短い中に特殊な設定と複雑な感情をうまく織り込んで、生と死の狭間に顕現するぎりぎりの美を描いていてとても印象的でおもしろかったです。設定と山場まで過不足なく、スムーズに進める手際も見事です。主人公が淡々としているのも効果的だったと思います。時の味のするウヰスキーをいただいたような感じ、酔いました。「美」と対峙した時の心の動きや反応がもう少しほしかったような気がします。
単純に、辛いとか悲しいとか嬉しいとか苦しいとか……人は色々な感情に縛られるけれど、時として、感じていることを感じないような、絵空ごとのように思われるのに、心の底で傷ついたりすることがある。人は常に人を殺してはいけないと教わり、死を恐怖と受け止め、尸を恐る。正義の名のもとに、死を請け負う仕事に携わっていることは、それでも人の本質からすると、とても苦しいものだろう。一種の疑似体験できるような文章、生と死の狭間を考えさせられました。