200階くらいある複合型医療ビル

ちびまるフォイ

どんな人も同じ場所

「痛たたた……」


「どうされましたか?」


「実は頭とお腹が今朝起きた時からずっと痛くて……」


「そうですか、では頭痛でお困りなら42階の頭痛科。

 腹痛でしたら71階の腹痛科へどうぞ」


「え!? あなたが医者じゃないんですか!?」


「私はコンシェルジュ兼受付です。

 なにせたくさんの科があるので、患者さんを正しくナビゲートするだけです」


「頭痛と腹痛を同時に診てくれるのは?」


「ありません。どちらか1つに絞って、先に受診してください」


どっちも痛いがどちらかといえば頭痛のほうがひどそう。

エレベーターの42階を押すと、エレベーターの壁が外れて階段が現れた。


【ドウゾ。42階マデノ階段デス】


「歩くんかい!!」


42階のフロアにつくと、受付に駆け寄った。


「あの! 今朝から頭痛がひどいんです!」


「かしこまりました。頭痛はどの部位でしょうか?」


「ぶ、部位? どうしてそんなことを?」


「科が違うので、ご案内する必要があります。

 前頭葉が痛むのであれば、頭痛階前頭葉科。

 視床下部が痛むなら、頭痛階視床下部科。

 後頭部が痛むのであれば、頭痛階後頭部科。

 側頭部が――」


「わかりました! わかりましたから! 前頭葉でお願いします!!」


本当はそれぞれの用語が何を意味しているのかわからなかったが、

とにかくどこかを受診すれば問題の部位がわかると思った。


「かしこまりました。ではこの先を右に曲がって、左に曲がって、右です。

 移動にはこちら、院内専用の送迎車で運転をどうぞ」


「車移動!? どんだけ遠いんだよ!」


車に乗ると、底がない。


「なお、タイヤはございませんので、おみ足で進んでください」

「逆に疲れるわ!!」


汗だくで頭痛階前頭葉科に到着した。


今度はやっと白衣に身を包んだ医者が待っていた。


「では診断をはじめますね。服を脱いでください」


「はい」

「あ、下は脱がなくていいです。上だけで」


聴診器を頭に当てた医者は何度かうなづいた後に答えた。


「わかりませんね」

「わからねぇのかよ!!」


「前頭葉の問題ではなさそうです。別の科の専門ですね」


「それじゃ何科を受診すればいいですか?」


「さぁ? 私は前頭葉専門の医者ですから、前頭葉以外のことはわからんのですよ」


「まじか……」


次に視床下部科に行ってみると、同じ答えが返ってきた。


「僕にはわからんポン」


「なんかイラつくな……」


「僕は視床下部専門のお医者さんだお。

 僕がわからないということは視床下部以外の科だポン」


今度は後頭部科へと向かった。もう疲れて頭痛どころではなくなってきた。

後頭部科ではやっと手ごたえのある答えが返ってきた。


「あの、後頭部が問題であってますか?」


「ええ、頭痛の原因は後頭部ですね。どういった痛みですか?」


「どういった痛み……?」


「ズキズキとか、ドンドンとか、締め付けられるような、とか」


「締め付けられるような感じですかね」


「では、頭痛階前頭葉フロア締め付けられる科へどうぞ」


「またかよ!?」


後頭部科の医者が示した場所には専用の滑り台が科ごとに並んでいた。

ズキズキ科へ行く滑り台から、ポンポン科への滑り台まである。


頭痛のピークに達していたのもあり、我慢の限界だった。


「もういい加減にしてくれ! なんでこんなに細分化されてるんだ!」


「そうはいっても、医者は人手不足なんですよ。

 何でもできる医者1人を用意するくらいなら、

 1種類の知識なら持っている医者を何十人も用意するほうが楽ですし」


「もういい帰る!!」


ビルを出た時、複合医療ビルが地震で大きく揺れた。


「うわわわ?! な、なんだぁ!?」


ぐわんぐわんとビルは大きく左右に揺れて、

振り落とされるように窓から医者たちが飛び出してきた。


「痛たたた……! これは完全に骨が折れてる!

 それに心臓も痛いし、頭も痛い! 足は動かないし……誰か助けてくれ!!」


けがをした医者は慌てて助けを呼んだ。

医療ビルの近くに落ちたのが幸いですぐに担ぎ込まれた。





「ではまず、11階の骨折科の受診をお願いします。

 心臓も痛ければ、25階の心臓科。頭痛科は42階になります。

 足に関しては地下31階になります。そのほかご案内は必要ですか?」



医者はすべての階を回る前に、霊安室へと運ばれた。

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