Scene 2 柏崎 葛

 柏崎かしわざき かずらという人間を見ていて思うのは、彼がどれ程優しいのか、ということに尽きる。

 今朝だって、突然押し掛けてきた上にかなり無理な頼みごとをしたあたしを、無下に扱いはしつつもこうして学校まで送ってくれた。

「ほれ着いたぞ愛洲あいす。降りろ」

「はい、よっと」

 スカートを翻しながら、ひょいと自転車の荷台から降りる。中に体育のための短パンを穿いているので、周辺の視線は気にしない。

「ほら、鞄」

「お、さんきゅ」

 自然な動きで鞄を渡してくる柏崎。指先が触れてしまって、あたしの意思に関係なく鼓動が早まる。

 ……彼に対するこの感情は、いったい何なのだろうか。

 友情か、恋情か、愛情か。

 わからない。否、わかりたくない。だって理解してしまったら、その感情と向き合わなければならなくなるから。あたしはその辛さに耐えられないだろうから。

 だから、いまはまだ、知らないままでいい。

「送ってくれてありがと」

「おう。お前はもうちっと遠慮ってもんを覚えたほうがいい」

 こうして、憎まれ口をたたかれるような関係のままで。

 いいのだ。

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赤信号 携帯電話 終夜 浮左志知 @TakeharaKaduki

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