまり駆り出されるそのものではなく、”特殊な条件で集められた者”(引用)というところが重要なのではないだろうか?
【特殊な条件とは】
(ソナーに感あり 同日 一二二四時)まで読了。
この物語で一番気になったのは、特殊な条件が何を指しているのか? と、言うことである。
**この点について作者様から補足の解説をいただきました。
”以前から女性が戦争に駆り出されることは珍しくはなかった”
★引用許可をいただいております。
────文面引用
作中における女性の軍務はあくまで後方勤務にかぎられております。これは史実の二次大戦における、(ソ連を除いた)連合国側での様子を参考にした描写です。女性たちに軍が与える仕事は、補給関係や技術職といったあくまで補助的な業務でした。前線へおもむき、銃を手に取って戦うことは原則として認められておりません。だからこそ第101戦隊を編制するさいに、『特殊な条件を付与』して将兵を募ったと作中で言及しているわけです。(また史実をみてみると……すくなくとも20世紀前後の価値観では、こういった形でも女性が軍にくわわる事は異例とみられた節があります。たとえば作中でわずかに触れた、軍に勤務する女性にたいする偏見じみたゴシップ記事は資料でみたものを参考にしました)
────上記の補足をいただく以前の自分の解釈
指定の職業を集めたのではないかと推測した。
しかしここ(ソナーに感あり 同日 一二二四時)まで拝読して感じたのは、女性であることそのものが特殊な条件なのではないかということ。
いただいた解説により、女性が全戦に出ること自体が”異例”であったことを知りました。これが特殊なこととと感じなかったのは、自分が歴史をよく知らないことに加え、女性が戦うことを当たり前に感じていたからではないかと。ゲームや映画などのイメージから、その考えに至らなかったのだと思われる。
つまりこの物語では、もし女性のみで運用される駆逐艦があったなら。というIFの世界を描いているのだと感じた。
作中には女性であるが故の難点と、良い点が描かれている。ある一点においては、一概にこうとは言えない部分もあるが、女性ならではの気遣いや人間関係が、描かれているのではないだろうか? と感じた。
【物語の見どころ】
臨場感があり、ハラハラドキドキする物語である。全体的に丁寧に描かれているところは見どころの一つ。
そしてこの作品からは、いろんなことを考えさせられた。
人は意志の疎通ができるにも関わらず、思想や宗教の違いにより簡単に殺し合う生き物である。戦争は自分たちに害が及ぶ恐怖から、逃れるために始まるものではないのだろうか? と感じた。共存し合う道もあるにもかかわらず、人間は不安や恐怖からは逃れられないのだ。
そうやって男手の減った国で、彼女たちは何を想い志願兵となったのだろうか? 自分を守るため、家族を守るため、国を守るため。あるいは、愛する人を奪われた復讐かも知れない。しかし一度兵となってなったなら甘ったれたことを言いうことはできないし、生半可な気持ちで務まるものでもない。
彼女たちは、男性には劣るものの一人一人が誇りを持ち、任務にあたっている印象である。確かに、男性のみの艦とは雰囲気が違うように思う。
(乗ったことはないので、はっきりとは言えないが)
果たして彼女たちは、どのようにして道を切り開いていくのだろうか?
あなたもお手に取られてみませんか?
女性だからこその戦い方が一番の見どころだと感じました。
彼女たちの行く先を、その目で是非確かめてみてくださいね。
お奨めです。
C・Sフォレスター「ホーンブロワーシリーズ」、アリステアマクリーン「HMSユリシーズ」、雑誌「丸」を幼少の頃から読んできた私がカクヨムで出会ったベスト3に入る作品かも。(1位はエッチなやつです。)
本作は表紙カバーがボロボロになるまで読んだ「駆逐艦キーリング」を彷彿する濃い内容でした。
潮書房「丸 」 季刊Graphic quarterlyの軽巡特集で見た、軽巡「矢矧」の断末魔の画像は軍艦マニアを自称していた私でもショックを受けました。轟沈や爆沈じゃなくてボロボロに叩きのめされて沈んでいくその姿は、地獄かと思いました。
話逸れて申し訳ないです。
平和ボケした今の令和に生きる私達があの海で何が出来ただろうかと考えさせられました。
追記 2021年4月末 改訂前の原板やっと読みました、改めて良さがわかりました。
本作のジャンルはいわゆる”仮想戦記”に分類されると思われますが、荒唐無稽な歴史改変モノではなく、異世界の海上護衛戦(”王国(イギリス似)”の輸送船40隻を”帝国(ドイツ似)”の潜水艦から守る戦い)を描くという…なんとも燻し銀な物語です。
しかも苦境にある”王国”側の護衛戦隊(駆逐艦・コルベット 計7隻)に乗り込んでいるのは、みな女性の軍人達(史実の英国婦人補助空軍がモチーフでしょうか?)。そこに”狂言回し役”である男性軍人リチャード・アーサー少佐が赴任し、物語は始まります。
ハッキリ言います、この物語に色恋沙汰やお色気シーンは一切ありません!!淡々と男性であるアーサー少佐とホレイシア艦長以下の女性乗組員達の交流、そして作者様の膨大な専門知識に基づいた駆逐艦vs潜水艦といったリアルで慈悲のない戦場が描かれているだけです。この作品が故・佐藤大輔先生のRSBCシリーズ『死線の太平洋』の影響を受けて執筆されたのは間違いないと思われますが、要所要所では本家を凌ぐ程の戦闘描写が為されており、その見てきたかのような緻密さは圧巻の一言です。
ハリウッド映画のような派手さはありませんが、読了後、埋もれた歴史に立ち会ったような気分にさせてくれる作品、つい読み返したくなる私のオススメです。