第21話 秋の風が吹いて

 部屋に通る風はすっかりと冷たくなり、僕は、ヨルのことを再び思い出していた。

 ヨルが、最後に嗅いだ香りは、こんな匂いだっただろうか。 

 僕は、柔らかくも、少し乾燥した感じの草花の匂いを吸い込み、窓の外をみつめた。


 今、あなたはなにを感じていますか、というヨルの一言が聞こえたような気がした。

 風の中に、魔法の空気が含まれることを感じた。

 ここにヨルだった魔法も含まれているだろうか。ずっと解放されたかった君は、あのとき言ったように魔法となって、旅ができているだろうか。

 「僕は、今、君が空気中に散らばって、僕の回りを撫でるようにして通りすぎたのを感じています。」

目を閉じてヨルを思った。


 僕は、魔法の水の入った小瓶を開けて、それをシンクに全て流してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いま、あなたはなにを感じていますか? 三枝 早苗 @aono_halu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ