第7話

目的の場所まで近づくに連れて気配もどんどん大きくなる。まだ戦うかどうかも決まってないのに緊張しているのだろうか。


「止まって!」


 清美の声に足を止める。


「ここからは歩いていこう」


 気付かれないようにここからは歩くという事だろう。だが気配で目的の場所は近いのがわかる。

そして聞こえる爆発音。


「派手にやっているみたいだね」


 鳴り止まぬ爆発音に身体が緊張してくる。

 と、清美の足が止まったので俺も足を止める。今いる場所はビル街だろうか、ビルとビルの間から見えるのは砂塵と、砂塵からうっすらみえる高速移動する2つの影だった。

 よく目を凝らしてみると一人は宇杉君だった。もうひとりは黒のコートを来た長身の男性だった。

 

「どうなってるんだっ?」

「もうちょっと近づくかしないとわからない……!」


 ほんのちょっと話していただけで、2つの影がどちらかわからなくなった。少しづつ近づきながら2つの影が交錯するのを見る。互角なのかと思ってたが徐々に変化があった。

 もう一度目を凝らして見ると、宇杉君の攻撃の勢いが落ちている。そして。


「あっ!」


 黒コートの男の攻撃によって宇杉君は地面に叩きつけられた! あまりの勢いに砂埃が舞う。


「ゴホッゴホッ」

 

 砂埃がやっと収まり視界が見やすくなった。

 俺の目には倒れた宇杉君と少し離れた所に立っている黒コートの男だった。そして遠くには謎の物体があった。だが今は宇杉君のことだ。


「清美は誰か呼んできてくれ!」

「えっ!? ちょっとどうするの……って!」


 俺は宇杉君の元へ駆け出した! 


「おや?」


 宇杉君を守るように前に出て、黒コートの男に向き合う。戦いの邪魔をしたというのにずいぶんと笑顔だが同時に異様なプレッシャーも放っている。


「……宇杉君は、殺させない」

「っおい! 俺の……邪魔を、するなっ! どけっ!」

「おやおや、君は酷いですねぇ。彼は君を守ろうと来てくれたのに。そのボロボロの身体で何が出来るんですか?」 


 宇杉君はボロボロなのに目の前の男に対して敵対心をむき出しにしていた。対して俺は恐怖で足が動かない。


「安心してください。私は戦う気はありませんよ。というより私は[外]から帰ろうとしただけなのに、そこで寝そべってる彼が攻撃してきたので戦うハメになってしまったのです」

「戦いたくないなら…………恨まれる相手を作るんじゃ、ねえよ……」

「今は戦いたくないというだけで私は常に戦いたいのですよ。だから、あなたみたいな復讐で戦いを挑んでくれる人は大歓迎です。ま、あなたとはどこで会ったか忘れましたけどね」


 男は満面の笑顔だった。だがその言葉と表情が宇杉君の地雷を踏み抜いたと俺にもわかった。


「……け……な……! ふざけんじゃねえええええええええ!!」


 宇杉君は激昂し、ボロボロの身体を無理やり立ち上がらせる。


「! 駄目だ! その身体で戦ったりしちゃ……」

「どけっ! お前には関係ない事だ!」


 宇杉君のあまりの気迫に俺は何も出来ない。彼はボロボロの身体で黒コートの男に向き、腕を振るう! すると男に向かって風の刃が奔る!

 だけどその攻撃は躱された。


「やれやれ」

「!」


 男の声と同時に宇杉君と俺の身体が膝を付いた。

 身体が重い、どうなってるんだ?


「ではこれにて私は失礼します。私が消えたらあなた達にかかっている重力は解けますよ」

「まっ……待てっ……」


 そのまま男はまるでワープでもしたかのように一瞬で消えていった。それと同時に俺の身体も軽くなった。

 だが隣で鈍い音がした。宇杉君が倒れていたのだ。俺は側に行くが彼は何かを言っていた。


「……か…………め……」

「どうしたの!?」

「かなめの…………ところ……」


 かなめとはもしかして彼の妹の要ちゃんの事だろうか? だが彼女はどこだ周りを見渡しても見当たらない。

 不意に宇杉君の腕が弱々しく動くのが見えた。その腕の先には最初にここに来た時に見えた謎の物体だった。

 まさかそこに要ちゃんが……?

俺は宇杉君を支えて歩きながら謎の物体へと近づく。攻撃されるのではと心配もしたがそんな事はなかった。

 近くまで来ると謎の物体の正体は木や土コンクリートなどで、要ちゃんを守るように覆っていた。完全に覆っているわけではなくところどころ隙間があり、要ちゃんの様子が見えていた。

 ぬいぐるみを抱えて中央でうずくまっていた。ちょうど支えていた宇杉君が口を開いた。

 

「要……もう……大丈夫だぞ……」


 だが要ちゃんは中々出ていこうしない。


「隣の、ヤツは……何も、しないから……大丈夫だ」


 それって俺の事だろうか?俺の事が怖いのであればあんまり喋ったりして刺激するのはよくないから黙っている事にした。

 要ちゃんは顔を上げて宇杉君の事見てると、次は俺の事を見てきた。完全に目が合ってる……。あんまりニコニコするのも良くない気がする。どうすればいいんだ? と考えていると要ちゃんを守るように覆っていた壁が動き出した。それは木や土、コンクリートなので継ぎ接ぎに作った魔物のようなものだった。その魔物数体が要ちゃんを守るように覆っていたのである。

 だがその魔物達は突然魂が抜けたように動きを止めると、全て地面に崩れ落ちた。もしかしてこれが彼女の能力なのか。

 要ちゃんは宇杉君の側に来て座り込む。肝心の宇杉君は気を失っていた。要ちゃんの無事を確認出来たからだろうか。さてこのあとはどうしようか。


「おーい! 大丈夫!?」


 後ろを振り向くと、清美が助けを呼んできてくれたようだ。俺は事の顛末を伝え、宇杉君を任せることにした。


「要ちゃんも一緒に行こう」


 清美が要ちゃんに声をかける。少し間があったが歩き出した。


「さて、私達も戻ろう」

「そうだね……」


 いろいろ気になる事はあったが今は戻る事にした。あの短い時間でずいぶん濃密な時間を過ごした感じがした。

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化け物の意志 高山 流依 @jh2e36sm28

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