第26話 接収

雅刀まさとに、レーナか。


防弾ゴーグル越しには、血を流して倒れている雅刀とどういうわけか手に銃を持っているレーナが横たわっていた。


大吾だいごは、それでもためらいなくM1AG《ガーランド》の引き金を引いた。

攻撃目標は、魔女ウィッチだった。


しかし、弾はその魔女に当たることなく、はじき返されてしまった。

そのため、大吾は続けざまに発砲しながら突撃した。


「死ね!」っと、魔女は叫んだ。


魔女からの火球と、男からの銃弾を上手く避けながら魔女に肉薄する。


「くっ!」


ガーランドが最後に吐き出した弾は、男の腹部にぶつかりねじり切った。

弾が切れたことを知らせるクリップの音を聞き、ただの棒になったガーランドを大吾は持ち替え、先端に付けたナイフで魔女の身体を削った。


まずは、魔法粒子結晶体クリスタルを持つ、右ひじにナイフを突き刺し、抜いた。

そして、そのまま魔女の腹部を裂き、大きく開かれ肌が直接露出している胸元をナイフでなぞった。

彼女の来ている赤いドレスにあかい血が染み込んでいく。

このまま、どす黒く変色して行くだろう。

だけど、今回の目的は殺人ではなく…あくまで捕縛だった。

ナイフが触れるのと同時に目が大きく開き、声を漏らしたその女性を俺は、銃床部で殴りつけた。


「…エマ!」


俺は、続けざまに男に殴りかかった。

しかし、男に刺したはずの切っ先はただ宙を突いていた。

そして、俺は背中に気配を感じると男の腕にはナイフが握られていた。

俺は、そのナイフを銃ではじき返すと男は、その場を去っていった。

辺りを見回してもどこにも居なかった。

銃を地面に放り投げ、転がっている学友をよそに本部と連絡を取った。


「…コマンドポスト。赤いドレスの女を確保した。依然として、男は逃走中…。」

「了解、そのまま任務を継続してください。」

「それと、負傷者が2名、EUの統合戦技生と男子高校生1人。男の方は、銃で撃たれている。」

「了解、医療班に回収を要請します。引き続き行動を…。」

「それと、まだ、連絡がある。」

「…なんでしょうか?」

「逃げた男はおそらく自分自身を加速させる魔法使いだと思われる。」

「…加速…ですか?」

「…ああ、だけど今夜はもう襲撃はないと考えられる。」

「それを、判断するのはあなたではありません。」

「…。」

「それでは、また、ご連絡を。」


面倒ごとのように会話は片付けられてしまった。

こんなことは、いつものことなのに今日はつらく感じた。

もうすぐ、誰かこの辺りに来るだろう。

もしくは、警察に連絡しれたのかもしれない。

けれど、どちらも起こらないというのが現在の日本だ。

そんなわけなので、俺はひとまず魔女の手と足を結束バンドで締め、ナイフで彼女の体に刻みこんだ傷跡を彼女のドレスをナイフで引き裂き、布として患部の圧迫に使用した。舌をかみ切られても厄介なので持ってきたテープをロープ状にして彼女の口に噛ませ、再び転がした。


そして、そのままレーナの方に向かった。

どうやら、彼女は軽症のようだったが、気を失っていた。


「レーナ、レーナさん?」

「…んん。」


声をかけるとわずかに目が開かれた。


「…大吾君?」

「良かった、大丈夫そうで…とりあえず、まだ、休んでて。」

「…はい。」


どうやら、俺のことを無事に認識できているようだ。

あとは、病院で精密検査を受ければ良いだろう。

幸運にも体には大きな怪我は見られない。


「…雅刀。」


地面に張り付いた血はすでに黒くなっていた。

広範囲に広がっている血の円環は、ようやく止まったように思えた。

まだ、乾燥していないその領域に足を踏み入れた俺は、雅刀に近づいた。

顔を覗くと、心なしか白く見えた。

俺は、そのまま彼に開いた穴を見つめた。

ひたすら、修復を目指している血がそこには流れ込んでいた。

…どうやら、遅すぎたのかもしれい。


「…ごめんな。」っと、軽く呟いた。


そして、また、辺りを見回した。


「…魔法粒子結晶体クリスタルが…ない?」


慌てて、辺りを見回したがどこにも無かった。

きっとあの時、男が回収したのかもしれない…。

手負いになった仲間を捨てて…。


「…してやられたのか。」


仲間を見捨てるという行為は、非情なものかもしれない。

けれど、ある種のセオリーでもある。

おそらく、彼もまたそのセオリーに従っただけだろう。


「はあ…。」っと、軽くため息をついた。

今回は、紛れもなく敗北だった。

メンバーは負傷し、あろうことか拳銃まで盗まれ、魔法粒子結晶体も手に入らなかった。

何より、民間人を巻き込んでしまった時点でもう終わりだったのかもしれない。


まだ、時間はあると思い、追跡を諦め、雅刀をもう一度確かめることにした。

相変わらず血は流れ続け…。


「…ん?」


「…いや、まさか。」


「…えっ?」


何故かは知らないが、彼に開いていた穴が塞がれていた。

弾が通り抜けた後は、服には残っているのに、身体にはそれがなかった。

奇妙なことではあるが、それは起きていた。

けれど、大吾は別段驚くことなく、他の部分も調べてみた。

しかし、どれも服が割けているのみだった。


「…はあ、聞こえるか?雅刀?」

「ん…大吾か?…何でここに?」

「いいからじっとしてろ…死ぬぞ?」

「…いや、それよりもレーナは!」

「ああ、大丈夫だ。」

「そうか…なら…良かった。…そういえば、俺、撃たれたんだっけ?」

「そうだ…。」

「治してくれたのか?」

「いや。」

「…それじゃあ、他の誰かが?」

「違う。」

「えっ…ああ、なんだ…あれは夢だったのか。」

「…。」

「そうだよな、大吾?」

「…。」

「大吾?」

「身体は大丈夫なのか…雅刀?」

「ああ、なんか身体が軽いような気が…する。」

「…。」

「なあ、俺死ぬのか?」

「…そうじゃない。」

「えっ…それじゃあ?」


使


ただ町には、風が吹いていた。







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#統合戦技生 葵流星 @AoiRyusei

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